ラクザの戦火 4
三代目ラクザ当主、レインは一階にたどり着くと声を張る。
「聞け!善良なるラクザの民、及びラクザに誘われし者達よ!」
それを聞いてラクザの民、それにこの休みで遊びに来たであろう人が顔を上げる。もしかしたら何か希望が出てきたのか、それとももう陥落したのか。様々な表情が入り乱れる中で高らかに宣言する。
「今しがた連絡が入った!守護者アグラタム様とその正規軍がラクザの救援に駆けつけてくれた!鎮圧まであと少しだ!今暫く、希望を最後まで持って待って欲しい!」
「「おぉおおおおーっ!」」
その言葉に頷くと、自らも避難民の場所へと歩いて行き、不安そうな子供をあやす。
「うちの子が……うちの子を……なんてことを……」
その中でずっと泣いている夫婦をみつけ、声をかける。
「お子さんがどうかなされたのですか?」
「レイン様……実は子供と妻と逃げている最中、影のような敵に襲われてしまい、子供と分断されてしまったのです……!その後影がこちらを追ってきたので子供を見捨てざるを……得なくて……!」
「……っ!それは……辛いでしょう……」
「あの時影に追いかけられながらももっと強く子を抱いていれば……!」
その後悔の念、苦しいほどに伝わってくる。レインも下を向いていると、避難所の扉が開く。
「三番隊及び六番隊!多数の避難民と共に避難所へと到着した!」
その声と共に、本当に大勢の避難民がなだれ込んでくる。ラクザの総人口と比べれば勿論少ないのだが、救出が絶望的な中ではまさにこれだけ救えたのは奇跡としか言いようのない数であった。
「おとうさん!おかあさん!」
「ん?両親を見つけたのかい?行っておいで」
優しそうな子供が背負った子供を走らせてくる。その子供を見ると、先程まで絶望の顔を見せていた夫婦が涙の顔に変わる。
「あぁ……ライ……良かった……!」
「ごめんな……あの時手を離さなければお前に怖い経験などさせなくて済んだのに……」
「怖かったけど、助けてもらってからは怖くなかったよ!だって、すっごく強い人と、頼りになるお姉ちゃんとお兄ちゃん達がいたんだもの!」
そう言う子に対して、軍が連れてきた子供の二人に目を見張る。
「ファレス……フォレス……何故ここに!」
その声は驚愕と共に大きく響き渡った。二人は別荘、矢文の着地地点になった屋敷にいたはずだ。
「ラクザの危機だからね!友達と助けに来たよ!」
「……私達が、助けたいと願った」
それにしたって一瞬でこれるような距離ではない。いや、それどころではない。二人を叱らねばーー!
「レイン様。恐れながら申し上げます。その子供たちは幼いながら自分と同じように迷える人を助け、敵を挫く戦士でありました。正規軍が到着するまでの間、多数の避難民を守ったのは紛れもない彼らであります」
そう頭を下げた兵士が言う。なんということだ。この子供たちが……救った?
「……ファレス、フォレス。それにその友人とお見受けする。……この地へ、どうして?」
「私が、私達が。助けたいと願ったからです。そして、彼が助けに行く中何もせずに指をくわえて待っていることなど出来なかったから」
「……ラクザの力になりたかった。それに皆、彼を一人で行かせるわけに行かなかった。だから、ここに居る友達は覚悟ができている」
その目は兵士、敵を挫き倒すという意志の眼。
「……そうか。それで、彼というのは?誰のことだい?どなたかな?」
「ここにはいないよ」
「……彼はまだ戦っている」
「……なんだとッ!?友を見捨てて来たというのかッ!」
思わず叫び、詰め寄るが皆ビクともしない。それどころか、他の友達から予想外の意見が飛んできた。
「彼は……恐らくあの影を一人で倒せてしまうでしょうね」
「あぁ、アイツの事だ。そもそもアイツは俺たちがついて行くことに反対だったんだよ。なのに連れてきてもらって……」
「まぁまぁ、入口でこんな話しててもなんだし私達は中に入ろう?後ろからも避難して来た……人……が……」
影、つまり敵を一人で倒せる。つまりうちの兵よりも強い。そんな実力者が今年十六歳になる娘たちにいるのだろうか。
そんな事よりも確かに入口ではダメだ。他の人が来た時に入れなくなってしまう。そして、そこに居たのは十人程の避難民と、光の騎士であった。
「避難民の誘導ご苦労である」
「お、俺たちは命を救ってもらったんです!あの人に!」
「……あの人?」
助けてもらった人が口々に叫ぶ。
「この騎士が一人で敵をなぎ倒してくれたの!」
「しかも儂のような老いぼれの足に合わせて動いてくれての……この騎士には感謝しかないわい」
「そうか、この騎士が……この騎士を呼んだのは貴方か?」
父親と見られる人に声をかけると首を横に振る。
「俺たちは影に倒されてもうダメなのかと思いました。けど、あの人が空から来て……俺が避難所まで、同じように救援が必要な人がいたら助けるようにとこの騎士をつけてくれたんです」
「ふむ。その人の名は?容姿でもよい」
その問いに、父親が言い淀む。恐らくその妻もだ。何故、言い淀む?そう考えていると子供が声を上げた。
「あのね!全身をフードで覆われてるおっきな人だった!顔も見せてくれなかったけど、とっても強かったんだよ!」
「フード……フード、か」
ふと、光の騎士を見て驚愕する子供たちに声をかける。
「どうした?この騎士がどうかしたか?」
「……この騎士の形、見たことがある」
「これ、彼の……顕現系統の……」
「……何?」
フードの人は大きく、顔も見せなかったという。
だが娘とその友人は、その騎士は友と呼んでいる「彼」のものだという。
いったいどういうことだろう、と考えながらもそれを一旦頭の隅に置き、避難民を館の中へと入れたのであった。
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