表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
269/270

タレイアと『王』

一方でレテとシアは、休み時間の部屋で星詠み盤を使って均衡座を見ていた。


「うぅーん……やっぱり蒼光が均衡座に重く乗っかってる気がするんだよね……」


自分がそう言うと、シアが興味を持ったようで目をキラキラさせて言う。


「え!見せて見せて!私も見たい!」

「いいよ、ほら」


そうして渡そうとすると、コンコンとノックが鳴る。


「はーい!」


自分が返事をして扉を開くと、そこには深刻な表情をしたベールがいた。


「あれ……ベールさん、どうしたんですか?」

「休み時間にすまないね。緊急の用事だ」


緊急の用事。その言葉に自分とシアが部屋に緊張感を漂わせる。


「まずレテ君。君はリアーちゃんと一緒にギルドに行く。スイロウ先生も一緒だ。

次にシアちゃん。君は他の皆にカイから説明をしてもらうから、現状を知ってほしい」

「……現状」


アデルカインのパーティーが砂漠地帯に向かってからその言葉が指すところは一つ。

砂漠地帯に、何かあったのだ。

自分は頷くと、シアに星詠み盤を渡してベールに着いていく。シアも星詠み盤を少し覗いた後、テーブルに置いてその後ろをついてくる。


カイはベールが連れてきたのを確認して、現状を伝える。


「簡潔に伝えよう。砂漠地帯が雪原地帯に変わった」


その言葉に皆はフリーズする。最初に言葉を出したのはショウだった。


「えーと、雪原地帯ってあれですよね。セッカとかの方の……」

「そうだ。その雪原地帯で間違いない」

「そんなことありえるんすか!?」

「自分も信じたくはないがね」


信じたくない、ということはそれは現実だということ。

ごくり、と唾を飲み込むとベールから言葉が告げられる。


「今はとにかく、何が起こったか分からないけれど結果として雪原地帯になった、とだけ認識してくれ。レテ君、リアーちゃん、スイロウ先生、行きましょう」

「あ、あぁ……」


ベール達が去ったあと、ニアが呟く。


「……私の部屋で星詠み、する?」


その言葉に全員が賛同した。


数十分後、ギルドマスターの部屋。

扉を開くと、室内の空気が張り詰めているのを感じる。


「これで全員ね。ありがとう、アデルカイン」


椅子に腰掛けたタレイアが声を上げた。彼女の姿勢は疲れた、わけがわからないというように頭を抱えていて、こちらが心配になる。


「お安い御用!んで、レテの坊主はわかる。けど……もう片方のお嬢ちゃんを呼んだ理由は?それに他の魔物狩りたちはどうした?」


豪快に笑うアデルカインの問いかけに、タレイアはすぐには答えず、静かに立ち上がる。

そして、その視線の先にはリアーがいた。


「へ?へ!?わ、私、本当に何で呼ばれたんですか!?」


慌てて手をばたつかせるリアー。その姿にタレイアは一歩、また一歩と近づいていく。


「……リアーさん。貴女、何を隠しているの?」

「な、何も隠してませんって!」


声を裏返し、ぶんぶんと首を振るリアー。しかしタレイアの眼差しは鋭い。

空気が張り詰め、周囲の誰もが息を呑む。

やがてタレイアは大きく息を吸い込み、吐き出した。


「……集まってもらったところ悪いけれど。少しだけリアーさんと二人きりにしてくれるかしら」

「……? ああ。タレイアがそう言うならいいぞぉ」


スイロウ先生が言うと、アデルカインが腕を組んで頷く。スイロウ先生を先頭に、人々は部屋を出ていった。

パタン、と扉が閉じられる。


「……なんだぁ?リアーって嬢ちゃん、そんな隠し事があるのか?」


「いやぁ、私にも分からんなあ……」


外に残ったアデルカインとスイロウ先生が首を傾げる。

その会話を耳にしながら、レテの心臓は高鳴った。


(……あ、これは……完全にバレたな)



部屋の中。静寂の中に二人だけ。

タレイアはリアーの前に立ち、静かに告げた。


「……砂漠地帯が……雪原地帯に変わった。これがアデルカインのパーティーからもたらされた報告よ」

「それは……!ベールさんからき、聞きましたけど……!さ、砂漠地帯が……雪原に!?本当に!?」


リアーは目を丸くし、壁を背に手をかけてよろめいた。


だがタレイアは真剣なまなざしを崩さず、言葉を続ける。


「人払いは済ませたわ。私、ギルドマスターとして口は硬い方よ。だから教えて。

貴女……レテ君とは違う気配を感じるの。レテ君が稀代の天才だとするなら、貴女は何かを隠し、あえて秀才に収まっている器。本当の貴女はそうじゃないはず」


タレイアの声は静かで、しかし容赦なく真実を突く。

その瞬間リアーの表情が変わった。


慌てふためく少女の顔から、すっと余計な色が消え、凛とした光が宿る。


「……砂漠地帯が雪原に。それは……ただの異常を通り越した現象ですね」


彼女は息を整え、真剣な声音で応じる。


「わかりました。タレイアさん。貴女を信じます」


そう言うと、リアーは胸元に手を当て、囁くように祈りを口にした。


瞬間、柔らかな光が彼女の全身を包む。

光は強まり、やがて人の輪郭を越えて広がり次の瞬間、そこに立っていたのは、先ほどまでの少女ではなかった。


豪奢な衣を纏い、気高さを漂わせる女性。


誰もが歴史書でその名を見、聖堂に飾られる肖像画でその姿を知る、『王』。


「イシュ、リア……様……」


タレイアの声が震えた。


「……ごめんなさいね、隠していて。でも事情は察してくれているようね」


イシュリアは穏やかに微笑む。その姿は威厳に満ちているのに、どこか柔らかさがあった。


「この後はリアーとして対応するけれど、アグラタムや軍に連絡を入れるわ。それで良いかしら?」


「はっ!十分すぎるお言葉であります!」


タレイアは膝をつき、頭を垂れる。

イシュリアは微笑みを崩さず、ふっと小さく笑った。


「……やはり、特異能力を持つ者は侮れないわね」

「……あの時、スイロウと私が話していた内容を、貴女は……」

「ええ。もちろん聞いていたわ。レテ君のことも。貴女のことも」


その言葉に、タレイアの心臓がどくりと鳴る。

この瞬間、世界の均衡がほんの少し傾いたように思えた。




連続投稿……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ