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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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守る為の魔法

「そうか……ファレスとフォレスの言っていた彼とは君のことなのだねレテ君」


私は頷きながら彼のことを見る。すると顔面が蒼白に染っており、息も荒い。これは緊張というよりもーー。


「……っ!アグラタム様、屋敷の避難民を安心させるためにこちらへと向かってもらいたい。私は至急用事が出来た」

「了解しました。屋敷の方角から魔法の反応がありましたが大丈夫そうでしょうか?」


おそらくミトロと呼ばれた少女が放った魔法だろう。大丈夫だと伝えると、直ぐに向かいますと言って通信が切られた。


「ファレス、フォレス。それにその友人よ。上の部屋へと移動するぞ」


レテ君を抱えあげると、辛そうに息をしている。

レイン自身魔法に精通しているからこそわかる。光魔法による自身の擬態、声の変化。顕現系統による騎士を消さずに維持し続けた魔力。そして最後の魔法を破る為の力。それだけの魔力を使えば、魔力切れを起こさないはずがない。いったいこの幼い身体の何処にその無尽蔵とも言える魔力があるのか。

辛そうにする彼をそっと一室のベッドに寝かしつけると、彼は直ぐに睡眠へと誘われてしまった。近くにいたメイドに彼の様子を見ておくように命令する。


「……さて。率直に言おう。君たちを叱らなければならない」


そう言うと別の部屋へと彼らを連れていくと、テーブルを挟んで椅子に座る。


「この際、彼が運んできてくれたことは不問としよう。問題は、彼に放った魔法の事だ……。

彼が戦っていることは承知だったはず!あの姿でずっと戦っていることも見れば分かったはずだ!何よりも!フードの方がレテ君以外だったらどうするつもりだったのだ!?赤の他人に魔法をぶつけたのと同じなのだぞッ!」


皆が俯く。その姿はやってしまった、反省している姿だ。


「彼が本当にフードの人か確かめたかった。あの顕現系統の騎士はレテ君のものだから」

「……でも、軽率だった。他の人もいる中、無闇に不安を与えた上に勝手にレテ君だと決めつけた」


私の子供たちが皆の言葉を代弁するように言う。皆もこくりと頷く。


「確かに、あの時点でフードが完全に味方という保証はなかった。魔法を撃った件はそのように私から民に説明しておくつもりだ。……しかし!分かっているのか!?彼がどうしてあんな姿になってまで、私の前で地に手を着くまで疲弊して尚!姿を隠そうとしたのか!」


皆が戸惑う中、一人の少女が声を出す。


「……不安を与えたくなかったから。人々に、アグラタム様や軍とは別に、ただ通りすがっただけの流浪の旅人が助けただけだから。恩は要らないと、彼が思ったから」

「……少女よ、なぜそう思うのだ?」


レイン自身、正確な理由は分かっていなかった。だからこそ、水色の髪を持った少女は自分以上に知っている気がした。だからこそ追求する。


「彼は自分……レテとして目立つのを嫌っていた。きっと私達と同じく、幼子に助けられるのが嫌だとか、幼子だと守らなきゃいけないという人が出てくるのも一つだと思う。けれど、彼はそれ以上にフードとして、言葉通り被り物をしてレテとして目立つのを嫌がったのだと思うんです。なんでそう思うのかは……分かりません」

「そうか」


確かに、幼子の姿よりも不審者に近い格好の方がこの場合助けるには好都合だろう。

ふむ、と考え込む中コンコン、と扉がノックされる。


「何用か?」

「レイン様。アグラタム様がお見えです」

「そうか、通してくれ」


そうすると扉が開き、守護者が入ってくる。すっと一礼すると、テーブルの横の椅子に座る。


「今しがた、彼らを叱っていたところです」

「叱って……?彼らは人々を助けたはずですが……」

「いえ。その後魔力切れが近いフードの方に魔法を撃ってしまい、擬態を暴かせた挙句に寝ている状態でして。赤の他人だったらどうするのだと……」


そこまで聞いてアグラタム様がガタッと立ち上がる。


「……小さき戦士よ。フードの方を……中の人を見たのか」

「は、はい。レテ君……俺達の友達でした」

「……そうか」


そう言うとアグラタム様は座る。私は少し気になったので聞いてみる。


「アグラタム様?何かあの少年とご関係が……?」

「いや。我々が来た時既に彼が応戦していてね。味方だと言われたものだから信じたが……まさかそんな幼子だったとは。後で見舞いに行こうと思います」


そう言うと、お構いなくという感じで私に軽く手を差し出す。こくりと頷くと子供たちに向かって言う。


「君たちは確かに多くの人を守った。それは誇って良い事だ。だが、興味本位で他人に打って良い魔法ではない!……君たちの魔法は、傷をつけるためではない。人を守るために会得した技のはずだ」


そう言われて、二人の少年と少女がハッと顔を上げる。一人は先程闇を生み出した少女で、その顔が徐々に悔しさと共に涙に塗れていく。


「……何か思うことがあれば言うてみよ。決して怒りはせぬ」

「私の技……先程の『闇の獄』は危険性が高いと彼に教わったのです。なのに私はそれを守るためでなく……ただ興味本位の為に攻撃に使って……なんと言うことを……」

「……そうか、この中で彼に他に魔法を習った子は?」


そう問いかけると全員が手を上げる。


(……全員?小さき戦士を育て上げたのは学院だけでなく、彼の力もあるということか……)


そう思うと、ならばと思いしっかりと伝える。


「ならば分かるはずだ。彼は決して人を傷つけるために魔法を教えたのではない。誰かを、自分自身を守れるように。……そう、今回のことがあった時のような為に、守るための魔法を教えたはずだ。それをゆめゆめ忘れないように!……私からは以上だ」

「ああ、レイン様。一つだけ」


そうアグラタム様が言う。何事かと振り返ると、一言だけねだって来た。


「どうか、フードの正体については箝口令を。街を助けた英雄が幼子だとあってはどう狙われるかわかりませぬ」

「わかった。箝口令も敷いておこう」


そう言って私は一階へと向かった。先程の闇魔法はフードの人が、敵が忍び込んだかを確認するためだと言うために。そして、レテ君の身元を安全にするために。


「ではそのレテ君……を見舞いに行きましょうか」


アグラタム様の言葉に私は頷く。本当は彼は正体を知っていたと思う。けれど、あえてバラさなかった。きっと彼が注目されるのを避けたのだろう。


「この部屋でございます」

「ありがとう」


アグラタム様が丁寧に礼をすると、部屋に入る。

彼の身体には傷一つない。だが息が荒く、熱にうなされたのかのように辛そうだった。


「謝らなくては……彼は、身元を明かす気がなかったのに……」


ミトロがそう言うと、皆が頷く。

そんな中アグラタム様が近づいてそっと頭を撫でる。


「……ありがとう」


そう一言言うと、アグラタム様は用事がまだあると言って去っていった。

私達はレテ君が目覚めるまで、この屋敷にいる許可をもぎ取った。……ファレスとフォレスの力で。


アグラタムは外に出て誰もいないことを確認すると、ブレスレットに魔力を通して通達する。


(全隊へ通達。フードの人の正体を秘匿せよ。これは命令である。フードの人は流浪の旅人だと答えよ)

いつも読んでくださりありがとうございます!

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