ナコクでの座学
後日。晴れの日、ギルドの一室を借りてベール達から魔物について座学で教わっていた。
「ラビットクローは魔物の中でも、比較的動物に近い魔物だ。だからといって油断してはならないよ。彼らのメリットはその数だ。この前は一匹一匹、リゼットが罠を仕掛けて仕留めたけど万全の備えがいつでもできているわけじゃない。複数で襲い掛かってきて血塗れ、なんてこともざらにあるからね」
その内容を自分たちはきっちりノートへと書き込んでいく。特にショウとダイナが絵付きで書き込んでいるように見えた。
「さて、ここで問題。ラビットクローがナコクの近くに出ているのは知っての通りだけど、じゃあ何でラビットクローは完全に消滅……つまり、絶滅を免れていると思う?」
その問いに、自分たちはうーんと唸る。スイロウ先生はニコニコしながらその様子を見ている。
まずは、レンターが手を挙げた。
「繁殖力が強いから。ラビットクローを絶滅させようとすると、複数ある巣を全て叩いた上で、魔物の卵まで潰さないといけない……とか」
レンターの解答に対して、ぱちぱちと拍手をするのはカイだ。
「それも理由ではある。ラビットクローの巣を全て叩き潰すとなれば、途方もない人的労力と時間がかかるだろう。だが時間は待ってくれない。ラビットクローの巣を全部同時に叩いたとして、その数分後にはもっと巧妙な巣を作るだろう」
情報をノートに書き込みながら、リゼットが頑張れ、というように言う。
「この問題、複数の答えがあるのね。で、私達も魔物の全てを知らない以上、間違いを間違いとも言い切れないのね!皆、思ったことを言ってほしいのね!」
この言葉に反応したのは、意外にもショウだ。はい!と手を上げる。
「ギルドにすっげえ失礼なこと言っていいですか?」
「勿論だとも。タレイアも笑って許してくれるよ」
ベールのその自信はどこから来るのだろう、と思いつつショウを見続ける。
「確かに、ラビットクローは絶滅させるのがすげえムズいってのはわかりました。でも、できなくはなかったはずです。ただ、絶滅させてしまうと、ラビットクローが住んでいた縄張りにもっと強え奴が住み着いてしまう。それなら、駆け出し魔物狩りの為にも訓練用としてラビットクローは敢えて絶滅されずに放置されている!……てのは、どうなんですか?」
確かに、それも一理ありそうだ。と思うと今度はガゼルが声を上げて嬉しそうにいう。
「おおお!凄いな!縄張りにまで気が利くなんて!そうだ!ラビットクローはああ見えて縄張り意識が高い!故に繁殖力はあるが弱いラビットクローの生息地を近場にすることによって、魔物狩りの訓練と安全を確保しているんだー!」
ノートに情報を書き込むと、むむむ、と唸っていたファレスが手を挙げる。
「さっきのショウ君と被るんですけど、放っておいてもナコクに被害がないからとか!むしろ、放っておけばおくほど、強い魔物は街の近くに来ないし、ラビットクローぐらいであればいざとなったら走って門番さんに言えば退治してもらえる!とか!」
ファレスの導き出した答えに手を鳴らしたのはアストライア。彼女は微笑みながら拍手をして告げる。
「ええ!そうなの、ナコクにとって被害がない。むしろ、生かしておく事が結果的に益となる事が多いから絶滅させてない、というのがギルドマスターの意向ね!実際門番さんもラビットクロー程度であればすぐに屠れるし!素晴らしい着眼点だと思うわ!」
やったあ!と嬉しがるファレスがノートにサラサラと書き込んでいく。
それを見終わったベールが、うんうん、と頷きながら声をかけてくる。
「皆凄いね。大体ラビットクローが生かされている、もしくは滅することの出来ない理由が挙げられたよ。他にもギルドの方針とかあるんだろうけど、殆どの理由はそれらじゃないかな。じゃあ次に……」
そう言って、座学は二時間ほど続いた。
休憩時間。皆が思い思いに過ごしていると、アストライアが自分の方へと向かってくる。
「貴方の魔力、少し不自然ね」
「え……まぁ、そうですね。不自然なものだとは思います」
手を差し出されたので、握り返すと魔力が吸われて、返される。
「ええっと……確か、こういうのは人工魔力っていうのよね。でも、この不自然さはそうじゃないと思うの」
「……というと?」
そこまで言って、ハッキリとアストライアが断言する。
「貴方、どこかから魔力に干渉されてるわよ」
「……え」
考えもしなかった可能性に、自分は絶句する。
続けて彼女は言った。
「確かに魔物との戦闘の経験は浅いかもしれない。でも、あの戦乱を一方的に叩きのめせる力があれば、グリームワームの一匹程度なら敵じゃないはずよ」
「……」
たしかに、そうだ。
自分はあの時全力を出していた。そうじゃないと、死ぬかもしれなかったからだ。
なのに、使った魔法はグリームワームを仕留めるに至らなかった。
自分が単に選ぶ魔法を間違えた可能性はある。しかし、魔力そのものに干渉されているとしたら……。
「何が干渉しているのかは分からない。もしかしたら、貴方が対人戦に優れていて、魔物相手が苦手なのかもしれない。でも、そんな風には見えない。
となると、魔力かその威力に何か意図的な仕掛けが施されている、と考えるしかないわ」
その言葉を聞いて、チラリとリアーを見る。
彼女が会話を聞いていたのを知っていて目線を向けると、ぶんぶんと首を横に振る。
(となると、仕掛けたのはイシュリア様じゃない……)
自分が考えに耽っていると、アストライアが明るく言う。
「干渉されているからといっても、貴方が弱いなんてことはないから安心してね!今はその事実を知っていればいいのよ!」
「ありがとう、ございます」
このままだと、足を引っ張るかもしれない。
そんな予感を抱えながら自分はアストライアさんと話を続けていた。
不定期更新で申し訳ない……