二人の家
家に帰ってきて、自分が入ると懐かしい空気を感じてこれが我が家に帰るという感覚というものか、と覚える。
ほらほら、シアも。と手招きするとどこかおずおずと入ってくる。
「えっと、お邪魔します!」
緊張は抜けていないようだが、何とか家に入ってきて父と母がいらっしゃい、と声をかけて歓迎する。
「部屋はレテと一緒でいいかしら?布団のある部屋がそこしかなくて……」
「あ!私は……床でも……」
そう言って遠慮する彼女に自分は優しく声をかける。
「ここはシアの帰って来れる『家』なんだから遠慮しなくていいんだよ。一緒の部屋と布団でいいよね?」
そう言うと、父がよく言ったぞ!とばかりにうんうん、と頷くのが分かる。果たしてこれは発言を褒められているのか、将来を期待されているのか分からない。
「……まぁ、部屋も一緒だったし、一緒に寝たこともあるし大丈夫だよね!それじゃあ布団に……」
「待って、シアちゃん」
「は、はいっ!?」
母親が目を煌めかせて発言を遮ってやってくる。
「レテと一緒に寝たのね!ということは同じ部屋なのね。あ、母さんも魔術学院卒業したからわかるのだけど、性別的に溢れる部屋が何個かあるのよね!それで!?レテと一緒に寝た感想はどうだった!?」
「母さん!?」
いきなりの怒涛のラッシュに自分も驚く。シアも目が点になっているようだったが、少しすると動き出す。
「え、えっと。一緒に寝た時は私が寂しいときで……とっても優しくて、温かくて……。愛って特異能力を得るのも分かるってぐらい、本当にそばに居るだけで安心できたんです!」
「そうなのね!良かったわぁ!うふふ……」
母さんはとても楽しそうだし、父さんも頷いている。間違いなくこれは将来の心配をされている。シアはまだ知らなくて良いよ、と心の中で呟くとシアの腹の音が鳴る前に言っておく。
「母さん、そろそろご飯じゃない?」
「おお、そうだな!レテも母さんのご飯久しぶりだろうし、シアちゃんも初めてだろう!」
「あらあら、そうね!張り切って作っちゃうわ!シアちゃん食べられないものある?」
(温かい……これが、私の帰る、家……)
傍から見ていたシアは普通の家族とはどういうものなのか、三人が話す姿を見て、自分だけを気にかけて笑顔で話してくれる人達を見て泣きそうになりながら答える。
「食べ物はなんでも好きですっ!」
「あらあら!いい子ね!じゃあ……父さん!買い出し追加よ!どーんと買ってきてきちゃいなさい!」
「任せてくれ!」
そう言うと父がダッシュでバッグと財布を担いで家から出ていく。
「はは……こんな感じの家族だけどさ。いい家族でしょ?シア」
「うん、うん……!とっても良い家族だよ……!私もこの中に入っていいのかなって遠慮しちゃうぐらい……」
「遠慮なんてしなくていいんだよ。……ほら、母さん見てご覧」
そう言って二人で見ると、鼻歌を歌いながらいつもより明らかに多い量の食材を切っていた。
「シアは大食いだから、足りるかな?」
「もー!レテ君!?女の子に大食いって……うー!」
じゃれ合いながら、買ってきたぞー!と元気よく帰ってきた父親を後目に、頬笑みを浮かべた。
その後は一応ではあるが、シアに家の説明をした。
本が大量にあること、自分の部屋で基本過ごしていいこと、他にも沢山の説明をしてシアは納得してくれたようだった。
昼ごはんの後、自分の部屋に来るとホコリが無いぐらい綺麗だった。母さんが掃除しておいてくれたんだろう。
「なんていうか、寮の部屋を一人にした感じだね?」
「そうかもね。強いていえば、二段ベッドが一段になったぐらいかな」
笑いながら、二人で窓から外に顔を出しながらシアに言う。
「休みの期間だけだし、なんなら寮とあんまり変わらないかもだけどさ。……帰る家があるって、幸せだよね」
「うん。私、もう帰るところなんてないと思ってたから、とっても幸せだよ。……ありがとう、私をレテ君の家族にしてくれて」
「うん、どういたしまして。……でも家族っていうと、その……」
「え?……あっ!いや、違うの!そういう……あうぅ……」
赤面する彼女を見ながらまた笑うと、ポコポコと軽く叩かれ、二人で笑い合う。
そんなこんなで、寮でも我が家でも、シアと生活することが決まったのだった。
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