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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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レテvsアデルカイン

一時間後、アデルカインと自分はギルドの庭を借りていた。

目の前にいるのは大男。筋肉ムキムキであり、とてもではないが自分の比ではない。


「坊主!一つだけ頼んでもいいか?」

「はい、何でしょうか?」


彼は豪快に斧を構えると、その豪快さで言葉を放つ。


「坊主、相当な実力者だと見た!そこで、一切の忖度なく、本気で打ち合ってほしい!言葉も本心のものでいい!ど派手に暴言言ってもいいぞ!」

「本気かアデルカイン!?お前、相手はガキだぞ!?」


アデルカインのパーティーメンバーが叫ぶが、自分はそれに静かに頷く。


「分かりました。ただし、何を言われても傷つかないでくださいね」

「おうよ!じゃあやるか!マスター!」


アデルカインが叫ぶと、タレイアが前に進み、ルール説明を始める。


「お互い、特異能力の使用は禁じます。また、殺傷性の高い技も認めますが実際に殺した場合、それ相応の罰が下ります。特にアデルカイン。貴方は」

「了解した!」

「わかりました」


お互いが立ち位置につくと、タレイアは鈴を持つ。


「お互い悔いのないように。……始め」


ちりん、と鳴らすとアデルカインが斧に火を付与して突っ込んでくる。

まずはジャブ、とばかりに斧で回転斬り。自分は体格差でそれを下に屈んで躱すと、収縮系統の水を打ち出して火を消す。


「ほう!器用だな!」


そのままアデルカインが蹴りを飛ばそうとするが、自分が一手早い。風で自身の身体を遠くへ飛ばすと、そこから収縮系統の水を打ち飛ばす。


「ほう!風も使えるのか!しかし収縮系統と見た!ならば!」


アデルカインが素早く左右に動く。広域化系統とは真逆の収縮系統なら、そう動くのが正解だ。

徐々に距離を詰めるアデルカインに、自分は只管距離を取って水を飛ばす。


「アデルカインのスピードについてこれるだけですげえよ……」


そんな声が聞こえる。おそらくパーティーメンバーの人だろう。

その通り、アデルカインのスピードは斧を担いでいる大男とは思えない速さで詰めてくる。


「せいやっ!」


限界が来る。後ろが庭の壁だったのだ。そこを狙ってアデルカインは斧を振るうが、自分は敢えて正面から受けた。

これは、アデルカインの人柄というものを見ていた。

確かな実力者でありながら、自分を注意深く観察するところ。自分が負けるかもしれない、という想定をしているところ。

そんな思考が、『アイツ』と似ていたのだ。

だから、自分は土の盾を顕現させて呟いた。


「いい一撃だ。だが……まだ軽い。本気を出してみろ」


防がれた瞬間に後ろに下がろうとするアデルカインに風を纏わせた蹴りで思いっきり吹き飛ばす。


「なっ!?」

「水の収縮系統ではないのか!?」


外野が心配する中、アデルカインは立ち上がって態勢を整え、静かに微笑む。


「これが軽い、か……!なるほど、坊主。お前相当な実力者だな」

「本気で言っていいんだよな?」


その豹変ぶりに驚いたのは、学院の生徒だった。


「え、レテあんなやつだっけ?」

「いや……遠慮無さすぎというか無礼では……?」


ショウとクロウが混乱する中、アデルカインは腕を回して斧を持つ。


「なら……これはどうだッ!」


アデルカインが一瞬にして距離を詰め、斧を上から下に振り下ろす。

しかし、その瞬間に自分は呟きながら横に避けると、水と土の顕現により足元を泥沼にさせる。


「斧はフェイク。本命は足に付与させた火属性での回し蹴りだ」

「なっ……」


これにはアデルカインも絶句した。

確かにアデルカインの脚には火属性が付与されていた。しかし、それは今付与されたもので、見た目ではわからなかったはずだ。


「大振り。斧の動きが単調すぎる。ならサブプランがあると考えるのが妥当。そうなれば、火属性を付与する貴方は斧に視線を向けさせ、敢えて脚から目をそらすというプランに行き着くはずだ」

「……バケモノ……」


それは彼のパーティーメンバーからの呟きだった。同時に、アデルカインも驚きを隠せないでいた。


(確かに遠慮なくとは言った。ああ、俺が言った。だが……この対人戦の読み、誰ができる?

少なくとも先程の若造では無理だ。俺だって同じ状況なら斧を受け止めようとする。もしくは同じように横に避けるだろう。

だが、それを見越して足を封じられるやつがどこにいる?しかも相手は自分より巨大な男……)


そこまで考えて、アデルカインは初めて震えた声で叫んだ。


「坊主!お前……恐怖をしていないな!?

この体格差、年齢差、武器の差……その全てが目に見える情報だ!しかしお前はそれに恐怖をしていない!

なぜなら、坊主にとってそれは『取るに足らない実力差』だからだ!」


その様子に、自分はニヤリと笑って挑発する。


「ああ、そうだ。体格差、年齢による経験差、素手と斧……傍から見ればアデルカインさん。貴方が有利だ。

だけれど、自分は仰るとおり恐怖をしていない。何故なら……」


そう言って自分は風の騎士を顕現させる。


「貴方が言ったとおり、『取るに足らない実力差』だからだ」


その瞬間、アデルカインは吹き飛んだ。風の騎士が文字通り、神速で彼を風圧で吹き飛ばしたのだ。

だが終わらない。複数の風の騎士が吹き飛ばされた先のアデルカインの背中からこちらに向かって蹴り飛ばす。


「か、風の騎士だと!?」

「馬鹿な!水の、水の収縮系統じゃないのか!?あれは……風の顕現系統じゃないか!」


吹き飛ばされてきたアデルカインに対して、自分は火の剣を構える。


「ぐっ……!」


アデルカインは斧を構えるが、自分は水と光により、姿を消す。


「消えた!」

「な、なんだと……」


アデルカインは自分の位置を見失う。その状態で、自分は敢えて踵落としを上から見舞う。


ただし、タダの踵落としではない。脳天が割れないだろう、というお祈りを込めた一撃である。


「がっ!?」


アデルカインは吹き飛ばされたスピードと、その踵落としによる一撃で地面にクレーターを開ける。


「あ、アデルカイン……!」

「というか坊主はどこだ!?ギルドマスター!これは特異能力の使用じゃないのか!」


口々に観衆が叫ぶ。しかし、タレイアは首を横に振る。


「彼が行ったのは光と水の広域化系統による、光の屈折です。

自分の周りの光の角度を変えることにより、透明になったかのような幻覚を見せている。

簡単な話が、これは『光と水の広域化系統の技』にすぎないのです」


その的確な説明に、周囲が絶句する。

何よりも驚いたのは、同級生だった。


「うわ……容赦、無さすぎ……」

「……これ、本当に本気出してる?」


ファレスの一言とシアの純粋な疑問。特にシアの一言に観衆が突っかかる。


「ど、どういうことだお嬢ちゃん!まさか、まさかとは思うが……」


震えた声で聞くパーティーメンバーの人に対して、シアは答えを返す。


「確かに、レテ君は本気でアデルカインさんと戦っています。ですが、それは本気で臨んでいる、だけであって……」

「か、彼が……本気を出しているかは……別……?」


その言葉に、シアは頷く。

それもそうだ、と同時に観衆は思う。

勝負を付けるだけなら、最初から風の顕現で吹き飛ばして踵落としをすれば、アデルカインは負けを認めただろう。

だが、彼はそうしなかった。アデルカインの技を受けきり、わざと系統と属性を偽装し、泳がせた。

それが意味するところは一つ。


「ほ、本当に……アデルカインでは相手にならない……ってことか……?実力差が開きすぎていて、子鹿がライオンに挑んで遊ばれているように……」

「アデルカインで相手にならないなら……誰なら勝てるんだよ……」


気絶したアデルカインを見ながら、自分は姿を現した。


「……これでいいですか?」


その言葉に、タレイアは頷く。


「……勝負ありです」


外、滅茶苦茶暑くないですか!?

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