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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
一章 幼少期編
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レテの力

「……行くぞ」


そう言って先手を取ったのは父だった。ただ佇む自分を少し心配しつつも、木刀を振るう。その瞬間だった。


「……壁よ」


突如として土の壁が現れ、木刀が防がれる。高さはないもの、子供の身体を隠すには十分だった。


「はっ!」


足に風を纏い、側面から出て木刀を振るう。当然のように父も木刀で対応しようとするが、それが裏目に出ることになる。


「なっ……!?」


木刀を土の壁の方にポイッと捨てると、次の瞬間に『風で出来た剣』が顕現する。

当然木刀とただの風ならば木刀が切り裂いて終わりだろう。しかし自分の得意魔法は顕現。文字通り、切り裂く風の如き剣と打ち合うことになる。


「っ!」


危ないと感じたのか、そのまま後ろに跳躍し、距離をとる。しかしそれも無意味だ。

木刀を取ると、徐に地面に突き刺す。父は危ないと直感で感じ、その場を動いた。

その直感は正しい。いた場所には三メートルはあるであろう土の壁が顕現していた。


「はは!流石俺の息子だ……分かったばっかりの顕現魔法、得意な風の使い方や他の属性の使い方。ウチの新兵とやらせたらコケそうだ」


それはないと思う。内心そう考えながら父の言葉を待つ。


「だから……次の一撃。全力を出して俺は攻撃する。何、全力といっても加減はするさ。全力なのに加減とは分からないと思うが……こういう事だ」


そう言って木刀に稲妻が走る。最早木刀としての面影は残っていない。

ふっ、と微笑みをこぼす。転生して三年。相手は最高峰の軍人。ならば自分も剣で戦おう。


「木刀じゃなくても良いですか、父上」

「あぁ、お前の顕現魔法で良い。こちらも約束を破っているわけだからな」


まぁ最初に破ったのは自分が風の剣を出した時だがそれはノーカンなのだろう。


「では……」


左手を前に構え、そっと念じる。


(狂愛の剣よ)


すると左手に紫の剣が現れる。形は何も変哲のない剣だ。しかしこれは顕現魔法ではない。

『愛』の特異能力の剣だ。

しかし、母親は勿論、父ですら恐怖を抱かねばならなかった。


(なんだ……なんだ!?あの剣は!対峙しているだけで震えが止まらない……!間違いない、俺の息子は学院の枠になど収まらない!)


先手を仕掛けたのは父、いや、先手を仕掛けなければならなかった。それは軍人として、戦ってきた者としての本能であった。

手加減はもはや無かった。猛スピードで突っ込んでくる父を見て、自分はそれを受け入れるようにその場で剣を一振するだけ。それだけで父の木刀は砕け散った。


「……父さん。自分の勝ちです」


呆然とする父に向けて言い放つと、父は難しそうな顔をしながら母親に向けて顔を向ける。


「……あぁ、母さん。キチンと撮れているか?」


その言葉にハッとした母は慌てて確認して、ホッと息をする。


「え、えぇ。バッチリよ。これをアグラタム様に提出するのね?」

「ああ。これなら飛び級できるだろうさ」


そう言って父は家を飛び出していった。


「さ、レテ!お腹空いただろうし、クッキーでも焼きましょうか!」

「わーい!食べる!」




「……アグラタム様」

「どうした。お前が急に走ってくるなど珍しい」


イシュリアの城。その一角にあるアグラタムの部屋に駆け込んだ父はこの映像を見て、もしも納得して頂けたら一年早く魔術学院に通わせて欲しいことを伝えた。


「なるほど。つまりそれほどの素質があるということか。どれどれ?」


興味深く映像を見る。魔法の使い方。機転。どれも一流でこれならば同年代に引けは取らず、むしろ今の学院の子供とも学びあえるであろう。そう思って映像を最後まで見た時だった。


「……っ!?」


ガタッ!と椅子が倒れるのも構わずに映像に目を凝らす。

その手に握られた紫の剣を、アグラタムはよく知っている。


「……お前、この剣と打ち合ったか?」

「その剣は……ただ対峙しているだけで恐怖が湧いてきたのです。殺す、とかではないのですが……とにかく、恐ろしかった。そして手加減すると約束していたのに……恐れのあまり、全力を出してしまいました。しかし結果はこの通りです」

「そうか、そうか……!」


椅子をキチンと立てて座り直すと、アグラタムは口を開く。


「魔術学院で良いのだな?許可を出そう。……ふむ、そうしたらその式には私も出よう」

「あ、有り難き幸せでございます!」

「下がってよいぞ、お前も息子とはいえ、戦って疲れたであろう」


その通りですとの意思表示にぽりぽりと頭をかくと、記録を回収して礼をして部屋を出ていく。

一人残ったアグラタムはポツリと涙を流しながら嬉しそうに呟く。


「……会いたかった。あぁ、立場が恨めしい。いつか、いつかまた稽古をつけてください。

師よ……」

いつもありがとうございます

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