Sクラスの女子会
「ねぇ、シアさん?」
「どうしたの、ミトロ」
休日のとある日。Sクラスの五人でカフェでお茶を飲んでお話をしていた。
既に寒波が来ており、寒い。とても寒い。なので皆着込んで、温かいお茶を飲みながら話していた。
「レテ君と同室なのに、何も起きてないの?」
「何も……って、何が起きるの?」
分かっているが、あえてしらばっくれる。するとこの手の恋愛話が大好きなニアが突っ込んでくる。
「男女が夜、同じベッドで寝るとかさ!抱きついて寝たりとか!ほら、シアちゃんレテ君の事気に入ってそうだからさ?あったかーい!って抱きついてたりして」
「ゲホッ、ゲホッ……」
ある。身に覚えがありすぎる。ミトロが慌てて噎せた所を拭いてくれると、ニアが顔を輝かせ、ファレスとフォレスの双子もずいっと乗り出してくる。
「何かあったんだね!?その反応は何かあったね!?」
「……聞いてみたい。何があったの?」
「え、いやぁ?何も……」
そっぽを向くが誰も信じてくれない。それどころかそっぽを向いたら皆が確信したように声をかけてくる。
「ほらほら!何かあったんだよ!聞かせて!」
「私も気になりますね。レテ君が乱暴してるようには見えませんでしたが……」
「ら、乱暴!?乱暴なんてしないよ!むしろ優しく……あっ」
しまった、自爆した。仕掛けたミトロがくすくすと笑い、他の三人が立て続けに質問してくる。
「なになにー!?どんな感じで優しくされたの!?」
「……ギュッて感じ?それとも、ふわっとした感じ?」
「レテ君優しそうだもんね!もしかしたらシアちゃんの事好いてたりして!?」
ファレスとフォレス、それにニアが連続で質問してくる。辞めて欲しい、とも思いつつ以前の事を思い出す。
(……慈愛の盾。って言ってたっけ。本当に温かくて、温もりの塊みたいな感じだったなぁ。ふふ)
くすりと笑うと、ここだけの話ね?と切り出す。皆が耳をひょこっと乗り出す。
「……レテ君はね。私が不安だって事を見抜いて、一緒に寝てくれたんだ。最初は寮に入った初日。二回目は……対抗戦の後だったな。最初は怖かったけど、レテ君は本当に優しくてさ……ついつい、不安だってことも全部言っちゃったよ。でも、全部聞いてくれた。……こ、こんな感じでいいかな!?これ以上はちょっと、事情が……!」
そう言うと耳を離して、ミトロ以外が事情というワードに反応する。
「なになに!?もしかして……そういう関係なの!?早い!」
「ち、違うって!そうじゃないの!」
「……ファレス、これってそういう関係だよね?」
「フォレスもそう思うよね!うんうん!きっと二人の間には深ーい愛があるんだよ!」
ピクリ、と一瞬だけその言葉に反応するが、赤面してもー!と言い返してワチャワチャする。
その中、ミトロだけが冷静に考えていた。
(初日、つまり出会ってまもない相手を安心させるのは困難を極める、どころではありません。それが異性なら尚更、不安がっていた彼女を安心させる事は普通なら出来ないでしょう。……確信しました。彼は、感情……つまり相手の心に干渉出来る特異能力の持ち主……!)
ぶるりと震える。未だに質問攻めにされているシアを見ながら、思考する。
(それがもしも相手に安らぎを与えるだけならば聖人となれるでしょう。……しかし、その程度で済むのでしょうか?もしかしたらその本質は心に干渉することではなく……いえ、これ以上は無粋ですね。私も気になりますし輪に入りましょう)
そう結論を出すと、輪の中に入っていった。
同刻。イシュリア皇国訓練場にて。
「……」
気絶している訓練兵を見て、アグラタムが声をかける。
「大丈夫か?」
「っ、彼は……なんなのですか……!」
他の訓練生……観客ですら恐怖を覚える。
光によって身体を大きくみせ、大人と同じ大きさになった誰か。
その左手には魔法とは違う、紫色の剣が握られていた。
「……やはり刺激が強いですね、貴方のそれは」
「……」
何も言わずに、用は済んだぞとばかりに門を開いてどこかへと去る。その姿を見送ると、訓練兵に声をかける。
「今のを超えろ、とは言わない。だけれど自分の能力を磨けば先程の方に近づけるでしょう」
その言葉に戦々恐々としながらポツリと誰かが呟いた。
「化け物……」
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