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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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医務室にて 1

「……いや、あの」


終わった後の授業中。皆から視線を向けられている。

正確に言えば『お前はココにいるべきじゃないだろ』とか『他にいく場所あるだろ』といったムスッとした視線だ。


「ん?レテ君。分からないところがあったか?」


スイロウ先生が声に反応して文字を書くのをやめて問いかけてくる。分からないのは問題ではなく皆の反応だ。いや、薄々理解はしているが。


「あ、いえ。……先生、次の時間は何でしたっけ」

「次の時間は実技だぞぉ、どうかしたか?」

「……欠席してもいいですか」


これ断られるだろ、と思ったがスイロウ先生は意外にも皆を見渡して何となく察したような、納得顔になると少し考えて発する。


「……まぁ、冬休みでどれぐらい変わったかを測るようなものだからレテ君は不要だろう!次の授業、出席扱いにしておくから少し休むんだぞぉ!」

「ありがとうございます……」


皆からの視線がよくやった、という物に変わって机に突っ伏す。その横でクスクスとシアが笑っている。


「皆から向けられて大変だねー?」

「……向けてた人に言われたくないし、それよりもシア?さっきの問題のココ。間違ってるぞ」


横に視線を向けてノートに指をトントン、と置くと彼女は少し考えてあっ、という表情になる。


「ほんとだ……いつ気づいたの?」

「今だよ」


身体を起こすととりあえずこの授業は集中しようと意識を向けた。



同時刻。武術学院の医務室にて。ナイダは横たわって医務室の先生に不思議がられていた。


「ホント、不思議ねぇ。連れてこられた時は脚に穴が開いていたのにも関わらず、血は出ていない。それどころか他の部分の生命力というべきかしら……血とかが治そうって躍起になっている気がするのよね。こんな丁寧な応急処置が出来る先生がいたなんて、私知らなかったわ」

「そうですね。……凄いことです」


身体は起こせるものの、足はまだ動かせない。これでも加減されているのだ。彼は本気を出したらどれだけの威力であの矢を打ち出せるのだろうか。


「少し失礼しますよ」


コンコン、とノックされた後にガラッと扉を開けてきたのは、ジェンス総長だった。


「あら、ジェンス総長!怪我でもなさいましたか?」

「いや、今回は私が許可を出してしまったのでお見舞いを、と。まさか大怪我になるとは思わなくてですね」


ジェンス総長がこちらに頭を下げてくる。それに私は頭を横に振る。


「ジェンス総長、あれは私が加減無しでと彼に頼んだからです。聞いてはいるでしょうが、顕現の神童……それが彼に付いた名前です。その本気を、少し挑発してしまったのです」

「ふむ……確かに学院の喧嘩は勝った方の言い分が通る。それをわかって彼に加減なしで、と頼んだのだね?」


総長が確認するように聞いてくるのでこくりと頷く。すると、少し考えた後に総長が医務室の先生に言う。


「すまない。彼女と二人で話させてはくれないかな?こんな立場である故、中々生徒と話す機会も無くてな」

「ええ!大丈夫ですよ。ただまだその子は起き上がれないのでそこだけは。私は学院生が怪我をしていないかグラウンドにいるので、終わったら来てください」


そう言って先生は出ていった。私と二人きりで話す事とは、なんだろうか。


「……ナイダ君。君は武術学院の歴代の中でも優れていることを知っているかね?」


唐突に話しだされる。優れている?何が?


「何が、でしょうか」

「一学年にして二学年を追い詰める技量。それを糧にして次へと活かそうとする向上心。武術にも魔術にも興味を持つ好奇心。そして、それを実践へと持ち込む胆力。私は優れていると思っているよ」

「は、はい。ありがとうございます」


何が言いたいのかわからずにそのまま話を聞いている。


「レテ君。彼とて神童であろう。……しかし、君と彼とは次元が違うのだ。

君を貶す訳では無いよ。根本的な部分が違うのだ」

「……根本的?」


どういう事だろうか。彼と私、根本的に違うとは生まれの差だろうか?それとももっと別の何かだろうか。


「ここからは私の一人語りになる。……少し長くなるが大丈夫かね?」

「はい。動けませんので」


一人語り……つまり、独り言。本来漏らしてはいけないことなのだろうと覚悟を決めて聞き始める。


「……もう昔になる。私には強い、本当に強い友人がいてね……。彼とは今も仲良くしているのだけれど。彼はとても偉い立場にいてね。私が学院長として二つの学院を総括する前。その時はイシュリア王が学院を総括していたのだよ」

「……」


私は黙って聞いている。話を聞き続けるために。この貴重で、恐らく誰にも話されないであろう事を頭に記録するために。


「そんな時だ。私は武術や魔術に少し秀でてはいたものの、得意ではなかった。代わりに覚えたり、教えるのが得意だったのだよ。逆に彼は吸収するのがとても上手でね。私は本を……そう、沢山の本だ。王宮に居た頃は彼に本を読んでは教え、彼は強くなったのだよ。

そう、守護者と呼ばれる程にね」

「……!」


守護者、それを意味する人は一人しか居ない。


(……アグラタム、様。ジェンス総長はアグラタム様と友人関係にあった?でもそれをどうして……)


「彼が軍からイシュリア史上初めて、守護者となった時、イシュリア王に命じられたのだ。貴方は数多の人を育てた。更には守護者をも育てたのだから、自分の跡を継いで総長となりなさい、と。それで私は総長となった。私は今までよりも、子を育てるべく学んだよ。……しかし、友人は孤独だった。教えられる事も全て教えてしまった。彼は強さの頭打ちになってしまったのだよ」


そう言うジェンス総長は昔を思い出しているようで、上を向いてニコリと微笑みながら話している。それを見ながら考える。


(ジェンス総長は今の立場になり、アグラタム様を育てたあげたけれども頭打ちになった……それが……独り言……?)


「そんな時だ。彼が、珍しく夜に私の部屋に飛び込んできて、嬉しそうに言ったのだよ。『俺よりも強い師匠を見つけた、俺はまだ強くなれる。ジェンス、お前の教えと師匠の教えを糧に俺は守護者としてもっと強くなる』とね。

その時は祝福したよ。彼に教えてあげられることは一切なかった。だから師匠が出来て、良かったとね」


(……アグラタム様に師匠?ならばその人は守護者を超えていてもおかしくない。何故、守護者の立場にその人はいない?……待って、なんでその話を私に?まさか……まさか……!?)


ふと一つの答えに辿り着く。だが確信が持てない。確信を持つにはまだ語りが必要だ。

話を聞きながらナイダは首の後ろに伝う汗を感じた。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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