表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
二章 学院編
44/270

暗雲の兆し

「レテーッ!学院でもきちんと勉強するんだぞ!父さんは見守ってるからなー!」

「シアちゃんも、レテのことよろしくね〜」


学院へ向かう列車の前で、父さんと母さんが挨拶をする。シアは顔を赤らめながらも両親とギュッと握手をしている。


「夏休みも帰ってきてくれるかしら?シアちゃん?」


母親の顔を見つめ、その笑顔と言葉の温もりを受け取る。シアは大きく両目を見開いて、とても嬉しそうに返事をした。


「……っ!はいっ!」


どうやらここはシアにとって『帰る家』になれたらしい。本当に連れてきてよかった。


「……列車の時間だから、行くね!また会いに来るよ!」

「はいっ!私も一緒に会いに行きます!」


そう言って手を振って列車に乗り込む。そのバッグの中には、父も混ざって皆で作った、サンドイッチを持ちながら。



「……本当に、連れてきてくれてありがとうね」


動いて暫くする列車の中でシアがお礼を言う。こちらをじっと、見つめながら言うものだから少しこちらも照れてしまう。


「うん。放っておけなかったから……まさか、友達以上になるとは思わなかったけど」

「そ、そうだね……でも私、本気だからねっ!レテ君も忘れないでね!」

「分かってるよ、自分が幸せに出来るのなら……」


そう言って彼女が席に置いていた手にそっと手を重ねる。彼女が顔を真っ赤にして、重ねた手の上からもう片方の手を置いて、こちらに身体を寄せてくる。


(う、恥ずかしい)


完全に甘えたモードだ。これでは恋人をすっ飛ばしても今が付き合っているようなものだと思っていたところだった。


「……贄……逃がさない……着く前に……」


ハッとして周りを見渡す。シアも聞こえた、というよりも列車に乗った全員が聞こえたようで不安そうに周りを見渡す。

列車の車掌も不安になったようで、キーッ!と音を立てて列車を停止させてしまう。ガコン、といきなり揺れる感じを味わいながらもシアから声がかけられる。


「……今のって」

「間違いない、この前のやつだな……しかし同じ声してるとは、どんな魔法使っているのやら」


消した、もしくは消えたはずなのに同じ声というのは不気味で不安しかない。

とりあえずもう形振り構っていられる状態じゃないのは理解した。シアに自分の事を黙っているように人差し指を自分の唇に当ててから、それをシアの唇に当てる。

多少惚けた彼女だったが、理解したようで頷く。そうすると自分は光の魔法を使い、自分をフード姿の大人に見せると同時にアグラタムに連絡を入れる為にブレスレットに魔力を通す。


「アグラタム。緊急事態だ。この前の拉致しようとしたやつが列車に乗り込んでいる。座標は分かるな?門を開いてこい」

「っ!?承知しました!」


そう言うとすぐ横に門が開く。他の乗客が怯える中、アグラタムが姿を現す。


「皆!怯える中すまない!だが、不穏な気配を察知してこの様な姿で現すことを許して欲しい。……さて、不埒者はどこだ?」


そう言うと、二人で探知魔法を使う。彼は光、自分は闇。互いに別の属性を使って異質なモノを見つけられればそれが敵だ。

突然フードを被った怪しい男とそれに並ぶ守護者。それに怯えながらも、周りの客は大人しくしてくれていた。


(……何故だ?声が聞こえているのに、気配がない)


アグラタムに魔力を通して思念を伝えると、同じように返ってくる。

(はい。列車の隅々……車掌室から貨物室まで張り巡らせましたが不穏な気配がありません)

おかしい。声が聞こえたのに。あれ程異質な魔力があるならどちらかの反応は得るはずだ。


(逃げた?いや、その程度で逃げるならこの大量にいる人を贄になど……待て?贄、この大量の人数をどうやって制圧する?反撃だってされる可能性もある……自分なら……そう、自分なら……)


前や後ろではなく、『一斉に制圧できる場所から狙う』。


(……っ!アグラタム!上だ!上を探知しろッ!)

「……見つけたァッ!」


探知の結果が出たようだ。彼が窓を開けて飛び出す。

その後ろから自分も飛び出すと、上へと飛び出す。

ビンゴだった。大規模な魔法陣が複数人によって形成されている。


「はぁっ!」


自分が後ろから光の槍に土の質量を持たせ、魔法陣の一部を貫く。


「……贄が……贄の分際で……!」

「この程度で止めるな……アグラタムさえ処理すればこの贄は我らのもの……全ては『タルタロス』の為に……!」


気になる単語が聞こえたが、その事は後だ。アグラタムが複数の光の門を用意するのを見て、自分も後ろから多数の騎士を配置する。その手に持つのは、光の弓。


「アグラタムッ!打ったら避けろ!」

「御意に!」


光の門から複数の光線が発射され、相手の一部が欠けたところでアグラタムが自分の騎士の後ろに下がる。


(この技を使うのは……何年ぶりかな?だけれど、一人も逃がさないッ!)

「穿て!ミストルティンッ!」


光となって具現した矢が、相手を貫き、そして爆散させていく。


「ぐ、ぉ、ぉ……」


苦しむ最後の一人をアグラタムが剣で処理すると、最後に二人で探知して変な気配がないことを確認する。


「……アグラタム、皆を安心させてやってくれ。自分はその隙に元の姿に戻る」

「はい。師の平穏な生活のために、学院の英雄の名は不要です」

「その通りだ」


そう言うと、彼が戻り、自分は光の魔法で蜃気楼となりながら戻る。


「皆!心配させた!だが今、守護者アグラタムの名において、安心が保証されたことを誓おう!皆の行先に祝福を!」

「「うおおおおぉ!!!!」」


皆がアグラタムに集中している間にシアの横に戻る。


「レテ君!平気?」

「ああ、大丈夫だよ。心配させてごめんね」


そう言って手を軽く握ると、強い力で握り返された。


「……ここまで一方的に狙われるのも、嫌だね」

「そうだね。だけれど、相手は話してしまったから。ここからはイシュリア様やアグラタムが動くよ」

「……?」


こてん、と首を傾げる彼女によしよし、と撫でながらアグラタムに連絡を入れる。


(アグラタム。『タルタロス』について重点的に調べた方がいい。相手の決死の言葉だから恐らく偽りはない)

(はい。戻り次第、指示を出します)


そう連絡を取り終わると、アグラタムは英雄らしく走り出す列車の窓から、そっと飛び出して飛んで行った。

その後ろ姿を皆が讚える中、考える。


(……タルタロス、か)


学院に向かう列車の中で敵をようやく見つけた、と思いつつサンドイッチを取り出して、一口食べる。


(何気ない、こんな幸せを守る)


そう決意を固めて。

いつも読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ