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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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医務室にて 3

暫し三人で笑った後、それじゃあとばかりにジェンス総長が立ち上がる。


「私はここら辺で失礼させていただこうかね」

「あ、分かりました」


そう言うと自分は扉の前にいるので、総長に道を譲ろうとする。その時だった。

ゴーン……ゴーン……


「っ!?」

「もう少し留まるとしよう……!レテ君もこちらに!」

「はいっ!」


荘厳な鐘の音。即ち異界からの侵攻からの合図である。

アグラタムが対処に向かっているが、固まるのは理由がある。

それは出てくる敵が、門が一つではない場合があるからだ。敵戦力を削げば撤退する異界の者だが、出てくる場所が一箇所とは限らない。

その証拠に、丁度扉の前……至近距離に門が一つ現れた。


「アグラタム様が抑えきれなかった……?」


疑問を呈するナイダに対してジェンス総長が口を開いて答える。


「いや、制圧するよりも先に尖兵がやって来たのだな。……魔力の高い、濃い場所を狙ってやってくる。つまりはまぁ……そういう事だよ、レテ君」

「……自覚はありますよ」


元王宮のジェンス総長に自分、こんな場所を狙わないわけがない。して、どうしたものか。門は開いたが敵が出てこない。かと言って魔法を安易に使えば医務室がとんでもない事になってしまう。

一つ安心出来ることがあったとしたら、武術学院の皆が固まっている所から死角になっていることだろうか。

チラッと後ろを見るがカーテンも相まってバレていない。


「レテ君。私が医務室に結界を貼ろう。悪いけれど、相手を頼めるかな?」

「分かりました。……身分というか、出生がバレていて初めて良かったと思いましたよ」


二人ではっは、と笑う中ナイダはじっとこちらを見ている。心配するように、大丈夫なのかと。


「ナイダ、完全に大丈夫とは言えない。実力を過信するつもりもないよ。……ただ」


尖兵と思わしき人型の黒い影が出てくる。改めて見ると怖いな、と思いつつジェンス総長が結界を貼ったのを確認して左手に光の長剣を持つ。


「守護者の師として。この場は死守しよう」


そう言うと目の前の影に向かって突進する。そして、相手が何かを唱える前に飛んで一回転するように右上から袈裟斬りにして霧散させる。


「……速い」


ナイダがポツリと感想を漏らしている。剣技の事だろうか。


「まだまだ来るみたいですぞ……お気をつけを……!」


そうジェンス総長が言うと、一人やられたのを感知したのか二人、三人……どんどん数が増えていく。しかし、そこで止まりだった。医務室が溢れる前に、門が閉じたのだ。


「どうやら守護者が撃退に成功したみたいですな。後はここに居るものだけかと思われます」

「じゃあさっくりと」


何かを唱え、武具を構える彼らには申し訳ないが殺させてもらう。


「……二刀。審判」


そう言って自分の前を光の剣で左斜めと右斜めに切り裂く。すると、そこに重量が集中するように、風魔法とは違う引力で敵が密集していく。

そこを光の剣で腹の部分を貫いた後、真っ直ぐ上に振り抜く。血とかが出ない影の尖兵だったのは助かった。尖兵は為す術なく、倒れて行った。


「これで、大丈夫です」


光の剣を消すと、ジェンス総長も結界を消したようだ。周りの薄い膜が無くなる感覚がした。

その直後、門が開く。ナイダが驚いた顔をするが、この気配は自分もジェンス総長も知っている人物だ。飛び出した人物を見てジェンス総長が一言投げかける。


「大丈夫だ、終わったよこっちも」


現れたのはアグラタムその人だった。ナイダは大きく目を見開いてどうしたら良いか分からないと言った感じだった。


「尖兵の気配がしたと思ったのですが……そうですか。ジェンス、君が?」

「……いいや、私は結界を貼っただけ。このナイダ君と私にはもう正体が分かっているのだよ。

……君の師だ。圧倒的な殲滅速度だった」


こちらをゆっくりと見るアグラタムにこくりと頷く。


「そう、ですか。ですがこの事は私の立場の為……いえ、もっと言えば師の安寧な生活のためにも……」

「分かっています。他の生徒や先生……家族にも秘密にします。アグラタム様」


ナイダが口を開くと、有難いというように頭を下げる。あわあわと頭を上げてほしそうにする彼女を見て、自分はクスリと笑う。


「……アグラタム、君の師は凄いな。特に最後の魔法……審判、だったか?あの技は私にも分からない」

「あれが師の言霊。決められた動きと言葉を口にする事で別の事を成す、言わば特異能力に近い形のものです。前見せた桜の技も……模倣に過ぎません。師には遠く及ばない」


ポカンとするジェンス総長を見て、自分はポリポリと頭をかく。どうやってこの輪に入れば良いのだろうか。


「レテ、貴方は凄い。その実力は武術学院で剣でやっていけそうな程。……でも、負けない。私は貴方も、アグラタム様も超える」


ナイダが切っ掛けを作ってくれた。そして、改めて宣誓するような言葉に対して微笑む。


「タダの学院生だけれど、君にまだ超えられるわけにいかない。自分も鍛錬を積んでまだまだ強くなるよ。ライバルとして」


その後は口裏合わせである。情報が違えば疑う者も出てくる。


「ジェンス総長が結界を貼って守っている間に、アグラタム様が助けに来てくれた。それでいい?」

「自分はそれでいいよ」

「私もそれで良い。誰かに問われたらそう答えよう」


皆で口を合わせると、今度は自分に対してナイダが質問してくる。


「そういえば光の剣の技って……」

「ああ、それはね……」



その二人の学院生を見ながら、ジェンスが少し離れた自分の所まで来てそっと口に出す。


「彼には本当に、英雄の称号も守護者の座も要らないのだね?ただ、普通の、ありふれた生活を送らせるだけで。遅刻して怒られるような、そんな学院生活で」


それに対して自分は笑顔で答える。


「はい。師はそんなものを望みません。ただ、病気にかからず、何気ない楽しい生をこのイシュリアで送ってほしい……それが私の願いです」

「そうか。彼にも約束したよ。一人の学院生として扱う、とね」

「ええ、それで良いんです。師だってやらかしたり、寝過ごして先生や友に怒られる時間が……必要だと思いますから」


そう言って門を開けると、一言だけ投げかけられた。


「……良い師だな」

「ええ、とても」


いつも読んでくださりありがとうございます!

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