両院集会
翌朝。朝ごはんを食べて教室に行く。集会があるので皆は集まっていたので、魔術学院の一学年の先生方が一番空間の取りやすいSクラスの教室で各クラスが揃っている事を確認すると移動する。そう思うとスイロウ先生は割と偉い立場にいるのかもしれない。
魔術学院から出て、学院交流をしたどデカい空間に移動する。本当に広い。いくら脱落者やクラス分けで人数が絞られてるからといってこの人数をズラっと並べられるのだ。本当に広い。
今回は武術学院の生徒が先に並んでいた。というより、これはどっちでもいいのだろう。集まればいいと言った感じだ。
「よーし、前みたいに並べー!二人一組で列を作るんだぞぉ!」
そう言われたので前のように並ぶ。勿論一番前である。自分は小さいから仕方があるまい。
しかし今度は少し違う。前はクラス単位だから良かったが、今回は全学年集合しているので必然と小さい子が前に来る。知らない子が自分の後ろにも来ている。全員並び終わったところで、学院集会が始まる。
「生徒の諸君。冬休みは楽しめただろうか?一学年の皆にとっては初めての休みであり、六学年の皆にとってはこれが最後の休みである。その休みが有意義なものであったことを私は祈っている。
武術、魔術。それ以外の事。何かしらに打ち込めただろうか?それとも日々の疲れを癒すため、休息をとっていただろうか?私としてはどの過ごし方をしていても、君たちが満足していればそれは大きな経験となるであろうと思う。いくら寿命長きイシュリアの民であっても、子供の時はあっという間なのだから。
……さて。本来はここで終わりなのだが、残念ながら戻るのは少し後になる。何故ならば皆に忠告をしなければいけないからだ。これは一学年から六学年、もっといえば学院全体。教師にも言えることである。
昨日、とある列車が人攫い未遂にあったらしい。その時はアグラタム様とフードを被った人物が撃退してくれたものの、いつ、どこで君たちがそういう事に出会うか分からない。君たちが無事でいるためにも、自分の力を過信せず、日々そういった輩に負けない刃を研ぎ澄ませてほしい。それでは学院集会を終える。総学院長、ジェンスより」
長い言葉が終わると、皆が立ち上がる。
そして一礼すると、先生方も一礼して、集会が終わる。その後は次の授業の時間までは自由行動らしく、先輩方は武術学院の生徒と話したり、所々取っ組み合いが出来ている。仲が良いのだろう。
「……レテ。さっきの話、どう思った?」
そう思っているとふと横から声をかけられる。武術学院のナイダだ。前回声をかけられてから交流は無かったが、いきなり声をかけられてびっくりしながら答える。
「どうって……そりゃ、怖いよね。人攫いって」
「うん。確かに怖い……けれど、私が気になるのはアグラタム様と並んだフードの人ってところ」
「フードの人?」
自分だから何とも思わなかったが、何か気になることでもあったのだろうか。
「私はその列車に乗っていた。あの声は……って言っても、レテ君は分からないかもしれないけれど、おぞましい声だった。けれど、それ以上に不思議だったのはアグラタム様が謎の扉を開いてやってきて、突然フードを被った男が現れたことだったんだ」
全力、全力でとぼける。アグラタムに座標を教えたのは自分だし、フードを被った人なんて自分が光魔法で誤魔化した産物に過ぎない。知らないふりを頑張れ、自分。
「そんなに突然?フードを被った人なんてどこにでもいるんじゃないかな……?」
「アグラタム様と共闘している姿を見たんだ。でも、アグラタム様が窓から居なくなった時にはフードを被った人なんてどこにもいなかった。……おかしいと思わない?」
「確かに……おかしいね」
話を合わせろ、頑張れ、自分。
「だよね。しかもアグラタム様と並ぶ力を持っていたみたいで、共闘をしていた。……そんな人が、何故姿を隠しているのか気になって」
そう言うとナイダはするりと剣を抜く。
武術学院では武器の携帯が認められているが、いきなり抜刀するとはどういうことだろうか。
「え?ちょ、ナイダ……?いきなり何を……」
すると周りがザワザワする中、自分だけに聞こえるように声を伝えてくる。
「……私は見ていた。一つだけ、席がその時だけ空いたのを。その横に、シアさんが座っていたこと。……そして、フードを被った人が消えた代わりに貴方がいたこと」
「……ッ!」
「両学院の伝統……勝った方の言い分が通る。私は貴方がアグラタム様と並んだフードの人だと思っている。貴方が違うというのなら、それを私をねじ伏せてみせて」
「……自分じゃない。確かにシアとその列車に乗っていて、声を聞いていたけど自分も怯えて隠れていたんだ」
「あの時私は後方にいた。シアさんの口に手を当てて何かしたのもわかってる。……ここまで分かってて、言い逃れできる?」
(クソッ!まさかバレているなんて!)
たらりと汗を流しながらナイダに真剣な表情で問いかける。
「……もしも、この勝負を断ったら?」
「私はこの出来事を友人に伝える。勿論個人名は伏せるけれど。魔術学院に守護者と並べる程の力を持つ生徒がいると。それは伝播する。……貴方がもし、負けたとしても勝負を受けてさえくれれば私の胸の中に留めておく。貴方が勝てば、私の思い違いということにしておく」
「……わかった。受けよう」
そう言うと手に岩の剣を持つ。周りが離れ、先生が慌てて結界を貼る中、ジェンス総長がじっとこちらを見ていた。
「……ふむ。では私が合図をとろう」
ジェンス総長が言うと、自分は岩の剣を軽く地面につけ、彼女は剣を構える。
「……始め」
合図と同時に彼女はこちらに剣を投擲してくる。しかも風の魔法が乗っていて、危険極まりない。だが。
「いきなり危ないなあ」
そう言って地面にコンコン、と岩の剣を当てると岩の壁が順に現れては前面に出ていき、消えていく。機械仕掛けのように前へと壁が進んでいくようだ。
「ッ!」
そのまま後退する彼女に対し、自分は剣を左手に持ち、右手に岩の剣を持って彼女の元へと歩いていく。いきなり詰めないのは思わぬ反撃を食らわないためだ。
岩の壁が消えると同時に、岩の剣を投擲する。彼女はそれをくるりと身体を回転させて取ると、自分の方に風でブーストをかけてやってくる。
「……ふっ!」
ガァン!と岩と剣がぶつかる。本来なら自分の魔法だから、岩を消して終わらせることも出来た。けれど、彼女があまりに真剣だったから。相手にしてしまう。
「……貴方は手加減している。一撃で決めてみて」
「……それが、怪我を伴うものだとしても?」
「構わない」
そう言われたので彼女の岩の剣を消し、彼女の背後に光の騎士を設置する。
手に持つは光の弓。バレているのならその身で受けてもらう。
「ッ!」
彼女は後ろに飛ぶが、そこで騎士に気づいて目を見開く。しまった、という顔をするがもう遅いのだ。許してくれ。
(……穿て。ミストルティン)
光の矢が文字通り彼女の足を貫く。これでも加減はしているのだ。加減はしているが、その一部は結界に刺さって消えた。これは威力を相殺しきれるギリギリだったことを意味する。
「ぐ、ぁあ……」
「動かないで」
後で医務室に行ってもらう必要はあるが、とりあえず回復魔法をかけて応急処置をする。はぁ、はぁと荒く息を吐く彼女に対して目を合わせて言う。
「……認めよう。フードを被った人は、自分だ」
「……私はそれを胸にしまう。記憶に留める。アグラタム様と、貴方に誓って」
その様子を見ていたジェンス総長が、言葉を漏らす。
「……そうか……貴方が……」
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