レテの誕生日パーティ
「うわぁ……凄い豪華だ……!」
訓練場から戻り、各自風呂に入って自室や他の場所で時間を潰していると、執事やメイドさんがご飯の時間だと言って呼んでくれた。
そこで目にしたのは豪華としか言い様のない料理の数々だ。魚介類から肉、野菜まで見ただけで美味しいと分かるメニューばかりだ。
「これ、全員分用意してあるんですか?自分だけじゃなくて?」
傍にいたメイドさんに尋ねる。自分の誕生日のはずが、何やらすごい豪勢だ。
「はい。レテ様の誕生日祝いということで、全員分用意させて頂きました。おかわりも用意してありますので、食べ盛りの皆様にも満足してもらえると思います」
「ありがとうございます!」
自分が感謝を言うと、メイドさんは笑顔で一礼する。皆もその言葉を聞いて笑顔になる。
「マジで!?ありがとうございます!」
ショウがお礼を言うと、メイドや執事の皆が笑顔になっていく。
「お嬢様の友達の誕生日と聞いて、料理長が腕によりをかけて作った料理の数々です。是非、沢山お食べ下さい」
「はいっ!」
それにシアが元気に返事をすると、席に着く。
テーブルもその分大きく、貴族らしさがある。だが子供用に椅子の途中に登るための足場があるのは、自分達に対しての配慮であろう。感謝してもしきれない。
「じゃじゃ!レテ君!ほら!」
「……誕生日だから、乾杯の合図」
(そうか、自分が主役だもんな)
そう考えつつ、座ったまますっとジュースを掲げる。オレンジジュースの様だが、澄み切っていてとても美味しそうだ。これは凄い。
「ファレス、フォレス。それに他の皆やメイドさんや執事さん。訓練に付き合ってくれた方もありがとう!自分は最高の誕生日パーティで祝ってもらえて幸せです!乾杯」
「「「乾杯っ!」」」
複数の声が重なると、皆がジュースを一斉に飲み始める。美味い!と言ったのは誰だったか。最早分からない。分かるのは、目の前にある料理と飲み物全てが美味という事だけだ。
「うぉ、この魚滅茶苦茶美味しい……!骨抜きもされていて食べやすいし、なんて言うか……焼くのとは別の美味しさがある!」
「この野菜料理も美味しいです。野菜特有の臭みも苦味もないのに、旨みだけが溢れ出てくるようで……いくらでも食べられます」
「……この用意された肉料理、どれをとっても美味しい。特にこのハンバーグ、フォークで刺すまでは崩れないのに口に入れた瞬間ほろほろと崩れていくような感じがして食べやすさと美味さが両立されている」
皆がとにかく美味い美味い言う中、自分も無我夢中で食べていた。自分だって食べる時は食べるのだ。
「あの、えっと……」
そんな時シアがキョロキョロとする。するとフレッドさんがシアの方に寄っていく。
「どうかなされましたか、シア殿」
「えっと、この魚料理をおかわりしたいな……って」
「了解でございます。直ぐにおかわりを持ってまいります。他の皆様も、レテ殿に関わらず傍にいるメイドや執事に申し付けてくだされば持ってまいりますので」
そうフレッドさんが言っても一応自分の誕生日パーティなのだから、自分からも一言言って後押ししておこう。
「皆自分の誕生日だからって遠慮しなくていいよ。自分だって美味しく食べているし、皆が美味しく食べている姿だって好きだから、是非フレッドさんの言う通りおかわりしてほしい」
「……!そうしたら俺、この野菜おかわりしたいです!」
「私、このお肉を!」
そう言うとクロウとニアがおかわりを求め始める。やはり自分の誕生日パーティということで遠慮していたのだろう。もちろん自分だって遠慮なくおかわりしている。食べ盛りだもの。美味しい料理は食べなきゃ損である。
「私もおかわりしよっかな!」
「うん……お肉」
ファレスとフォレスもおかわりしている。今の対応を見る限り、皆に同じ対応をしている。つまり自分達はこの家で最高級のおもてなしを受けているということだ。有難い。
「す、すみません……フォークを落としてしまいました」
「お気になさらず。今替えを持ってまいります。それよりも、怪我や衣服に汚れなどはありませんか?」
「はい、大丈夫です」
あのダイナでさえ緊張しているが、おかわりやらなにやらしているのだ。皆が楽しみながら、雑談しながら。自分の誕生日パーティは過ぎていった。
それを執事やメイドさん、フレッドさんはにこやかに見つめていた。
「いやぁ食った……食った……食後のデザートもホント美味かった……」
もう満足だよ、とばかりにクロウが呟くと、皆がそれに同意する。
「本当に美味しかった……!」
「はい。私はあまり食べる方ではありませんが、ついついデザートもおかわりしてしまいました。それぐらい美味しかったということですね……ふぅ」
ニアとミトロが感想を言うと、そろそろ就寝の時間である。皆寝よっか!とファレスが言うと、こくりと頷いて割り当てられた部屋に移動する。
自分も移動して、皆におやすみを言ってベッドに入る。
ふかふかだ。枕も柔らかく、寝やすそうだ。
……
…………
(……おかしいな、寝れない)
少し食べすぎただろうか。そう思って起き上がると、二階のベランダに向かう。
すると、先客がいた。
「あれ、シア……?」
「あ、レテ君。もしかしてレテ君も眠れないの?」
月明かりに照らされて、衣服も貸し出された彼女はとても綺麗だった。うん、と頷きながら横に並ぶ。
「……自分の誕生日がさ、こんなに豪華に祝ってもらえると思ってなくてさ。多分それで興奮しちゃったんだと思う」
「私もかな。孤児院では皆で食べても、こういう特別な料理とかなかったから……」
そう言って、二人して月を見上げる。あぁ、とても綺麗だ。
「レテ君、月が綺麗だね」
「げふっ、げほっげほっ……」
「レテ君!?」
その言葉はいけないぞシア。いくら仮の未来の婚約者といえどそのセリフは不意打ちだ。
背中を摩ってもらって落ち着くと、聞こえないようにそっと呟く。
「……もう、死んでもいいわ」
「ん?何か言った?」
「いや、確かに月が綺麗だなって言ったんだ」
ふーんとこちらを見るシアに視線を合わせていると、後ろから声がかかる。
「おや、眠れませんか?」
「あ、フレッドさん」
後ろを見ると、にこやかなフレッドさんがいた。
「今日はありがとうございました。お陰で素敵な誕生日パーティになりました」
「それは何よりでございます。……それよりも、お二人は寝れないご様子。宜しければ、ファレスお嬢様とフォレスお嬢様のお話でも如何ですか?」
その言葉が、秘密主義であろう執事長の口から出たことがびっくりした。
「……いいんですか?言っても」
「お嬢様からは、お嬢様自身と私が信頼出来ると感じた方にはお話しても良いと言われております。御二方やそのご友人は信頼出来るお方。寝れないのであれば、この老人のお話にお付き合いくださいませんか?」
そう言ってベランダに出てくる。自分とシアが頷くと、フレッドさんは月を見ながら話し始めた。
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