ラクザの戦火 2
「ありがとう!」
「……ラクザの兵として、よく頑張ってくれました。三代目ラクザに代わって礼を言います」
ファレスとフォレスが頭を下げると、皆がその方角へ走り出す。
「『ビャッコ』!方向の生存者を探して!」
私の命令にひと鳴きすると、ビャッコは走り出す。それを街中を潜り抜けながら私達は走り続ける。
「おとうさん……おかあさん……!どこ……!」
途中、親を見失った女の子を見つけた。クロウが諭し、背負うと避難所へ走り出す。だが、恐らく両親は……。
(……絶対に、許さない)
私の奥で、何かが燃える音がした。
「援護します!レンター!」
「ええ!」
途中、人を護ろうとして影の敵に囲まれた兵を見つけた。ビャッコが突撃すると、その隙にダイナが風で人々を囲む。
「贄が……!」
複数の影が放ってきた闇の玉をレンターとミトロが魔法を使って辛うじて防ぐ。
「贄、贄……ラクザの人を生贄になんてさせません……!」
「けれど、自分達の戦力ではこの数は……!」
次々と飛ぶ玉とそれを相殺するように動くビャッコ。しかし、ビャッコは元はと言えば私の能力。次第に私は疲れ、膝をついてしまう。
「シア!?」
「く、君達のような子供を巻き込んでしまって済まない……だが……我々にはあの数を相手にする力は……」
守れないのか。やはり私達は力が足りないのか。あそこでレテ君の言う通り待っておけばよかったのか。
後悔の念と共に心の中に悔しさが滴る音がした。
影がトドメとばかりに魔法陣を展開したその刹那。
上から複数の人影が飛び降りて影を不意打ちして倒す。鮮やかな光の玉や剣が、次々と地面に突き刺さる中、五人程の人がこちらの安全を確認してくれている。
「君達!大丈夫か?」
「あ、あぁ!助かった……」
兵が礼を言うと、隊長と思われる方が袖を捲り、『ブレスレット』に向かって話しかける。
「三番隊、対象の救援を確認!これより対象と共にラクザの避難所へと向かいます!」
すると、ブレスレットから返答が入った。その声に、皆が驚愕する。
「よくやった!三番隊はそのまま避難所への誘導を!一番、二番隊は引き続き散開し、人の救出を最優先に行動せよ!四番、五番隊!敵を見つけ次第殲滅せよ!六番隊!それぞれの部隊の状況を見つつ援護を!」
ブレスレットからの返答。的確な指示。そしてそれを統括する、凛とした声。
「アグラタム……様……」
「アグラタム様の声だ……」
そう呟いたのが私達なのか、兵だったのか。それとも守られていた人かはもう分からない。
ただ、ファレスとフォレスが呆然と呟いていた。
「あのブレスレットはレテ君が付けていた……」
「……同じもの……なんで……?」
時は少し前に渡る。
レテより連絡を貰ったアグラタムは、即座に行動していた。
「全部隊訓練を中止!出撃の準備を整え大庭に集合せよ!繰り返す!出撃の準備を整え、大庭に集合せよ!」
そう城内連絡を入れると、次にイシュリア王に報告へと向かう。
「師よりの伝達です。南方、ラクザの街が襲撃されております。恐らく襲っているのはタルタロスと言っていた何者かと考えられます。出撃の許可を」
そう言うと、イシュリア王は即座に頷いた。
「王として命ずる。守護者アグラタムよ。軍隊を率いてラクザを護れ」
「御心のままに」
そう言って庭へと出ると、既に正規の軍が整列して待機していた。
「南方、ラクザの街にて襲撃が発生!甚大な被害を既に受けている!各部隊、人々の救援及び敵の撃破を!……三番隊。恐らく十人か九人で行動し、人々を護ろうと走る子供達がいるはずだ。三番隊はその子供達の発見及び救援を最優先に行動せよ!行くぞ!」
そう言って門を開く。こうして、ラクザへと正規の軍が来たのであった。
「レテ……殿?どなたかは分かりませんが三番隊はあなた方の救援を最優先にとの命令を受けています。これより、人々を護りながら避難所への誘導を開始します!戦える者は前へ!」
歯がゆい。彼から戦う力を貰ったと言うのに。すると、ショウが後ろを向いて、最後尾に立つ。
「俺は顕現系統を得意とします。最後尾に立ち、背後からの襲撃に備えます」
そうだ、まだ戦えないと決まった訳では無い。正面たっての戦闘はしなくて良い。私達は出来ることをすればいい。
私の中に、雫が落ちるような。水がぴちゃりと跳ねるような感覚がした。
子供を背負ったクロウ以外が後ろに立つ。
「私たちは背後からの襲撃に備えて移動します!」
「……意思は固い、か。ならば頼んだ!このまま移動する!」
そうして三番隊と呼ばれた軍と共に、避難所へと歩き始めた。
「シア、大丈夫?」
「ニア、大丈夫。私は……やる事が分かった」
覚悟を決めろ、私。敵が出てこないに越したことはない。だが出てきた時に何も出来なければどうする。
また倒れるだけなのか?彼との約束を、彼の忠告を無視して命を落として破るのか?
覚悟と共に、私の中で四つの力が発現するのを感じた。
「……」
「何者ダ……我らを妨げるなど……!」
「散れ」
そう言って光の騎士が次々と影を薙ぎ倒す。身長とフードを光で誤魔化し、ただ怪しい人となっているが救援する分には子供だと思われない方が油断を生まなくて済む。
「た、助かりました……」
父親であろう人が妻子を守るようにして覆いかぶさっていた。その言葉を聞くと、頷いて問返す。
「……避難所の場所を教えて欲しい」
「避難所……避難所は、三代目ラクザ様の屋敷です!」
「了解した。辿り着けるか?」
「……この命に変えても、妻と子供だけでも……!」
その覚悟に応じて光の騎士を一人顕現させる。騎士には、その父親を絶対守るように命令をつける。
「……その騎士を付ける。敵を考えなくて良い。代わりに同じように助けを呼ぶ人がいれば共に避難所へ」
「わかりました……!ありがとうございます!」
その言葉を聞くと、直ぐに風を纏って空へと飛ぶ。すると、ブレスレットから連絡が入ってきた。
「師よ!師の友人と思われる方々を軍の三番隊が発見、保護。これより避難所に向かわせます」
「頼んだ。……これだけの襲撃、そして影の散開。同じくどこかに指揮系統の影がいるはずだ。そいつが避難所……ラクザの屋敷に辿り着く前に叩くぞ」
「御意に」
ブレスレットの連絡を切ると、贄を求めて彷徨う影を見つける。
直ぐに光の剣を投げつけて消滅させると、探し始める。
(さて、何処だ?敵の指揮官は……)
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