教育の誘い
武芸学院から武術学院に名前を変更しました(2020/12/01)
学院に入れる年齢を十五歳に変更しました(2022/03/23)
「凄いじゃないレテ!属性もこなせて、父さんとも違う能力があって、しかも今まで見た事のない特異能力があるなんて!」
母親に鑑定結果を知らせたところ、まるで自分の事のように喜んでいた。実際腹を痛めて産んだ子なのだから、嬉しいのだろう。
「そこで、だ。提案なんだが十四歳になったらイシュリア魔法学院の入学テストを受けさせてみようと思うんだ」
「……えっ?」
おかしい。何がおかしいかを順に説明しよう。
まず、イシュリアには様々な学校や教育機関があるが、その中でも戦闘を学ぶ事に特化した学校が二つある。
それがイシュリア魔法学園と、イシュリア武術学園だ。
魔法が得意だから武芸が出来ないということはなく、逆も然り。つまりは適性がどっちに傾いているかで親はどちらを受けさせてみようかを決めるのだ。
そしてここが最大の疑問点であり、学園は『十五歳から六年間』学ぶことになっている。
そう、十五歳からなのだ。一つ違いとはいえ、十四歳なのだ。
「アナタ、それは流石に……」
「これは親としてじゃない、戦士としての勘だ。……お前は、今の同年代の子供より……いや、上の子供より圧倒的に強い。そう告げているんだ」
真剣な眼差しでこちらを見てくる。確かに軍人の父が集めた本のお陰で知識の方の問題は無い。確かに本気を出さずとも、父親に負けることは無いだろう。だがそれとこれとは別だ。飛び級どころではない。
「……ならこうしよう。父さんが手加減して相手をする。それを母さんに映像で記録してもらって、もしもお前が勝つような事があれば守護者アグラタム様に見せて掛け合う。いいな」
「……はい」
ここまで言われては仕方がない。わざと負けてまだ早かったと言わせるしかない。
「よし、じゃあ裏庭でやろうか。お互い武器は木刀でいいな。大丈夫だ、お前が怪我をしたら直ぐに止めるからな」
それはいい。すぐに怪我をしよう。よし。
木刀を持つ。そしてぶん、ぶんと振って感触を確かめると父がまた真剣な目でこちらを見ていた。
「……偶然かもしれんが、今の素振りの動きは明らかに隙のない、手練のものだ。レテ。お前には武術の才能もあるのかもな」
「……そ、そうかも」
しまった。前世で振るっていたクセで見抜かれてしまった。
「合図は……そうだな、母さんがベルを鳴らしたらスタートだ。さあ、来なさい」
「……わかりました」
お互いに木刀を構える。静寂の中、風がザアッとひと吹きした。
チリン
そのベルの音とともに、レテは木刀を持って駆け出す。そしてぴょん、と飛ぶと上から木刀を振り下ろす。
対して父さんは難なく受け止める。流石に手加減しているとはいえ、軍人。動きが滑らかである。
するりと滑らされて地面に着地すると、今度は大きな身体の父が迫ってくる。これで怪我を負えば全てが終わる。終わるというのに。
……死にたくない。
前世の本能が、子供としての当たり前の感情が身体を動かした。
風属性を地面に打ち、自身の身体を吹き飛ばす。そして壁に足が着くと、そのままの勢いで父の側面に突っ込む。
「っ!?」
手加減していたとはいえ、油断はしていないはずの父が驚く。その小競り合いの中、父はふとぽつりと呟く。
「……なぁ、いつまでも家にいるのは退屈じゃないか?母さんに聞いたら本は全部読み終わって、かと言って新しい本を買って欲しいとも言わない。外にも迂闊に出られない。……数年待つとしても、一足早く外を、見て見ないか?」
「……とう、さん」
あぁ、自分の気持ちを両親は理解していた。
確かに退屈だった。退屈も悪くないが、何れ外に出られるとは思っていた。
だがそのチャンスが目の前にあるとしたら?
既に実力は見せてしまった。ここから怪我をしてもわざとだと見抜かれるだろう。ならば……
「父上、お胸をお借りします。……木刀に、付与魔法をかけてもらっても構いません」
「……そうか。だがかけるのは微弱な雷だけだ。それでいいな?」
「はい。自分は……父上に勝ってみせましょう」
そう言って一旦距離をとる。そして、付与魔法をかけると、流石に母が止めにくる。が、それを自分が制止する。
……この世界のアグラタム様がどんな人か分からない。しかし、守護者の部下とだけあれば父だって相当強いのだ。
だから自分は、少しだけ力を出す。それで十分だ。
いつも読んでくださってありがとうございます。次の話は戦闘モードです