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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
二章 学院編
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冬休みの前に

「あー……」

「そう落ち込まないでよ、ショウ……」


教室で机につっ伏すショウに自分が声をかけると、いやいや、と示すように手を振られる。


「だってさぁ……冬休み前の筆記がこんなに難しいと思わなかったじゃん……?実技だけだと思ってたじゃん……」

「ほら、その為に皆で勉強会開いたりしたろ?……確かに実技に傾いてたことは確かだったけどさ」


クロウがフォローに入るがショウは突っ伏したままだ。これはご飯になるまで生き返りそうにない。


「でもでもー、テストが終わったから家に帰れるんだよね!冬休み!」

「……皆のこと、家族に報告する。良い友達ができたって」


そう言いながらファレスとフォレスが喜びながらハイタッチしている。フォレスはともかく、ファレスは筆記大丈夫なのかと思いつつ冬休み明けの課題の量が増やされないことを祈っておく。

そう、冬休みに突入する。両学院は冬休みと夏休みを取って、他はほとんど寮生活というスタイルだ。そして自分達が初めて家に帰れる時期でもある。


「うんうん!皆は家族に言わなきゃね!愉快な友達が出来たって!」

「愉快だと思われてるよ~愉快だと思うけど~」

「ダイナ君結局愉快なんじゃない!」


ケラケラとシアとダイナが笑い合う。その勢いで皆が笑うが、自分は疑問を持つ。


(皆『は』……?まるでシアには家族が居ないような……)


この事は後で寮に帰ってから聞いてみようと思いつつ、スイロウ先生が来たことで各自慌てて自分の席に着く。


「明日から冬休みだなぁ!入学して初めての長期休暇だが寝てサボってばっかりじゃダメだからなぁ!せめて魔力の鍛錬ぐらいは出来る場所でしておくんだぞぉ!

後、皆実技は大丈夫だったが筆記は何人か怪しいのが居たから覚えのある子は是非勉強も頑張って欲しいぞぉ!じゃあなぁ!良い冬休みを過ごすんだぞぉ!解散!」


ショウが途中の言葉で完全にバタッとなると、スイロウ先生は笑って教室から出ていく。


「それじゃ、皆帰る準備するか!」


クロウが言うと、皆が頷きながら寮へ帰る準備をし始める。大事なもの以外は寮へ置いておいても良いと言われていても整理整頓も部屋掃除も自分たちでしなければならない。大変である。自分とシアの部屋はシアが綺麗好きなため割と二人で掃除することが多かったので大丈夫だが。


皆で雑談しながら寮へ帰り、ご飯を食べてじゃあねー!と冬休み前の最後の挨拶をする。各自、列車や馬車の時間が違うので実質これが最後だろう。そして部屋に帰ると、予想通り『荷造りをしない』シアに対して、決意を込めて聞く。


「シア、ちょっといいか?」

「なーに?レテ君。あ、もしかして私と離れるのが寂しい?」


自分の顔を見てベッドから降りてくる彼女に、一瞬迷ったが視線をきちんと合わせて言う。


「……シア。君は、『帰る場所』が無いんじゃないか?」

「……!な、なんの事かな?」


驚いた表情をする彼女は取り繕ったが視線が揺らいだのと、少し暗い顔をしたのを自分は見逃さなかった。


「シアは皆『は』家族に報告しようって言っていた。普通なら皆も、とか言うのにわざわざ自分が一人だと言うようなものだろ?

……シア、君は家族が居ないか、帰れない環境にある。だから荷造りせず、寮で過ごそうとしている。……違うか?」


バレちゃったか、という顔をしているがそのぐらいなら分かる。何ヶ月一緒に生活していると思っているのだ。


「……レテ君はお見通しだね。そうだよ、私ね。帰る場所がないの。……孤児院出身だから」

「……っ!」


イシュリアとて、全員が各自の家で生活出来る訳では無い。

捨てられた子供、訳あって預けられた子供、事故に合って一人になった子……そんな子が暮らす孤児院だ。


「私の孤児院は小さくてね。経営も割と辛いの。だから私はここでお手伝いをしながら留まろうと思うの。……私より下の子に迷惑かけたくないから」


悲しそうな彼女の顔を見て、本当は戻りたいのだろうというのもわかる。

そして、彼女がどうして努力を否定しないか、肯定するかが分かった。小さな孤児院ならばどんな努力でも肯定され、評価される。だから彼女は努力をバカにする事が許せなかった。

そんな彼女を一人でここに置いていく、というのは自分は辛い。だから、身勝手な事をさせてもらおう。


「……シア」

「何?私が孤児だって知って、幻滅した、かな……?……わっ!?」


言葉の途中で自分と同じぐらいの彼女をそっと抱きしめる。その身体とその心にはどんな覚悟と重みがあるのだろうか。それを思いながらも抱きしめたまま、言う。


「……冬休み。自分の家に来ない?」

「えっ!?そ、それじゃあレテ君の家の方に迷惑がかかるし……私は……孤児なのに……」

「孤児だから、何?シアは努力してSクラスまで入った。明るく振舞って、皆を元気づけた。そこに身分は関係ないんだ。貴族も、平民も、孤児だって」


そう言うとポロポロ泣き出して自分の肩に顔を埋めるのがわかる。僅かに湿る肩の感触を感じながら、しっかりと言う。


「自分の家は良い家だよ。両親がいて、暖かくて……何より、一人増えた所で文句を言うような人じゃない。シアの事は受け入れてくれる。いや、ダメでも受け入れさせる。だからシア、一人で悲しく過ごさないでくれ」

「う、ぁ、あぁ……!」


泣き出す彼女の体勢を変えて、自分の胸に埋めさせる。頭を撫でながら、シアの長くてサラサラの水色の髪の毛を撫でる。


「……シアにだって、『帰るべき家』があっていいんだ。だから、それが我が家でいいなら……自分はそうでありたい」

「私だって……一人で、皆が居ない寮で……過ごしたくない……!お願い……ワガママでも……!君の家に連れて行って……!」


そう言って本心を暴露する彼女は、今まで見てきた元気な彼女とは別の、抱え込んだ彼女に見えて。それが悲しくて、愛で包んであげたくて。自分の本質が訴えている。彼女を一人にしてはいけないと。


「……うん。行こう。だからシア。荷造りをしよう。『二人で帰る家』に向けて、さ」

「……うん!うん!」


そう言って彼女は離れると、タオルで顔を拭いて荷物を纏め始める。

それを見ながら、微笑むと自分も荷造りをし始めた。


翌日。帰る列車に乗ると、途中から彼女はガチガチに緊張していた。ガタガタ震えながらこちらに腕を絡ませている。


「大丈夫かな……断られたりしない……?」

「大丈夫だよ。ウチの両親なら……ほら。こんな感じだからさ」


自分の家の最寄りに着くと、自分の両親が手を振っている。手を振り返すと、シアを連れて降りる。


「父さん!母さん!」

「レテー!今日は父さんも休み取れたから迎えに来たぞーっ!」


十中八九アグラタムが気を利かせたに違いない。だけど、これは有難い。


「レテ、おかえりなさい!……あら?その子は……シアちゃん?」


母親に不思議そうに見られると、自分の後ろに隠れてしまう。やはり孤児な上に他人の家にお邪魔するのは不安なのだろう。


「……実は、シアは孤児だったんだ。だけど寮に一人で残しておけなくて。だから休みの間だけでも、シアと一緒に過ごさせて欲しい」


そう言うと、父と母は笑顔を見せる。


「流石は能力で『愛』と出ただけあるな!ウチの子は優しくて父さんは感激だぞ!」

「うふふ、大丈夫よ。女の子が居なかったから子供が一人増えた気分!……ね、シアさん。だから我が家を『貴方の家』と思ってくれていいのよ?」

「……!」


受け入れられると、シアはおずおずと後ろから出てきて、ぺこりと頭を下げる。

その後自分に抱きつく。


「……ありがとう、ありがとう!私に、私に場所をくれて……!」

「はは……」


その様子を見ながら父と母は二人でボソッと呟いた。

「これは将来安泰かな?」

「そうかもね、うふふ。レテったら……」

いつも読んでいただきありがとうございます!良いお年を!

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