加減はしたんだよ
結界が解かれると、ワーッ!と生徒が集まる。一学年だけでない。もっと上の生徒もだ。
「すげえ魔術だ……」
「武術学院の子も、いきなり投擲してたもんな……遠慮がなかったみたいだ……」
「両方技量がやべぇよ、一年とは思えねえ」
周りの生徒がざわめく中、私はこれだけは彼に聞かないと、と思って細く問いかけた。
「……最後の……技は……加減した……?」
そう聞くと、彼はゆっくりと頷いて宥めるように言葉を発した。
「全力でやると結界ごと貫いちゃうからね。君もこの怪我では済まない。それに自分は名誉も栄光も要らない。必要以上の威力は要らないんだ……だから、今はゆっくりおやすみ」
「……貴方は……強い……」
そう言って私の意識は途切れた。足をやられただけなのに、と後から思うがそれ程に彼の魔法は強かった。
「すまない!彼女を医務室へ!」
ざわざわと騒ぐ中、自分はナイダをお姫様抱っこの形で持ち上げる。一部キャーとか羨ましいぞー!とか聞こえているがそんな事聞いている場合ではない。こちとら怪我人を抱えている上相手は気絶しているのだ。早く医務室に運んであげないといけない。
「皆!とりあえず言いたい事は後にして、道をあけるんだぁ!レテ君はナイダ君を自分に!」
「……!スイロウ先生!お願いします!」
こういう時、やはり頼りになるのは先生だ。先生の一喝で慌てて道が開き、そっと彼女を渡すとスイロウ先生はなるべく揺らさないような走り方で医務室へと走り去っていった。
「ちょ、ちょっと!ナイダが怪我してるじゃないの!貴方、加減ってものを知らないの!?」
ナイダの友人だろうか。自分に突っかかってくる。先程の反応を見れば当然だろう。自分とナイダの会話は自分達にしか聞こえていないから、怪我をしてもいいというナイダの言葉は周りに伝わっていない。だから、ここは正直に。嘘を混じえて答える。
「……すまないと思っている。彼女がつい、本気だったからこちらも力を振り絞って戦ってしまったんだ。その結果彼女を怪我させてしまったのは自分の責任だ」
彼女が怪我をしたのなら、その責任は自分が負う。例え彼女が怪我をしていいと宣言していても、それ以外の方法もあったのだから。だからこれは自分の責任だ。
「だからって……!」
「……ちょっと待ってくれないか?ナイダさんのご友人さん」
更に噛み付こうとしたところにフォローに入ったのは意外にもレンターだった。静かな彼がこういう騒ぎに関わるのは珍しい。
「自分は光魔法が得意だ。……だから、レテ君が何をしたかが分かる。彼は、怪我をさせたあとナイダさんに光魔法の応急処置を施していたんだ。その証拠に、ほら。先生が通った後にも、レテ君にも……返り血以外の血の跡がない」
「……っ!」
確かに直後に応急処置を施したため、血の跡は無い。寧ろ原理を知っているため、骨にさえ通って居なければ後は肉を食べれば血肉が自然と戻り、数日もせず何事も無かったかのように過ごせるだろう。脚に穴が開いて、そのレベルの治療である。
「……この子は、彼女が怪我をして慌てて回復魔法を唱えたってこと?」
「……そういう事だ。だから、彼に非があったとしても、直ぐに彼女を思いやれる博愛の心があったんだ。その辺にしておいてあげてほしい。……覚悟を受けて戦ったナイダさんのためにも」
「……そうね、ナイダは無茶をしてもなんの覚悟も無しに戦う人じゃないわ。……回復魔法、貴方凄いのね」
そう言って去る彼女に今度はわっと魔術学院の生徒が集まる。
「なあなあ!最後の矢!結界に突き刺さってたよな……!どうしたらそんな威力が出せるんだ!?」
「いや、それよりも回復魔法だぞ!?一学年であの怪我を負わせた後にそれを治療できる回復魔法の技術!どこで学んだ!?」
主に先輩からの質問だ。わああと集まる彼彼女らの質問に困惑しながら答える。
「ええと……自分は顕現系統が使えるので、それの応用で……。回復魔法は家にある書物と魔術学院の書物で学びました」
こっちは全て嘘である。全部、昔アグラタムが実験台……もとい訓練した時の成果である。
「レテおまっお前!」
助け舟を求めていると、慌ててショウにSクラスの所に引っ張り出される。そこにはレンターも戻って九人の同級生がいて、なんとも言えない威圧感がある。
「は、はい?なんでしょうか……?」
つい敬語になってしまう。シアだけはどこか作っている顔をしているが、他の皆は真剣だ。
「……お前、本気でやったのか?」
「ほ、本気って?」
ショウが圧力をかけて問いかけてくるので少したじろぎながら返すと、ニアが代わりに問う。
「あの光の矢……彼女に本気で打ったの?って聞いてるの。私にはわかる、ううん。正確にはみんな分かると思う。答えて」
ニアもいつになく威圧感が凄い。周りで答えるのを待っている生徒がいる中、仕方ないと思いつつ一瞬だけ音声を外界と内界に切り分ける結界を風魔法で作り上げると、一言だけ答えた。
「加減はしたんだよ」
それを答えると同時に即座に結界を解く。やっぱりね、という顔の皆を見て疑問に思う。
「……皆、なんでそう思ったわけ?」
不思議に思っていると、突然ファレスとフォレスがシアの背中を叩く。
「え!?私!?……ええっと、普段の授業とか……色々見てて……こう、そうかな?って」
「そうかなって……」
(シアは自分の実力を知っているから下手に誤魔化すしかないのが辛いな……互いに……)
お互いに目を伏せながらそれを肴とばかりに皆が冷やかす。
「お!?なんだなんだ!今度は二人して目を落として!」
「ははーん?これは……恋の予感?」
周りがまた騒ぎ立てる中、タイミングよくジェンス総長が声を立てる。
「両学院の生徒たちよ。大いに学ぶ時間を取れたことであろう。特に今回の事は大きな糧となるでろう!そろそろ次の授業が始まる故、各自先生の指示に従うように!」
そう言うと、えー、とかぶー、とかいいながら他の生徒が散っていく。ジェンス総長の思わぬ助けにほっとした。
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