ぎこちなさの解消 後半
「……シア……」
さっさと帰ってしまった彼女の後ろ姿を見ながら考える。
どうすれば、彼女は安心してくれるだろうか。またこちらを見て笑ってくれるだろうか。
「よっ!レテ、たまには男子だけで帰ろうぜ!」
いきなり肩にポン、と手を置かれてびくりとする。振り向くと言葉をかけながら手を振るダイナやショウ、レンターがいた。
「あ、うん。わかった。帰ろう」
学院を出てからの帰り道。やけにゆっくりと雑談をしながら歩いているとダイナがゆったりとした口調で尋ねてくる。
「最近さ〜シアちゃんがレテ君のこと避けてるのって、何かしたの?されたの〜?」
「……あちゃー、やっぱりそう見えるか」
それ以外の何に見えるんだ、という微妙な表情をされてこちらも苦笑してしまう。
彼女にとって天上の存在、アグラタムの暴露はショックな出来事だろう。事実あの時からである。自室でもほぼ言葉を交わさなくなったのは。せめて彼女が安心できるように、と前買ったリラックス出来る魔道具は置いたが彼女はどう思っているのだろうか。それも分からない。
「単刀直入に聞くけど……何があった?」
「……すまない、クロウ。それに皆も。詳しいことは話せない。けど、シアを驚かせてしまったんだ」
驚かせるだけでそこまで行くものか、とクロウは思う。けれど詳しい事は話せないという事は後ろめたい事があるか、或いはショックを受けるほどの何かがあったのだろう。
「なんだなんだ、俺たちにも話せないのか?そんな事をシアちゃんにしたのか!?」
「……話せない。ただシアに手を出したとか、そういう事じゃないんだ。話せば皆、同じ反応をするだろうから」
どういう事だろう?ショウの勢いと若干の怒りを感じる言葉をダイナが収める様子を見ながら想像するが、分からない。
「……話を少し変える。その出来事からシアに何かしてあげたか?」
レンターが質問する。そうだ、問題はレテとシアの間に起こったことではない。二人の仲を修復するのが本題だ。
「ええっと、その出来事の後か……シアにはシアの知っている自分だって事を伝えたのと、後話してくれないから前買った魔道具を設置したな。不可抗力とはいえ、シアをあそこまでショックに追い込んだことは申し訳ないと思ってる」
不可抗力……?という事はレテが何かした訳では無い?分からない。原因が分かれば少し力にもなれると考えたが、原因はさっぱりだ。わかったのはレテはケアをしているという事だ。
「……なぁ、本当に悲しませるような事はしてないんだな?」
「僕もそれは気になるな〜悲しませたわけじゃないんだね?」
「悲しませた訳じゃない。それは誓ってもいい。……そうだな、アグラタム様に誓ってもいい」
この国の守護者に誓うレベルとは。とても固いのだろう。それには皆納得したが、さてどうしたものか。これではレテに悪意も何も無い事になってしまう。
責めたかった訳では無いがとりあえずのまとめしか出来ない。
「……とりあえず今晩にでも、その事を謝って話せるように努力してくれないか?同室で仲良しなお前達が離れているのが俺たちは心配なんだ」
「そうか、心配させちゃったか。……ありがとうな、自分とシアのためにそこまでしてくれて」
これで後はこちらから手出しできることは無い。ショウのぐぅ、と腹のなった音を話の種にしながら寮へと帰った。
その晩。就寝時間が過ぎた頃。皆が起き出してシアとレテの部屋の前に集まっていた。
「なんで皆考えることが同じなんだよっ!」
「そりゃあ……友達の事だし?」
クロウが突っ込むとニアが答える。それに皆頷くと、微かに聴こえる声を聞き取ろうとする。
そうして何分かすると、声が聞こえてきた。皆が集中する。
その行方を見届けるために。
「シア、その……」
「レテ君、ごめんなさい!」
話がしたいと言ってシアに起きているように伝えて、夜遅くに声をかけようとすると、いきなり謝られた。
「私、レテ君が別の人に見えて。知らない人に見えてさ。ずっと避けてたんだ。でも今日友達に言われて気づいたんだ。……レテ君は、優しいレテ君で何も変わらないんだって」
「……こちらこそ、あの夜はごめんな。本当はシアが寝ているうちに済ませたかった。だからそんなにショックを受けるぐらいならシアが寝られるまで……待つべきだった」
「ううん。あの夜だって、レテ君が何しようと気になって起きてたからきっと寝なかったと思う。……それに、レテ君は謝らなくていいんだよ。私の為にあの魔道具、設置してくれたんだよね?」
そう言って窓際に置かれたリラックスのお香の形をした魔道具を指さす。頷くと、シアは抱きついてくる。
「ありがとう……。レテ君が心配してたって聞いた。レテ君が避けてる私の事を気にかけて魔道具を置いてくれた。なのに……なのに……」
「……そんなに謝られても困るよ。でも、これだけは言わせてくれ。どんな事を見ても、自分は自分、シアの知っているレテで合っているよ。例え……あの夜の事が本当でも」
「そうだよね、うん……うん!レテ君は何も変わらない。私の知ってる、優しいレテ君だ。……温かい。やっぱり、君は温かいよ」
「……色々と誤解を生みそうだけどな。それ。でもシアが安心して接してくれるなら、悩みの種が無くなったら……良かった」
そう言って自分は抱きついたシアの頭を撫でる。彼女は自分に抱きついたまま、それを受け入れる。
「……ねぇ、今日は下のベッドで一緒に寝てもいい?」
「いいよ、ちょっと狭いかもしれないけどね」
「ふふ、これで……三回目?かな?」
「そうだね……あ、魔道具に魔力を込めるから待って」
そう言って自分は魔道具に魔力を込めると、ついでに壁伝いに魔力を通して外に居る皆にメッセージを送る。
(居るのはバレてるよ。こっちとしては恥ずかしいことこの上なかった……)
そう思いながら、シアと一緒に布団に入った。彼女は右腕に掴まりながら、安らかに寝ていた。
「二人はそういう関係だったのか……!?」
「みたいだね〜」
ショウとダイナがヒソヒソとしていると、ミトロが浮かび上がる光の文字を見つける。
「……皆さん。バレてます」
「バレてる?……あっ」
クロウがそちらを見ると、そこには光の文字で「恥ずかしい。早く自室で寝てくれ。でも関係を直す機会をくれてありがとう、皆。あと付き合ってはない」と書かれていた。
「もしかして……最初からバレてて、あの話してた?」
「……だとしたら、レテ君豪胆。凄い」
精神的な強さを再認識しながら、それぞれの部屋に帰っていった。
次の日の朝、食堂にて。
「レテ君!今日の朝ごはんどれにする!?どれも美味しそう……」
「いや、自分に聞かれても……でもどれも美味しそうだな。二つ別のトレイを取って、味比べする?」
「そうしよ!」
ニコニコするシアとそれに苦笑しながら付き合うレテを見ながら、皆がほっとする。
やはりこうじゃないとな、と。
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