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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
二章 学院編
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実技鍛錬 休日編

朝起きると、シアは既に顔を洗っていた。


「……あれ、早いね。シア」

「うん。魔術の鍛錬をしようって話に昨日の帰りになったからさ。気合い入れないと!って思って。……そういえば、レテ君は来るの?」


そう言って頬をぺちぺちと叩く彼女から問いかけられる。自分か、自分はどうしようか。

正直地下の魔術訓練場では自分の鍛錬にならない気がする。それにクロウがスイロウ先生に声をかけてくれるなら訓練場も貸してくれるだろう。なら自分が居なくても大丈夫だ。


「自分はちょっと別のところに出かけてくるよ」

「そうなの?……確かに、私達の鍛錬じゃ実戦経験にならないかもね、レテ君じゃ」


ほら、顔洗って!と急かす彼女は何もかも見通したような笑顔でどこかこそばゆい感じがした。

朝ごはんの後。皆に自分は今日本を読むから自室に戻ると言って自室に戻ると、アグラタムの元へと門を繋ぐ。


「……政務中か、すまない」

「師ですか?少しだけお待ちください」


資料に目を通している彼の姿を見て、やはりお偉いさんなのだなと認識する。そんなお偉いさんが前は毎晩やってきたのだから不思議なものだ。


「……よし、大丈夫です。師よ、今日はどうされました?」

「ああ、実は……」


そう言ってとある説明をすると、彼はコロコロと表情を変えて、最終的に苦笑しながら了解です。と答えた。



「皆!訓練中すまない」


アグラタムが訓練場に顔を出すと皆がバッと顔を向け、一斉に手を止める。


「実は土日、それも限られた時間のみしか来れないが君達と一緒に戦闘訓練をする同士を紹介する。……前へ」


そう言われると、光で自分の身体を隠しながら、ローブを大きく見せて前に立つ。


「……この様な姿で立つことを許して欲しい。自分は皆のように本来の顔や姿を見せられない。だが、共に高みへ登る同士とだけは確約しよう」


風を使い、喉から出る声をどうにかガラガラにして話す。


「彼は確かに不審者そのものだが、私、アグラタムが守護者の名前とイシュリア王に誓って彼の身元と実力を証明しよう。……誰か、戦闘してみたい人はいるか?」


そう問いかけると、真っ先に手が上がった人がいた。恐らく学院の卒業生だろう。元の自分と同じぐらいだ。


「じゃあ自分が!」

「……構えよ。ここは戦場と思え。外野の者、すまないが何が見えても彼には伝えないでくれ」


どういうことだろう、と皆が思った次の瞬間だった。


「な、なっ……」

「嘘、だろ……?」


外野が騒ぐ中、目の前に立つ彼だけがわかっていない。いや、正確に表現するなら彼だけに見せていない。


「……なんだ、この感覚……?」


彼が呟きながらも、一歩踏み出した瞬間だった。


「動き出せ」

「がっ!?」


彼にも見えるように、かけていた闇属性による隠しの術を解いて攻撃を仕掛けた。

目の前と後ろから光の騎士に剣を振るわれ、光と炎により少し焼かれたところに上空から光の柱、下の影より貫くように槍が出現し、彼に襲いかかる。

勿論手加減はしているため、彼に大したダメージは無い。しかしそのまま熱いのも嫌だろうと回復の術式を唱える。


回復の術式は光魔法を聖として解釈した物による想像の術式である。術者が治ると思えば思うほど治る。一言で表すなら他人に現実となるプラシーボ効果をかけるのである。


「……い、いつから……」


彼がボソリと呟くのに反応して、周りの人達が反応する。


「構えよ、って言った時だったよ……俺たちには見えた、一瞬にして全ての攻撃の準備が整っていた」

「……もしかして、見えて……見せていなかった?」

「だ、だとしたら……闇と光、両方に精通して対象にバレずに術を仕掛ける猛者だぞ……!」


ざわざわと騒がれる中、アグラタムがパン、と手を打って目を引かせる。


「彼の実力に関しては分かっただろう。しかし、生い立ちは伏せるが彼はその経歴故に武術、魔術共に得意ではあるが誰かと共闘するという経験が足りないと嘆いていてな。自分の所まで来て懇願されてしまった訳だ。というわけで皆、頼む」


アグラタムの場所にまで気付かれずに辿り着く力、自身に魔法を行使しながらも別の魔法を行使する力。そして、先程見せられた一瞬の包囲網。


「分かりました。この隊にて、共闘の訓練をすれば良いのですね。……皆!アグラタム様からの命令だ!この者も入れて……と、すまない。貴方はなんと呼べば良いだろうか?」

(やべ、考えてなかった!レテって言ったらどっからかバレるし……助けてアグラタム!)


助けて視線をアグラタムに向けると、受け取った彼は少し考えた後、口を開く。


「……彼の事はどうか、フードの男、もしくはフードとでも呼んであげて欲しい。頼む」

「はっ!ではフードと呼ばせてもらう。フード、まずはどの属性が得意か、系統などを教えて欲しい」

「……得意属性は風、しかし全ての属性は一通り使える。系統は顕現だ。よろしく頼む」


あの実力で光と闇が得意ではないのか、と驚く者もいれば、確かに声はずっと掠れていてその姿を隠すのにずっと風も使っているとなれば風得意は納得できると思っている者もいるようだ。


「それでは訓練に戻ります!アグラタム様、フード殿。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」

「ああ、彼の事は頼んだぞ」


そう言ってアグラタムは戻り、自分は鍛錬……主に共闘の鍛錬に打ち込ませてもらった。


訓練が終わり、アグラタムとイシュリア様以外の人の気配が居ないのを確認するとそこに門を繋いでイシュリアの私室へと行く。


「一日風と光、それにフード姿だけで過ごすだけでも魔力鍛錬になるね。これはいい発見だ」

「……師よ、幾ら共闘訓練がしたいからと言って彼らをあまりいじめないであげてくださいよ。あの後連携プレーどころか師一人でも倒せちゃうから寧ろ教えて欲しいと意見してきた人もいたのですよ」


何やらぐったりとしているアグラタムに、イシュリアはクスクスと笑っている。


「まあまあ、私もこっそり見ていたけれど本当に強いわね。これで魔力を他のところにも回しているんだから本気でやられたら敵無しにも見えるわ。……ねぇ、レテ君。どうして貴方は共闘することを選ぶの?」


じっと見られた視線に合わせて答える。


「……確かに、自分一人で解決できることも沢山ありましょう。しかし、他の者……特に学院の同級生や他の人を助けようとした時にどのように助ければ良いか分からない、どのように合わせればいいか分からないなどの不安要素を早めに潰しておきたかったのです」

「そう……。一応学院でも習うけれど、確かにこちらの方が応用が効くから良いと思うわ。ふふ、貴方ももしかしたら守護者になれるかもね?ねぇ、アグラタム?」

「ま、まだ師は十四歳なのですよ……!」


そう言って三人で笑いあって、雑談に話を咲かせた。

ヤバいと気づいて学院に戻ったのは、イシュリア様の「そういえばレテ君、学院のご飯の時間過ぎているけれど……」と言われた時だった。気を利かせてくれたシアが、自分の部屋までプレートを運んでくれていて土下座した。

いつも読んでいただきありがとうございます!

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