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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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清々しい敗北

数時間後。アデルカインはゆっくりと目を覚ます。


「すみません、頭痛くないですか?」


ぼーっとする頭で周りを見ると、ギルドの医療室なのがわかった。先程戦った坊主とパーティーメンバーが心配そうに自分を見ている。


「……あぁ、大丈夫だ。しかし負けたのは久しぶりだな……。ベール達と飲んだ後にノリでアストライアの均等化で魔力分け合って殴り合って以来か……」


そう言うとゆっくりと起き上がる。

心配そうな顔からホッとした坊主……レテに言う。


「俺に油断が無かったとは言えない。いくら警戒しても、所詮俺から見たら半分生きてるか分からないぐらいのガキだ。捕食者が一方的に狩る獲物に負けない、というのが払拭出来ないように俺もやらかした。だが……」


ゆっくり頭を触る。そこには丁寧に巻かれたガーゼがあったが、血は付着してなかった。


「……結局、油断も驕りも何の理由にもならねえ。自分より強いやつには、勝てねえ!」


そう言うと不思議と笑いが出る。

相手は本当に小さなガキだ。もしかしたら、自分に子供がいたら同じぐらいの年齢かもしれない。

だが負けたことによる悔しさは無かった。あったのは、清々しいまでの胸がワクワクする気分だった。

魔物経験が少ないとはいえ、圧倒的な強者の坊主。

そんなやつがいれば、グリームワームの原因も突き止められるように思えた。


「起きましたか。加減はどうですか?」

「おっマスターか。ああ、清々しいまでに負けて気持ちいいぜ」

「身体の話でしたが、軽口叩く程度には余裕がありそうですね」


タレイアが書類を書きながら話している。ワーカーホリックなのか、単純に仕事量がおかしいのか。

どちらにせよ、アデルカインから言える言葉は一つだった。


「砂漠地帯の調査。俺達が受けるぜ」


その言葉にパーティーメンバーも、覚悟を決めた顔で頷いた。



数時間前。アデルカインがまだ気絶していたとき。

パーティーメンバーの一人が、自分に向かって震えた声で叫んでいた。


「お、お前……本気出したか!?」

「出しました……よ?」


自分は頷くと、横にいたベールから疑問の声が届く。


「ならばなぜ最初から決着をつけなかったのだい?君ほどの実力差があれば、正直アデルカインはすぐに負けを認めただろうに」

「……凄く失礼な事言うんですけど、戦いたかったんです」


戦いたかった、その言葉に場の全員が悩み、考える。


「戦いたかった……アデルカインと?」

「はい。アデルカインさんは、自分を注意深く観察して、万が一にでも負けるかもしれない、という予想を立てていたと思います。

そうなれば、自然と戦いたくなってしまうんです。試した、とも言います」


自分の失礼極まりない言葉に、タレイアが溜息をつく。


「レテ君。アデルカインさんは『戦乱』と呼ばれるほど強いんですよ。一人軍隊みたいなものです。ベール、貴方アデルカインに真正面から戦って勝てます?」


その言葉にベールは少し悩んで、首を横に振る。


「僕が得意としているのは正面切っての戦闘より、仲間と連携して戦う強さだからね。アデルカインにタイマンで勝とうとするなら、まずアストライアの均等化が最低条件だとは思う」

「あわわわわ……」


ベール程の実力者が勝てない。その事実にクラスのみんながアワアワしている。


「……っと、それよりも。貴方」

「ひっ!?」


タレイアに声をかけられたのは先程自分にいちゃもんを付けていた魔物狩りだ。その魔物狩りは悲鳴を返事の代わりにし、後ずさる。


「貴方にも彼と戦ってもらいます。ただし、今度はルールを少し変えます。

お互い、特異能力の発動を許可します。そうでないと戦いになりません」

「いや、あの……タレイアさん……」


シアが何かを言おうとしたところに、にこやかに微笑んで若い魔物狩りに告げる。


「精霊を従えていますから、先程のアデルカインよりは有利ですよ。ルール上は。

……ふふ」


その笑みの意味は、自分に特異能力があると確信した声だった。


「お互い殺さないようにしてくださいね?」


そう言うと、自分はすぐに立ち位置に立つ。その対面に怯える魔物狩りが立つと、タレイアが鈴を取り出す。


「はーい、じゃあ私達下がるねー!」


シアの言葉を皮切りに、異様なほどに距離を取る皆。それにあわせて、アデルカインのパーティーメンバーや観衆も離れる。


「では、始め」


チリン、と鈴が鳴ると魔物狩りが叫ぶ。


「精霊!アイツをやっつけろ!!」 


そう言って飛び出したのは水の精霊。その精霊が自分に向けて無数の水の槍を飛ばそうとした瞬間に、自分は右手を盾のように構えて呟く。


「……純白の盾よ」


すぐに真っ白な盾が右手に顕現する。その影響は魔物狩りにもすぐに現れる。 


「あぁ、あぁ……!待て、止まれ、俺の足……!」


フラフラと意志とは関係なくこちらにやってくる彼に微笑みながら左手に土の剣を顕現させる。


「せ、精霊……よ……」


精霊も形を保てなくなり、霧散する。そうした後に、ツン、と左手の剣を胸に当てる。


「ぁ、ああ……」


遂にはボロボロと地面に伏して泣きだしてしまった彼を見ながら、タレイアの方を見る。


「あぁ……分かってくれますか……?そうですよね、私の仕事量多すぎますよね……よかった……」


完全に飲まれているタレイアを見て、不憫に思いつつ解除する。 


「……はっ!?え、ええと、勝負あり。レテ君の勝利。異論は?」

「な、ない!」


そうして若い魔物狩りは逃げるように走り去ろうとした。

そこを外にいたベールたちがガッチリと抑える。


「おっと。どこに行くのかな?」

「観念するのね。流石にあれは相手が悪すぎるのね」


皆相当離れたはずなのに、近寄ってきている。その様子を見て、自分は一人苦笑していた。


リアルで祖母が退院した結果、物凄いストレスで頭働かなくなりました。

これからはかなり不定期更新になりますが、読んでいただけると幸いです。

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