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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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招集

ギルドマスターに与えられた部屋にて、タレイアは聞き返した。


「……すみませんアデルカイン。今、なんと?」

「言葉通りだ。一定の境界線を境に結界が貼られていた。そしてナコクの砂漠地帯は今や雪原へと変わっていた」


タレイアは椅子に深く座り込むと、ううんと唸ってから言葉を発する。


「……そんなことあります?」

「俺だって信じられないさ。ただ、雪原……元砂漠地帯にはグリフォンがいた。グリームワームは天敵であるグリフォンから逃げてきた、と考えれば理論上成り立つ」


理論上成り立つ。それは、机上の空論と同じで、本来幾重にも重なった奇跡のようなものだ。

だが事実として、砂漠地帯は雪原地帯へと変わっていた。

タレイアはその報告を聞くと、アデルカインに命令を出す。


「アデルカイン。ベールのパーティー、それとスイロウを招集しなさい。学院の子どもたちは……」


呼ばなくていい、と言おうとしたところで二人候補が上がった。


「……魔術学院のレテ、それとリアーも招集しなさい」

「わかった。それがギルドマスターの命令ならば」


アデルカインは体を翻して扉を開く。パーティーメンバーもそれに続いて出ていった。

パタリ、と閉められた扉の音を聞きながらタレイアは頭を抱えた。


「どうして砂漠地帯が雪原になるのですか……!あり得ないでしょう!真反対の地域ですよ!?それに砂漠地帯にはグリフォンなんて存在していませんでした!どこからグリフォンなんて湧いてくるのですか!」 


慟哭にも似た叫びは、誰にも聞かれないまま空中を舞った。


一方でアデルカインはベール達が滞在している宿に到着し、授業終わりの休憩していたベール達に声をかける。


「ベール。ギルドマスターがお呼びだ。お前たちのパーティーとスイロウ。後、レテとリアーって子もつれて来いとさ」

「え?何があったら僕達招集されるの?魔物退治の授業中だよ?」


ベールの言うことは最もである。が、状況が状況だ。簡潔にアデルカインは述べる。

 

「砂漠地帯が雪原地帯になっていた」

「……あー、アデルカイン。酒を飲んでそのまま偵察に行くのは生還率の高さを考えると良くないと思うな」

「俺だって信じたくない。だが、事実だ。雪原地帯にしか現れないグリフォンも実際存在していた」


その言葉に反応したのはリゼットだった。


「グリフォン?グリフォンがいたのね?」

「ああ。グリフォンで間違いない」

「ならグリームワームが追われた理由も説明がつくのね。グリームワームだって魔物といえど本能で動く生き物、常時暑い砂漠地帯が急にさむーい雪原に。それも捕食者がいれば逃げたくもなるのね」


リゼットは納得したようだ。しかし、ガゼルが首を傾げながら問いかける。 


「じゃあなんだってんだ?急に砂漠地帯に大雪が降って、雪原になったってのか?」


彼の質問にアデルカインは首を横に振る。


「……いや、そうじゃないと思う。俺達がグリフォンから逃げる際、旧砂漠地帯と平原の境目に結界が貼られていた。更に、草原から見た砂漠地帯は、間違いなく砂漠地帯だった。ある場所を境に結界が貼られ、外からの認識阻害をしていると考えるのが妥当だろう」


アデルカインの理論に唸ったのは魔術師のカイだった。

 

「……グリフォンは知能がそこそこ高い魔物です。しかし、認識阻害をする結界を貼れるとは到底思えません。となれば、その結界はむしろ……」


カイの言いたい事を引き継いでアストライアが話す。


「第三者……魔物とは別の、それこそ人間が貼った結界ね。ただそうすると、いくつかの疑問点が浮かび上がるわ」


アストライアはそのまま右手の人差し指と中指を立てる。


「一つ目は、その結界をどうやって貼って、維持したのか、ということ。熟練の魔物狩りでも砂漠地帯のグリームワームは厄介なはずよ。それをものともしない実力者なら、ギルドが既に発見しているはず。

二つ目は、どうやって雪原地帯に塗り替えたのか、ということよ。知っての通り、砂漠地帯は広大だわ。なのに、話を聞く限り結界内だけじゃなくて全てが雪原に変わったように聞こえたわ。そんな途方もない改変、魔力にせよ特異能力にせよ、結界と同時に維持するのは膨大な力が必要よ。こんな事できるの、イシュリア様でもなし得ないと思うわ」


その言葉に皆が黙る。アストライアの指摘は最もで、そして何も解決しない。

そんな中、ベールが立ち上がる。

 

「とにかく、ギルドマスターの部屋に向かおう。自分は学院生の二人に声をかけてくる。アストライア、君はスイロウさんに声をかけてきてくれ。リゼットとガゼルはすれ違いがないようにここでアデルカインと待機だ。カイは他の学院生に事情を説明して、待機命令を出してほしい」


パーティーメンバーが頷くと、それぞれの役割をこなすために歩いていく。

そんな中、ふとアデルカインのパーティーメンバーが呟いた。


「なんか……ラクザの悲劇を思い出すな。あの時は運良くアグラタム様と軍隊、後……幼き兵士達、だったか。噂で聞いただけだが……もしも、あの悲劇と同等の事が起こっているのだとしたら、アグラタム様に連絡もいれるべきだとタレイアに進言してみようか」

「……そうだな。ただ、異界の侵略を知らせる鐘は鳴ってない。信じてもらえるかどうか……」


アデルカインは待ちながら、そう呟いた。






2日連続投稿!……2日?

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