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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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訓練の成果は

辛い時間も楽しい時間も、集中していればあっという間に過ぎていくものだ。

本日連休六日目。七日目はゆっくり皆で休もうと話し合いで決めたので、自分が教える日は今日が最後だ。

午後。成果を見るために順番に魔法を撃ってもらう事にした。

まずは系統を使わない球体の術からだ。クロウが先頭に立ち、的を設置すると合図の指パッチンをする。

すると即座にこぶし大の球体が生まれ、的に直撃。岩の的を撃ち抜いており、威力も申し分ない。


「こんなに……一週間に満たない期間でこんなに強化されるものなのか」


打った本人が一番驚いている。確かに、シアの時は安全策を取ってあまり負荷をかけすぎないようにしたが今回は強行軍だったのでかなり負荷をかけた。その分成果も大きいのだろう。


「ああ、そうだ。クロウ。それに皆も。さあ、次!」


そう言って的を作り出す。皆、即座に球体を生み出して的を穿つ程の威力とスピードは持ち合わせている。まず基礎はマスターしたと考えても良いだろう。


「まさか意識してやるだけでこんなに早くなるなんてね!」

「……威力も前よりずっと上がっている。これが意識してやるという事なんだ」


双子もそれに感動しているようだ。だが、本番はここからだ。皆が戦えるかどうか、それを確認するためにはこれが必要なのだ。


「よし、皆基礎の部分は大丈夫そうだな。後は系統の技に移る。こっちは難しい上に練習する時間も長くはなかった。だから今出せる最大級を出して欲しい」


そう言うと顕現系統の魔法で生み出した的をドン!と一回り大きくして設置する。明らかに硬いですよ、と言っているようだ。実際硬い。


「まずは……収縮系統のクロウ、シア、ニア、フォレスから見ていくぞ」


ごくり、と緊張する彼らに軽く光魔法でリラックス出来るように治癒魔法を流す。


「緊張は大事だけれど、過度な緊張は魔法にも実際の戦闘の時にも影響を引き起こすからね。まずはクロウ、頼んだよ」

「あ、ああ!ありがとう。じゃあ……」


そう言うと空中に岩の槍が現れ、それがパヒュン、と空気を割く音と共に的を貫き通した。


(おお。この数日で自分のものにしたのか。凄いな、素直に)


パチパチパチと拍手をする。グッと余裕を見せる彼を見る限り、魔力の消費もそこまでないと考えて良いだろう。

次はシア、彼女も問題なく貫いた。具体的なやり方は教えてないが、上から降らすように槍を飛ばすことで推進力も得ている。凄い。

ニアは何やら見せたいものがあるとの事でフォレスが先に。流石ファレスの後衛。回転させることで威力をつけて貫いた。収縮系統の魔法を練りながらそれを回転させるなど、考えたなと思いながら拍手する。

最後に残ったニアが、こちらを見て意見を言ってきた。


「あの的さ、動くようにできない?あ、横にとかじゃなくて、人間みたいに動くってこと!手足をバタバタ動かすだけでいいんだけども!」

「うん?……いいよ。出来るけど、何するつもり?」


的に追加の魔法を与えて人間らしく少し腕を揺らすようにした。こんな感じでいいだろうか。


「うん!これでOK!これはレテ君も皆にも知っておいて欲しかったからね!……それじゃあ行くよ!」


そう言うとピリ、とした空気を感じた。


(な、殺気!?殺気を知って欲しかった?いや……もしかして)

「せいーやっ!」


火の槍が複数個、それも一つ一つが殺気を纏って的をボロボロにした。


「ふぅ!使うのは初めてなんだけど上手くいったね〜!さて、レテ君分かるかな?な?」


問いかける彼女に対し、こくりと頷く。


「……特異能力、か」

「正解!これは皆にも知っておいて欲しいんだけど、私の特異能力は『殲滅者』。発動条件は動く何かを敵と認知する事で、殺気……って言えばいいのかな。そういうのを纏ったり、魔力の効率が良くなったりするんだ」


とんでもない能力だ。殲滅者とはまた物騒な。だけれど、戦闘向きなのは助かる。


「こっちには向けないでくれよ……?」


ショウが言うと、ニアはむー、としながら言う。


「大丈夫だって!発動条件はそもそも敵と認識するのが大前提だもん!友達を敵と認識するわけないでしょ!」

「それは助かる……」


何とかなったようだ。的を再生成し、また動かない的にすると今度は広域化系統のダイナと付与系統のファレス、顕現系統のショウを呼ぶ。


「まずはダイナからだね」

「はいはい〜。やるよ〜」


ふわふわとしている。緊張を和らげるためにいつもの様にしているのかもしれない。それも良い事だ。

風の魔力が広く散布され、的を覆い尽くす。そしてそれがダイナによって固定されたタイミングで、ダイナがふっ!という掛け声と共に手をグーの形にして振り下ろす。

すると風が質量を持ち、的を暴風が襲う。


「あちゃー、皆みたいには威力出なかったか」

「そんなことは無い。跡地を見てご覧」


見てみると、一メートル程ではあるが、的が動いている。軽く設置したつもりはなく、寧ろそこそこ重く設置したつもりだ。


「そこそこ重く設定した的を動かせたってことは、大人数なら撹乱に持ち込める。風で広域化だからこそできる芸当だな」

「そっか〜!ありがとう!」


礼を言うと、皆の元へと戻っていく。次はファレスだ。


「ファレス、いけそうか?」

「何とかね!」


そう言ったのと同時に魔法で足に風を付与し、一気に的との距離を詰める。


「せいやっ!」


その後、風を纏った足に更に土属性を纏わせ、頑丈にして的を蹴り飛ばした。


(やっぱ武術の方が向いてるんだよな……)


グルグルと回転する人型の的を見ながらそう思う。最後に風を纏わせたままこちらに飛んできて終了だ。


「どだった!?」

「十分合格点だ!」

「やったー!フォレスやったよー!」


そのまま風を解いて抱きつきに行った二人を微笑みながら見送ると、ショウに問いかける。


「……行けるか?」

「もっちろんだ!」


そう言うと炎で構成された剣が数本、遅れて盾が二つほど顕現する。


(おお、よく維持するな。……自分が言えた事じゃないか)

「行ったれーっ!」


そのまま炎の剣を一本、盾を一つだけ掴むと他のは全て的にぶつけた。

そして最後に的を炎で切りつけ、真っ二つにする。見事だ。


「どうよ!俺の顕現もよくやるだろ!」

「本当に強くなったなショウ!今度本気で一戦やってみるか?」


その軽いジョークに少し彼は固まって、やや遠慮がちに言う。


「いや……手加減で……お願いしゃす」

「はは、じゃあ手加減して打ち合うよ」


苦笑いする彼とハイタッチすると、残るレンターとミトロを見て頷く。しかし、その時だった。


「……待て」

「……?」

手で制すると、何かが魔力を纏って飛んでくるのが分かる。これは……


(……矢?しかし先端が折れている……人を殺めるためではないという事か。魔法でここまでどこからかすっ飛ばしたということか。何のために?)


念の為簡易的な結界を風で生成し、広域化系統の風で飛んできた矢を絡めとるとそれを見る。


(……紙、矢文か?フレッドさんに渡すか)

「皆、少し待っていてくれ」


屋敷内にいるであろうフレッドさんを探す。


「フレッドさん!いますか?」


そう呼ぶと、急ぎ足でこちらに向かってきてくれた。


「はい、レテ殿。ここに。なにか御用でしょうか?」

「先程矢が庭に飛んできました。矢の先端は潰されている代わりに紙がついていました。何らかの手紙かと思い、フレッドさんをお呼びしました。中身はこの通り、読んでいません」


そう言って矢を渡す。ありがとうございます、と礼をするフレッドさん。彼が矢文を開いて中身を読んでいくと、段々顔が険しくなっていく。


「……レテ殿。お客人に頼むのは申し訳ないのですが、庭の訓練生を集めて頂けますか。私は屋敷内の人を集めます!」


そう言ってかけ出すフレッドさんを見て、尋常ではない内容だった事を理解した。すぐさま庭に出ると、広域化系統の風に乗せて声を響かせる。


「フレッドさんからの命令です!庭にいる訓練生、及び従者さんはこちらの入口付近まで集まってください!」


あれだけ焦っていたのだ。中央よりも入口手前の方が良いと思い、こちらにした。

クラスの皆も来る中、フレッドさんも人を引連れてやって来た。珍しく汗をかいている。それだけ、重要な事だという事だ。


「皆の者!今矢文にてラクザから連絡が届いた!」

(ラクザ!?おいおい、ここまで何キロあると思っているんだ……凄腕の魔法使いと弓術士がいたんだな)


そう思えたのは一瞬だけだった。次のフレッドさんの言葉が、自分にも、皆にも衝撃を与えたからだ。


「今すぐに戦える者は準備せよ!ラクザの街が襲撃されている!」

(な……!?)

いつも読んでくださりありがとうございます!

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