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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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ラクザの戦火 終

「……頃合カ。アグラタムガ居テハ襲撃モ出来ヌガ十分ダロウ」


どこかで、その声が虚空に響いた。


「一番隊より通達!残った敵が撤退していきます!」

「二番隊も同じく!」


その声を聞くと、アグラタムは地上で逃げ出そうとした影を光の剣で串刺しにして消すと命令を発する。


「一番隊と二番隊はそのまま救出に当たれ!四番、五番隊も救出に!三番隊と六番隊は万が一に備え屋敷の警備を!」


了解!と聞こえたのを確認すると、今度は違う方面から通信が入る。


「アグラタム。自分だ。影が撤退していくな」

「はい。師よ。ひとまずは守ったと考えて良いのでは?」


通信相手はレテ、自分の師である。彼から無事に連絡が入って安心すると同時に、彼から提案が出された。


「今空から影の姿を見ている。すると影はバラバラに消えていくのではなく、ある一定の方向に向かっていっているんだ。……つまり、そっちに指揮官、もしくは贄……人の集まりがいると見ていいだろう」

「なるほど。それで、それを私だけに連絡した理由は?」


彼なら軍の会話にも潜り込めると思うが自分だけにかけてきた理由が知りたい。


「二人だけで奇襲をかける。今から自分の所に門を開く。アグラタム、お前は光で擬態して上空から指揮官と思われる影を叩いてくれ。自分はーー」


その作戦に思わず苦笑する自分が居ながらもアグラタムは承知しましたと目の前に現れた門を通った。



「コレデ全テ、カ」


ラクザ郊外にて、人の入った大量の袋と生き残りの影を見ながら、一際大きな影が呟く。


「派手ニヤラレタモノダ。ダガ贄ハ確保シタ。コレヨリ転送ニ入ルゾ」


遅れてやってきた複数の影も確認し、残りの影が居ないことを確認すると影が一斉に魔法陣を展開する。その瞬間だった。


「せいやァッ!」

「グッ!?」


空から突然現れたアグラタムが大きな光の両手剣を振り下ろし、大きな影を吹き飛ばす。


「忌々シキ守護者ヨ……ダガ、後ロノコレヲ守リナガラドウ戦ウ?」


そう言うと、魔法陣が大きくなっていく。


「クク……我々ノ勝利ダナ。タルタロスノ贄トナルコト、光栄ニ思エ」

「させるかっ!」


そう言って魔法陣の元に辿り着こうとするも、大きな影がアグラタムをその身で防ぐ。


「クハハ!コノ一瞬ガアレバ十分ヨ!……イケ!」

「……ふっ、そうだ。この一瞬があればこちらも十分なのだ」

「……ナニ?」

「師よ!」


魔法陣が最大まで展開されていた刹那、突然影の一人が光の矢を複数展開して影を一人残らず掃討する。魔法陣は消滅し、人が入った袋はそのまま残った。


「オマエハ……!」

「どうやら奇襲は警戒していても仲間の警戒はしなかったみたいだな?」


影の擬態を解き、幼き守護者が姿を現す。


「オマエダケデモ連レテイコウ……」

「やれるものなら、な」


そういうと影は複数の闇の魔法を展開し、様々な方向から球と槍を飛ばしてくる。


「慈愛の盾よ」


そう言うと身を覆うように結界が生成され、闇を全て弾く。


「私の事も忘れてもらっては困るね」


その隙にアグラタムが再び光による擬態をし、影の後ろから叩く。


「グゥ!?コウナレバ情報ダケデモ……!」

「逃がさない」


そう言うと光のキューブを投げつける。それが影に近寄った刹那、影が光の箱のような結界の中に光の鎖で縛り付けられる。


「コ、レハ……!」

「ま、見ての通りだな。それじゃあ消えろ」


そのまま光の強度を強めると、指揮官と思われる影は悲鳴をあげながら消えていった。


「人質を解放します。師は……」

「まだ残りがいるかもしれないからな。光でフードに化けて避難所まで誘導する。代わりに街の中の安全を頼んだ」

「了解しました」


そう言うと自分はフードの姿に化け、アグラタムはブレスレットに連絡を入れる。


「今指揮官と思われる敵を撃破した!各部隊、燃え盛る街の鎮火、及び避難民の救護に全力に当たれ!」


そう言うと袋をそっと風の刃で切り裂く。その中……というよりも、袋が多すぎて本当に大勢の人が絶望の袋から解放された事に、夢見心地のようだ。


(ふむ)


アグラタムをチラッと見ると、頷いてアグラタムが光魔法でリラックスさせる。


「俺たち、は」

「あれ……あの影に……」

「守護者様……?」


戸惑う人達にアグラタムは声を上げる。


「自分がイシュリア皇国守護者、アグラタムである!ラクザの街へと救援へ参った!横の者はとある事情にて姿を明かせぬが実力は確かな者である!この方が貴方達を避難所まで警護してくれる!」

「……」


無言で周りに三体の光の騎士を配置させ、全員に片足を付かせて服従のポーズを取らせる。


「おお、おお……!」

「私達助かったんだわ……!」


喜ぶ大勢の街人、及び旅行に来た人がこちら側に感謝の目を向けてくる。


「……出発する。怪我をした者は遠慮なく言え。水が足りなければ休憩を挟む。焦るな。安心した気持ちは分かる。だが焦るな。焦って怪我をされてはこの街の当主に面目が立たない」

「「はい!」」


そう言って自分は大勢の避難民を連れて避難所へと向かった。


途中、何回か子供をあやす為に止まったり、足腰が弱い老人のために騎士を増やして持たせたりしたが、無事にラクザの屋敷へと到着した。


「……開けてもらえるか。避難民だ」


そう言うとラクザの館が開き、騎士を消して前を譲る。すると皆がわぁっと中へと入り、喜んでいる。微笑んでいると、どこからか声が聞こえた。


「あの方ですレイン様!あの方が、たすけてくださったのです!」

(あの男の人は……ああ、光の騎士をつけた人か)

「無事にたどり着けたようだな。何よりだ」

「はい!貴方様のお陰で多くの人が助かりました……!」


頭を下げてくる老若男女の人々に一礼すると、奥から若い人がやってくる。


「失礼、私は三代目ラクザが当主、レインと言う。そなたがこの方を救った者か?」

「如何にも。名はフード。故あってこのような姿で当主様の前に立つことを許して欲しい」


膝を着くと、流石に長時間変化魔法を維持し続け、更に騎士やら件やらを出した弊害で手をついてしまう。


「大丈夫か!?」

「……この通り、大丈夫である。私は流浪の旅人。これにて……」


そう言って立ち去ろうとすると、横から聞きなれた声が響く。


「……待って欲しい」

「貴方はフードさんなのかもしれない。けれど……不躾でごめんなさい。ミトロ!」

「……ごめんなさい。フードさん」


そう言うと共にミトロが未完成ではあるが闇の獄を放つ。突然の魔法に驚くものがいるが、それどころではない。


(くっ!このままの魔力では対抗が出来ない……まだ、まだ正体を明かす訳には……!)


そう思うが、自分の教えた魔法を未完成とはいえ使っているのだ。当然威力の基礎は自分が作りあげたもの。次第にフードとしての姿が解けていく。


(まだ、まだ……!)

「……もう、いいんだよ」


シアの声が聞こえた。優しくて、慈しむような。かつて自分が彼女にしたような声。


「正体が誰であれ関係ない。貴方は貴方……そうでしょ?だから……その姿を解いて……」

(……もう皆にはバレている、ということか)


そう思うと諦めがついた。この話は後で箝口令でも敷いてもらおう。

フードを構成していた魔力を全て闇の獄を破壊するために使い、脱出する。

そこには、本来の自分の姿であるレテが存在していた。


「……三代目ラクザ当主、レイン様。改めて申し上げます。私がフード……レテにございます」

いつも読んでくださりありがとうございます!

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