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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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ラクザの戦火 1

そこら中に魔法を撃ち合う音に金属音。そして悲鳴が聞こえてくる。

恐らく綺麗だった街並みは何者かに破壊され、既に戦場と呼ぶべき場所となっていた。


「いいか。ミトロの言う通り戦闘できない人や傷ついて動けない人の保護を最優先に。ラクザは大規模な街だ。当然、女子供を真っ先に避難させる場所がどこか複数箇所にある。まずは街の人や兵士から場所を聞いてそこに誘導するんだ。……死ぬなよ、いいな?」

「勿論です。レテ君がいない間、私が一時的に指揮を預かります」

「頼んだ」


そう言うと自分は風を足に纏わせ、飛び立つ。


(さて。この平穏を脅かす輩はどこだ?)



レテ君が飛び立った後。ミトロがこちらを振り返って号令を発した。


「まずは正規の兵に合流して、避難場所を聞き出します!皆、足元に気をつけながら行きますよ!」


そう言うと私も含めて皆が頷いて、ラクザの中に駆け出す。

恨めしい。子供の足では早く動けない。ラクザの中へと飛び込むものの、音ばかりが聞こえて具体的な位置も分からない。


(……出し惜しみしている暇は、ないよね)

「皆!」

「どうかしましたか、シアさん」


大通りの中で声を上げた私に一旦止まると、ハッキリと言う。


「私が特異能力を使って人を見つける。私の特異能力は『獣神顕現』。精霊顕現と似たようなものだけど、一つだけ違いがある。それは獣、つまり人の匂いを嗅げるってこと」


それを聞いて察したミトロが続きを言う。


「つまり、その顕現した獣は人のいる場所へ行く。そしてそれ自身にも戦闘力がある。……わかりました。お願いします」

「うん!」


自分の中から魔力とは別の何かを引っ張り出し、両手にそれを纏わせるように動かす。

両手に完全に纏ったと思った時、パン!と両手を合わせると雄叫びと共に特異能力が発動する。

戦火の中でも一回り大きな、黄色のたてがみと二本の角を持つ、大きな獣。

四本足でしっかりと地面を踏み締めると、最後に一際大きな咆哮をして私の命令を待っている。


「これが……!」

「でけぇな……っと、そんな場合じゃないんだよな?」

「……これで少なくとも人のいる場所が分かります。シアさん、頼みます」


こくり、と頷くと命令を発する。


「生きている人を探し、私達を導きなさい!『ビャッコ』!」

「オオォォオオォーー……!」


ひと鳴きすると、周りを嗅いで素早く家を飛び越えてどこかへと行ってしまう。


「どうやって追いつくんだよこれ!?」

「あぁもう!とりあえずあっちに向かうしかないじゃない!」

「……とにかく、走る」


止まっている時間はない。皆ビャッコが飛んで行った方角へと走り出した。



「くそっ……このままじゃ……!」


隣の兵が魔法を防いでいる。しかしその効果ももう持ちそうではない。ならば、と思い自分も槍を持って突撃する。


「お、おい!待て!そいつが一つしか放てないとはーー!」

「ラクザの兵が、ここで賊を見逃す事は出来ぬのだ!」


そう言って空に飛ぶと、そのまま勢いを付けて槍を相手に突き刺そうとする。


「贄如きが……」


しかしその一撃は躱され、逆に回し蹴りを食らう。


「ぐっ!?」

「おい!大丈夫か……くっ……!」


不気味で影のような姿をしているのに質量を持つとは厄介な。おまけに蹴りの鋭さも相まって立ち上がることが出来ない。


「……まぁ良い。まずは一人確実に贄としよう……」


そう言うと別の魔法が展開されていく。


「まだ……まだだ……!」


渾身の力を振り絞って槍に火を付与して投げつけるも、相手が即座に闇のような暗い空間を開いて槍を呑み込んだ。


「贄は贄となれ……抵抗は無意味よ……かっか……ガッ!?」


相手が魔法を放とうとしたその瞬間、上空から獣が降り立ち、魔法陣ごと相手を裂こうとする。

間一髪で相手が避けたようだが、影に傷がついている。


「……オノレ……贄が放ったモノがこの我を傷つけるか……!」

「オォォォーー!!」


その獣は魔法を穿つ前に素早く移動し、影を追い詰めていく。


「な、なんだ……救援か?」

「分からないが、今ので俺に放たれていた魔法も解けている!今がチャンスだ!」


そう言うと魔法を唱えようとする。その刹那に横から影が通り抜けた。


「せいっ!」


獣が影を追い詰め、反撃しようとした所に何者かが影に距離を詰め、そのまま蹴りを直撃させる。


「ガッ!?」

「……ファレス、突撃しすぎ」


そう言いながら消えかけている影に追い討ちとばかりに様々な属性の球が影に追い討ちをかける。


「オ、ノレ……オノレ……!」

「影ならば自分の光が効くはずだ」


そう聞こえてから光の玉が投げられると、獣と人影が引く。

その瞬間、影の間で光が爆発した。


「ォ、オオオオオ……!!」


影が沈黙したのを確認すると、横を見る。


「一人だけ先に突撃して……今回は敵が一人だったから良いものの!」

「いや、シアちゃんの獣もあったしいいかなーって……」


そう言うのは、まだ小さい子供たちだ。その強さに圧巻されようとしていたが、慌てて二人で顔を合わせ、頷く。


「君達!?何をしているんだい!早く避難所へ……!」

「避難所は、どこにありますか?」

「迷子か……避難所まで連れていくから。さ、おいで」


そう言うが皆動こうとしない。どうしたというのか。


「……どうしたんだい!?さぁ、早く!」

「私達は救援です。避難所は、どこにありますか」

「救援!?危なすぎる!君達のような子供は早く……」


そう言いかけたところで二人の少女が前に出てくる。

その姿は双子、そしてこの街において発言権を持つ双子。


「……私達は、戦えない人を救うためにここに来た。だから教えて欲しい」

「死ぬかもしれない。もう救える命はないかもしれない。けれど、やってみなきゃわからない。こんな所で権限を振りかざすのは嫌だけど、私達の名において命令する!」

「「避難所の場所を教えて!」」


その双子はファレス様とフォレス様。三代目ラクザ様の子供。

ぐっと唇を噛み締める。ここで御二方を失ったとあれば自分は極刑だろう。しかし、その目には意志を感じた。だから、言う。


「……避難所は三代目ラクザ様の屋敷でございます!ここより南一キロ程、海の見える邸宅に皆が集っています!」

「お前!?」


驚く同僚に自分も覚悟を決めて言う。


「確かにここで御二方を失えば自分は極刑だろう。しかし、その御二方の命令を無視することは……あの目を無視することは自分には出来ない……!」


そう言うと同僚もその目を見る。

その子供達は、皆覚悟した兵士の目であった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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