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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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ナイダとの模擬戦

(へぇ、魔術学院の子がナイダの相手とは……ナイダのヤツ、他の子とは一切していなかったのにどういう変化かね)


ベルを持った女性はほくそ笑みながら両者に問いかける。


「二人とも準備はいいかい!」


そうするとナイダと魔術学院の男の子から返事がくる。


「大丈夫」

「大丈夫です」


その返事を聞き、お互いに構えているのを見て声を張る。


「それじゃ行くよ!」


チリン、とベルを鳴らす。勝負開始だ。


(さて、魔術学院の子。ナイダは一筋縄じゃいかないよ)




「ふっ!」


まずはナイダが両手持ちで突進してくる。斜めに構えたそれを自分の前で上に振り上げると、思いっきり振り下ろしてくる。


(直撃したら不利だな)


木刀を受け流すように下に向け、身体を横にずらしながら斜めに受けきる。そしてその回転の勢いでナイダに横振りを仕掛ける。


「甘い」


着地したナイダがそれを思い切り木刀で叩き落とすように振り下ろすと、そのままこちらに迫ってくる。

一旦木刀を捨てて横に回避すると、即座に木刀を拾う。そしてそのまま背後から突きを仕掛ける。

それが避けられると、後ろを向いたまま自分がやったように回転しながら横薙ぎに木刀を振るってくる。


「まだまだっ!」


それを敢えて縦にした木刀で受けると、じりじりとナイダの横を回る。それで不利を悟ったのか、一旦木刀を引いて今度はこちらに素早く正面を向くようにして縦に振り下ろしてくる。

それを距離をとるように後ろに飛ぶと、突撃せずに様子を見る。


「流石。突撃してきたら叩き落とすつもりだったのに」

「ありがとう」


互いに仕切り直しとばかりに元の位置に戻ると、ナイダが話してくる。


「ここからは魔法も使った私の全力。貴方の力……見せて」

「お手柔らかにね」

「こちらこそ」



(驚いた。ナイダの力と技を戦いながらそのまま反撃するかい。これで武術学院じゃなくて魔術学院なんだからおそろしい子がいたもんだ)


ベルを鳴らした傍観者は驚く。ナイダはその力と知恵で下手な上級生よりも強い存在だ。それを難なく受け流して戦う魔術学院の生徒は余程身体も鍛えていると見える。


(さて、仕切り直しかい。魔法といえば魔術学院の本分。どんなものが飛び出してくるかね?)



「行くよ」


その言葉と共に、左に右に。風を纏わせたナイダが移動しながら近づいてくる。

左から来た高速の一撃を、自分は岩の盾を顕現させて防ぐ。

そのままぐっと上に弾くように動かし、盾で攻め立てるように押したり、殴るようにしたり。その合間に剣を槍のように突く。


「流石。でもこれなら?」


そう言うと一旦引いて、風を木刀に纏わせてそのままジャンプし、前方に回転する。

暴風がこちらへと飛んでくる。木刀を地面に突き刺すと、あえてその場から離れる。


「……っ!?」


暴風が晴れた時、ナイダは木刀だけ刺してあるその場所を見て周りを探すように見渡している。


「せいっ!」

「囮っ!」


気づくのが遅かった。暴風が目眩しだと思った自分はそれを利用し、横で屈んでいたのだ。そして見渡すと同時に突進。盾で殴りつける。


「くっ!でも……!」

「勝負あり、かな」


殴られて飛び退いてナイダに木刀を素早く引き抜くと彼女と同じように風を体に纏わせて移動し、首元に素早く木刀を突きつける。


「……私の負け。貴方はやはり強い」

「ナイダこそ強いよ」



(……ナイダが負けた!?)


驚きながらも今の勝負を振り返る。

ナイダが突進し、それを彼が恐らく顕現系統の岩の盾でガード。それを察した彼女が暴風で目眩しした後に突進して終了、のはずだったのだろう。

しかし彼は暴風に臆することも惑うことも無く、逆にナイダの意図を読んで策を利用した。

そして最後に距離を離すと、自己に風を付与して距離を詰めて降参させた。

身体が歓喜で震える。あのナイダを魔法が本分の魔術学院の生徒が打ち負かしたのだ。まだまだナイダは強くなれる。

そこまで考えて、ようやっと自分の役割を思い出した。


「勝負あり!そこまで!」



「ナイダ……強いな……」

「息切らしてないレテに言われたくない……」


感嘆する自分と少し息を荒くした彼女。そこにぱちぱちとベルを鳴らしてくれた女性が近づいてくる。


(ん?さっきはナイダが親しそうだったし自分もよく見てなかったけど……友達って感じじゃないな?)


身体が自分達よりもわりかし大きい。そんなことを思っているとナイダに女性が話しかけた。


「いきなり魔術学院の生徒に勝負を仕掛けたと思ったらアンタが負けるとは思わなかったよ!これで武術学院じゃないんだから末恐ろしいね?まだまだ強くなれるってことだ!」

「私はまだまだ強くなれる。彼はライバルだから。だからこれからもよろしく。『先生』」

「……えっ」


話し方がフランクすぎて気が付かなかった。先生?先生だと?


「あぁ!魔術学院の子だから私のことは知らないよね。武術学院一学年Sクラス担任、且つ武術学院の学院長のミカゲだ。よろしく!」


豪快な人だ。その勢いに若干押されながらも挨拶をする。


「レ、レテと言います。よろしくお願いします。」

「レテ君、レテ君……あぁ!思い出した!こっちでも噂になった『顕現の神童』かい!なるほどね!いやぁ、いいものを見させてもらったよ」


噂になっているのかそのあだ名、と思いながらも頷く。


「その様子じゃ武術にも精通しているみたいだね。ナイダの後学のために魔術と武術を合体させた技とかないのかい?」

「先生、それは……」


無いんじゃないか、と言おうとする彼女を制して言う。


「ありますよ。……ただし、ここだけの秘密にしてくれるならですが」


そう言うと納得したように大きく頷くと、ミカゲ先生が言う。


「なるほど。秘技ってわけかい。あいわかった。堪能させてもらおうか」

「ありがとう、レテ」


そう言われると、早々に手に顕現させた剣を持つ。


「では御二方、心……というか風に飛ばされないように」

「分かった」

「あい了解した」


了承が取れたところで詠唱する。


「……風流」


風が周囲を覆うように竜巻のように発生する。これは他の生徒に見られないためでもある。


「おおぅこれはなかなか……」

「……凄い」


「……雅」


周りの景色が夜の繁華街ともとれる美しさに変わっていく。これには二人とも驚いているようだ。


「風景が……変わった?」

「空間侵食だって……?いや、これがただの魔術……!?」


「……舞うは桜の花吹雪」


そう言うと桜の木が立ち並ぶ。周りを囲むようにして立ち並ぶそれを見ながら、自分は大きく剣を振り上げて高らかに宣言する。


「一刀!千本桜ッ!」


振り下ろした剣から二本の桜の花弁の螺旋が飛んでいく。

更に言葉通り、舞い散る桜の花弁さえも刃になる。的がないので地面に突き刺しているが、ザクザクと突き刺さっている音がしている。

それを全て終えると、剣を一振して周りを元に戻す。唯一、夢じゃないと確信させるものは地面に桜の花弁が突き刺さった跡だった。


「……こりゃ、たまげたね。秘密にしたいわけだ。見せてくれてありがとうね」

「一種の絶技。魔術と武術を兼ね備えた、ある道の極地」

「……まぁ、そうとも言えるね。ありがとうございました」


礼をしながら、次の生徒が来る前に訓練場を三人で去った。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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