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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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レテ、十五歳の誕生日 3

「皆の者、少しばかり訓練を中止してください」


フレッドさんがどデカいとしか表現のしようがない庭へと案内してくれると、そこに響き渡るように声を出した。


「はい!」


その訓練していたリーダー格の人が返事をすると、皆が走ってくる。


「あ、お嬢様!おかえりなさいませ!」


そう言うと皆がおかえりなさいませ!と声を合わせる。もしかすると、訓練生とメイドや執事を兼ねている人もいるのかもな、と思いつつフレッドさんの話を聞く。


「こちらはレテ殿。この方と鍛錬を行って頂きたい。

……しかし、侮ってはいけません。話によると、武術と魔術両方に長け、ファレスお嬢様とフォレスお嬢様を同時に相手をして余裕の勝利。尚且つあの魔術学院で一つ上の生徒に完封勝利したお方。そして、この方の使った魔術、武術については一切の秘密にしてもらいたい。よろしいな?」


皆がごくりと喉を鳴らす。やはりファレスとフォレスは訓練を積んでいたのだろう。二人で一組とはいえ、成長した二人をいとも容易く下したというのは衝撃的なのだろう。


「で、では私が」


その中から一人の少女が出てくる。観客が離れて、自分と少女だけになると皆が緊張するのがわかる。

自分の最大、それを繰り出して良いものか。そもそも、自分に最大と呼べるものは幾つあるのか。まずは小手調べさせてもらおう。


「……先手は譲ろう。全力を見せてください」


そう言った瞬間に後ろの皆が言っちゃったかーとばかりにあぁ〜という声を出すのがわかる。そんなに自分に事前準備させるのが嫌なのか。

とある魔法を隠すように爪先をコンコン、と地面に当てて魔法を地面に仕掛ける。これで準備は完了だ。


「……はい。先手は打たせてもらいました」

「早い。……それがどんなものか、見させて頂きましょう」


そう言って彼女が一歩踏み出した瞬間だった。

彼女の片足が沼に沈むように地面に沈んでいく。庭が壊れても大丈夫ということだったので、地面に水を仕込んで一部を沼にさせてもらった。


「ぬ、これが先手……?だが……!」

「その前に上を見たらどうですか?」


相手からの火球をかるくいなすと、ほら、と指を指す。するとそこにはとある物が顕現していた。


「な……!?」


そこに現れたのは光に包まれ、姿を隠していた『闇の隕石』。勿論中に攻撃力はない。しかしそれが足が動かない状態であるとどうなるか。


「く、足が……まずい!あれに当たれば……!く、来るな……動けっ!あ、あああぁああああっ!」


隕石が着弾し、闇に彼女が包まれる。闇の中で恐怖に悶える女の人を見るのは趣味ではない。直ぐに腕を薙ぎ払うように動かして闇をかき消すと、土魔法で水を下から埋めることで沼から足を出してあげる。


「っは、はぁ……なんと……いつの間に仕込んであったのだ……上には何も……」


「爪先で土に仕込ませた、と思わせた時です。その時に闇の隕石を光に覆わせ、更に自分が動くことによって自分に注意を向けさせる。これで魔法を隠すことが出来ました」


「……参った。先手を打って良いと言った時、レテ殿の友人方が何やら声を上げていたのがわかる気がする」


そう言うとぺこりと礼をしてくれたのでこちらも礼をする。


「……これが、全力!?」

「武術どころか一歩も動いてねえぞ……」

「先手を打たせなくても勝てる気がしませんよ……」


皆が驚く中、シアだけはううん、と首を振った。


「私には分かるよ。レテ君。……全力出したけど、本気ではやってないでしょ?」


その声に流石にフレッドさんも、訓練生の皆も凍るような空気を出す。

それもそうだろう。自分より上の、鍛錬を積んでいる子に一歩も歩かせず勝った上にそれが本気で無いとは。


「……どこかに『的』はありませんか?出来れば、丈夫なやつを」

「的……?人ではダメなのですか?」


フレッドさんの問いかけに対し、静かに答える。


「自分の全力、つまり本気で使う技は『殺して』しまう可能性があるので」



フレッドさんとその訓練生たちが倉庫から的……というにはデカい石像を持ってくる。


「これを出すのはいつ以来ですかね……この石像はあらゆる攻めを打ち込んでも壊れなかった、無敗の的……それだけ頑丈でございます。これで宜しいですか?」

「はい。ありがとうございます」


そう礼を言うと、距離をとって自分の左手に光の剣を作ると、それを両手持ちにして前に構える。


「……アグラタム様の猿真似なのですがね。それでは」


大嘘である。逆に、アグラタムが猿真似した技である。これは、恐らく自分が放つ技で一番影響も威力も高い、文字通り必殺の技。


「……風流」


突然強風が吹き荒れる。一言一言に魔力を込めて、言霊にすることで周りに影響を及ぼす。


「……雅」


周りの景色が変わっていく。日中の明るい景色が、仄暗く、それでいて蠱惑的と言うべき空間に塗り変わる。その中でも驚いていたのは知識豊富なミトロであった。


「特異能力、空間侵食……!?」

(残念ながらこれ、ただの言霊なんだ。すまない)


そう思いながらも周りを形作る最後の言葉を言う。


「舞うは桜の花吹雪……」


周りに無数の桜の木が出現する。はらはらと舞う桜の美しさに見とれる者、その現象に唖然とする者、これから何が起こるのかを目に焼き付けたい者。それぞれだ。

だから、自分が前世で生み出した、最強を撃ち放つ。


「……一刀!『千本桜』ッ!」


そう言って自分が剣を離れた的に振り抜くと同時に、剣の横から二本の桜の線が螺旋を描いて的へと向かう。

それと同時に周りに舞っていた桜、桜の木に付いていた桜が全て刃と化し、的に向かって一斉に降り注ぐ。

ただサラりという舞う音の後。

壊れなかった無敗の的は、綺麗に細切れの形になって切断されていた。


「あっ……えっと……ごめんなさい。壊しちゃいました」


とりあえずフレッドさんに土下座する。既に周りの景色は日中の明るさに戻っている。その様子にフレッドさんは感涙しているようであった。


「まさか、あの的が砕ける技を、こんな美しき技をこの目で見られる日が来ようとは……!的が壊れた事に関しては問題ありません。寧ろ、レテ殿の本気の恐ろしさ、そして美しさ。それを見させていただきました」


そう言って撫でてくれると、手を取って立ち上がらせてくれる。


「……この事は、絶対に秘密」

「だからね!家の皆も、クラスの皆もっ!」


フォレスとファレスが言うとクラスの皆はこくりと頷き、訓練生は唖然とした顔でただ首を縦に振っていた。


「こんなもの、むしろ説明して信じろという方が無理です……」

「まだまだ俺達も鍛錬しなければ……!」


そう意気込む訓練生に、フレッドさんから耳元に良き刺激になりましたと感謝を伝えられる。

それを見て、ニコッと笑う。屈託のない笑顔で。


(猿真似……違う、これはレテ君の技だ……逆なんだ、レテ君が真似たんじゃない。アグラタム様が、努力して習得したんだ……!)


シアだけは真実に気がついたようで、いいの?とばかりに心配そうな目を向けてくる。それに近づくと、ぽんぽんと頭を撫でる。


「大丈夫だよ」

「……レテ君が良いなら、それで」


その様子にファレスとフォレスも含むクラスメイトがやっぱり何かあるでしょと詰めかけてくる。

それをフレッドさんが穏やかに見つめていた。


(良き……本当に良き友を持ちましたね。お嬢様……)

いつも読んでくださりありがとうございます!

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