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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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七日間休み最終日

「ん……」


朝起きると、日差しが窓から差し込んで床を照らしている。伸びをしようとしたところで、身体が動かないことに気づく。


「……ああ、シア。起きて。朝だよ」

「んぅ……?」


優しく語りかけると、シアも目を開けてこちらをパチリと認識する。


「……えへへ、おはよう。レテ君」

「ふふ。おはよう、シア」


何かおかしかったろうか。だけれど笑いながら起きるのは悪くない。シアがそっと手を離すと、二人してんーっと背伸びをする。


「どこに行っても二人で寝てるね、私達」

「確かにな……」


苦笑しながら顔と口を洗おうとして、洗面所の場所がわからないことに気づく。


「……洗面所どこだ?」

「えっとね……あれ、風呂には備え付けられて無かったから……あれ?」


結局二人してドアの外に出て、朝から掃除しているメイドさんに場所を教えてもらったのであった。



「失礼します。来客用の部屋にてレイン様が共に朝食を、との事です。部屋まで案内致しますがどうされますか?」

「行きます」


その後自室に戻って二人で雑談していると男の人の声が部屋の外から響く。それに応えると案内に従ってとある一室に案内される。

執事さんがコンコン、とノックをすると中からレイン様の問いかけがあった。


「何方か?」

「レテ様とシア様です」


その言葉を聞くと、中からおおっという声が聞こえる。皆先に来ていたらしい。


「……そうか!目覚めてくれたか!案内ご苦労であった。二人を中に通してあげてくれ」

「御意」


そうすると丁寧に扉を開けてくれて、自分達は一礼すると中に入る。そこには無事な姿の皆がいて、悪夢を吹き飛ばす安心感があった。


「みんな無事でよかった……」


そう言うとミトロが立ち上がってこちらに来ると、唐突に頭を下げた。


「ごめんなさい!貴方に教えてもらった魔法を……興味本位で、正体を隠していた貴方に使ってしまって」

「……まぁ、バレてしまったものは仕方ないかな。フードの中身が自分だって分かっていたみたいだし。けど次からはそんな事しないでね?あの魔法、その気になれば本当に人を……。自分はミトロが皆や自分を守るために教えたんだから」

「っ!怒らないのですか」


終始穏やかな口調だったからだろう。ミトロは怒られると思っていたようだ。自分は自分にかけられた魔法だし怒ってはいないし、何より即座に謝りに来たという事は何かこってり絞られて反省したのだろう。だから叱るだけだ。


「怒らないよ。ただ、その魔法は身を守る魔法。覚えておいて」

「ありがとう……ございます」


そう言うとミトロは席に戻って行った。どうやら丸型のテーブルでどこに座っても良い感じに椅子が配置されている。


「あ、レテ君はここね!」

「……お父様の横」


よく見るとレイン様の横とその横が空いている。皆がニコッと笑っている。これはシアに気を使ったのか。自分の横に座れるように。


「それでは……失礼します」

「君が寝ている間に色々な話や疑問が浮かんだが、兎にも角にも食べ盛りな君たちだ。さぁ、冷めないうちに朝ごはんを食べてしまおう」


そう言うと手を合わせる。頂きます、と言って手をつける。

朝ごはんはシンプルにご飯と味噌汁、それに焼き鮭だ。しかしこの鮭がとにかく美味しい。流石海の街である。採れたてなのか、焼き鮭が美味しい。

皆が食べ終わり、食後に水を飲んでいるところにレイン様が口を開く。


「そういえばファレスとフォレスの友よ。ライという子供を救ってくれたのは覚えているかな?」

(どうやら自分が知らない所できちんと助けてくれたみたいだな)


黙って聞きながら皆がこくりと頷いて、クロウが口を開く。


「はい。自分が背負っていた子供ですね」

「あぁ。実はあの子供はね。ラクザでも屈指の商人の家の子供でね。両親が大層君たちに感謝していたよ。商売やら何やらで困ったら是非ウチに連絡して欲しい、との事だ」

「は、はい……」

(知らんうちに凄いコネクトが出来たな……)


そう思いながらさて、とこちらに向く。


「レテ君。君には色々と感謝を述べる。三代目ラクザ当主として、一人の人としても。沢山の人を救い、そして影と戦ってくれたことを感謝する。その上で一つ質問させてもらいたい。……そのブレスレットは、どのように賜ったのだ?」

「勿体なきお言葉。……このブレスレット、ですか?」

「うむ。その貴重なブレスレットを君がどこかから盗むなどとは考えにくい。何か理由があって賜ったのだと思っているのだよ」

(これ貴重なやつか。そうだよな、普通こんな便利な道具ホイホイ渡さんて。言い訳、言い訳……あ、あるじゃん言い訳)


思いついて、しっかりとレイン様の目を見ると話し出す。


「自分は十四歳で学院に入学しました。その上、学年対抗戦……つまりは一つ上のクラスの生徒を完封勝利したアグラタム様が感銘を受け、このような子を失う訳にはいかない、と秘密裏に賜ったのです」

「なんと……そのような天才であったか。フードに助けられた民も皆、フードに感謝をしていた。それがまさか、娘と同い年どころか一つ下とは。納得した。ありがとう」


そう礼を言われてレイン様が立ち上がると、扉へと向かう。


「私は仕事があるためここで去らなければならないが、君たちはゆっくりと寛いでいってほしい。それでは、良い日になる事を祈っている」


そう言って去ると、執事さんやメイドさんが食べ終わった皿を下げて、代わりに水をもう一杯くれる。そして同じように扉から出ていった。

それを確認すると、皆が自分の元へ集まってくる。


「わ、わわっ……どうした!?」

「ほんっっと目が覚めてくれて良かったぜ……!ごめんな、俺たちが連れてきてと頼んだばかりに」

「うん。本当にごめんね……私達のワガママで、ラクザを救いたいって言って連れてきてくれて」

「……でも、結果的にはよかった?」


皆がわーわーと集まる中落ち着いて欲しいと思いながら穏やかな朝を過ごした。戦いの後は、平和が一番だ。

その後は昼に帰るため、レイン様に挨拶をした。


「何?帰るというのか。……そういえば休みは今日までだったな。今日中に学院へ戻る必要があるのか。しかし今からあの屋敷までは早馬を用意しても……」


その言葉に自分が大丈夫です、と前置きしながら答える。


「自分が門を開いて屋敷まで帰ります。なので、早馬などの準備は不要です。……お世話になりました」

「……門。か。それも聞きたいがラクザの救世主にこれ以上聞くのも野暮というもの。分かった。……娘たちをよろしく頼む」

「ぶっ!?」


皆なんで吹いたの?とこちらを見るがレイン様はイタズラ成功とばかりにはっはと笑っていた。

その後、庭に門を開いて帰るとフレッドさんが駆けつけてくれた。


「おぉ!皆様……よくぞご無事で……!」

「ちょっと危なかったけど、無事だよー!皆無事!」

「……かなり危なかった、の間違い」


フレッドさんによると、他の人は馬を用意してもらって帰ってくるらしい。休みは今日までなので、荷物を纏めて学院へ戻る旨をファレスとフォレスが伝える。


「なるほど。ラクザへの救援、本当に助かりました。……お客人殿にも申し訳ない。しかし、ラクザが助かったのも事実。このフレッド、ラクザに身を捧げた者として礼を言います」


そう言って深々と礼をする。そういえば気になっていた事が一つだけあった。


「フレッドさんはどうして屋敷に残ったんですか?」


すると、予想斜め上のぶっ飛んだ答えが返ってきた。



「これでも『二代目ラクザ当主』を勤めていた者ですので。この屋敷を不在になど出来ませぬ」

「「「ええええっ!?」」」


ファレスとフォレスを除く皆が大声をあげる。勿論、自分もだ。



その後荷物をまとめ、馬に揺られ、列車に乗る。


「なんだか、誕生日パーティするだけのはずが訓練とか戦いとか色んなことになったね」

「……うん。でも、全部貴重な経験」


二人がそう言う中、自分はげっそりしながら言う。


「頼むから今度から危険な戦火に自分からは飛び込まないでくれよ……」

「それ、レテ君が言う〜?」


ダイナのツッコミにうぐっとさせられながらも皆が笑った。

こうして七日間の休みは、とんでもない展開を迎えて終わった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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