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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
二章 学院編
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冬休みの終わりに

「あらあら、今日は二人揃ってクッキー焼くのね〜!」


冬休み最終日の前日、母さんが台所に並んだ自分を嬉しそうに見つめる。勿論隣にはシアが立っている。


「うん、今日は母さんのために焼いてあげようと思って」

「嬉しいわ〜!シアちゃん、手伝ってあげてもらっていいかしら?」

「は、はぃ……」


返事が弱々しく、顔も真っ赤だ。それも仕方ないと自分は思う。



あの翌日、母親は全て聞いていたことをシアに伝えると、シアはもう真っ赤だった。正に熟れた林檎のように、頬を赤らめていたのだ。

しかしその次の言葉と来たら、母さんの度肝も抜くような、覚悟めいた単語だった。


「絶対に、お嫁さんにしてもらいます。私の全てを使って」


果たして本当に自分でいいのか、自分では分からなかった。けれど、前世で誰も幸せに出来なかった自分が、誰かを幸せに出来るのならそれで良いのだ。


「あらあら!うちのレテを気に入ってくれて嬉しいわぁ……その口ぶりだと、昨日の話以外にも何か積もる話があるみたいね?後で書斎に行きましょ?あ、レテは自室にいてね。シアちゃんが帰ってくるまで書斎に来ちゃダメよ?」

「……ハイ」


その日からシアは少しだけ、本当に微妙だけれど変化があった。

自分に魔術の教えを頼んできたり。

母さんから料理を学んだり。

本を読む時、必ず自分に寄り添って読んだり。

きっと母さんが男を落とす知恵か何かを入れたのだろう。十五歳の女の子に仕込むものでは無い。


そして今、料理……クッキーを作ろうとしている訳だが。これまでのは一方通行だったり、意識しなかった訳だが今回は互いを意識する事になる。それで緊張しているのだろう。

そう思っていると、母さんがあっ!と声を出す。


「しまったわ、明日の分の朝食の材料……買ってないわね。ごめんね、生地は仕込んでおくからシアちゃんとレテは買い出しに行ってくれるかしら?道は教えるし、お小遣いはきちんと出すから……ね?」


本気で忘れていたのか、作り始めない自分達に息抜きさせようとしたのか。分からないけれど自分とシアはお金と店までの案内図を書いてもらって家から出発した。


「ええっと、次は……あそこの野菜の店で……ああぅぅ〜」


シアが読み上げて、自分が手を繋いでその通りに歩いていく。彼女は恥ずかしそうだが仕方があるまい。そう思いながら通りから少し外れた時だった。


「……贄……それも上質な……」


か細い声だが、しっかり聞こえた。悪意も感じる。シアの手をギュッと握りしめる。


「ひゃぁっ!?何何!?」

「……シア、離れないで」


そう言うと、風と闇の魔力を広域化系統の技を使って広げ、気配を探知する。

様々な人が居る中、近く、それでいて闇を濃く感じる気配を探し出し……。


「……見つけた」


一人、異質な気配を感じると、そこに向かって歩き出す。


「レ、レテ君……?」

「……絶対、離れないで」


少し暗く、路地裏に差し掛かった瞬間。


「……ヒヒ、逃がさん……ッ!」


そう言って横から魔法が飛んでくる。なるほど、素早く飛んでくる悪意の槍はよく練られていて、悪意のある闇といえば闇らしい魔法だ。

しかし。


「残念、逃がさない」


そう言って自分は光の盾を展開する。子供に防がれると思っていなかったのだろう。その一瞬をついて地面の影を這わせて土の杭で相手を貫く。


「が、は……贄……贄……!」


それでも尚抵抗しようとする誰かは自分に無我夢中になって魔法を打つ。その程度じゃ自分は破れない。


「……大人しくしろ」


そう言って光の球体で身体を包ませる。しかし……


「……贄……何時か我らが元に……!」


そう言うと球体の中で身体が塩になり、謎の相手は消え去った。


「レ、レテ君。今のって……」

「……アグラタムが言っていたな、妙な噂が流れていると。本当らしいな。後で連絡を入れておこう。……それよりも、怪我はない?」


強く握りしめていた彼女の手を離すと、少しボーッとした後に、ギュッと抱きしめてきた。


「シ、シア?」

「……レテ君、私だって稽古つけてもらって強くなったんだから……頼って欲しいけど……その、えっと……カッコ良かった」


何を言いたいのか。けれど、彼女が心配そうな顔をしているのを見て自分が軍の鍛錬に参加した意味を思い出す。


(自分一人で何でも解決出来ると思わない事……その為に、シアに教えたんだ)


自分単騎ではなく、誰かと共に行動するために。

少しして、落ち着いた彼女は道案内を再開する。その時繋いだ手は、少しばかり強く握られていた。無論、そのまま帰って母さんにからかわれたのは言うまでもない。



深夜。母が寝て、父は仕事で警備で家にいないことを確認すると、アグラタムに軽く連絡を入れてからシアを連れて門を開く。勿論行先はイシュリア様の私室だ。


「おや、師よ。こんな時間に如何なさいましたか。何やら私とイシュリア様を交えて話したいとの事でしたが……」

「そう、そしてシアもその光景を見ている。……イシュリア様、この子はシアといいます」


そう言うと、イシュリア様はふふ、とにこやかに笑ってシアに魔力を込めず、笑顔を向ける。


「初めまして、シアさん。緊張しないで、という方が無理だと思うけれど……今は重要な事があるのでしょう?ゆっくり、お話してちょうだい?」

「は、はいぃ……」


本日二度目の小さな声だ。これも仕方あるまい。


「実は……」


自分とシアが買い出しに行った時、贄と呼ばれ謎の相手から攻撃を仕掛けられたこと。

防いで相手を隔離したところ、相手は塩になって霧散した事。

丁寧にシアの客観的な説明も合わせながら、二人とも慎重な顔になる。


「……噂は本当、ということですか」

「だとしたらその贄……そう呼ばれる子供たちがその尖兵として使われた可能性もあります。これはイシュリアの国としての問題です。……アグラタム、裏で調査するように手配を」

「承知しました。……それはそうと、師よ」


相談が終わったところに声をかけてくる彼にん?と返すとじーっと見られる。


「さっきからシア殿の手を握っていますが、シア殿の顔がどこか赤いような……」

「アグラタム、それ以上の詮索は同じ女性として禁止よ。そういうことなの。分かった?」

「……なるほど」


ニヤリと笑った弟子にムカッとしたので土魔法の応用……と言ってもくだらないものである。タライを生成して頭にゴン!とぶつける。


「いっ!?師よ、何をなさるのですか……!」

「いや、ムカついたから」

「ぶふ、この国最強の守護者が……タライで攻撃をモロに受けるなんて……あっはは……もう、あは、あははは……!」


相変わらずイシュリア様は笑いのツボが浅い。


「……それでは帰ります。謎の人物のことは頼みました」

「はい。それでは」


門を開いてシアと帰った後。アグラタムはふとイシュリアに問いかける。


「……何故、二人は一緒に?」

「それ以上聞いたら私が許さないわよ」

「え?あ、はい……え?」


謎の威圧を受けながら、アグラタムは諜報部に命令を出しに行くのであった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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