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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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スイロウとタレイア 1

夜遅く。生徒たちが疲れで寝静まった夜に、スイロウは一人で談話室から星を見ていた。


「遅くなりました。ありがとうございます、スイロウ」

「いやいやこちらこそだなぁ。タレイア」


二人は対面するように座ると、スイロウが呼び鈴を鳴らす。  


「すまない、エールが一本ほしいんだぁ」

 

かしこまりました、と去っていく従業員に対して、タレイアが微笑む。


「学院の教師になる、と決意した日から長い年月が経ちましたね。それが叶えられたようで何よりです」

「人見知りを治すのが大変だったがなぁ……。そちらこそ、ギルドマスターになっていたなんて驚いたぞぉ」  


届いたエールと二つのグラス。スイロウがお互いのグラスにエールを入れると、乾杯のポーズを取る。 


「それでは」

「乾杯!」    


ゴクゴクと飲むスイロウと、ちびちびと飲むタレイア。それを見て、スイロウは感激する。


「まさか成人したタレイアと酒が飲めるなんてなぁ……!」 

「そこそこ私も大きくなりましたので」


そういうと二人とも、何を語るでもなく飲んでいく。

その中で話しかけたのは、タレイアの方だった。


「スイロウはどこの学院の教師になったのですか?」


問いに対して、グラスを置いてスイロウは答える。


「中央だなぁ。王立中央魔術学院。れっきとしたイシュリア様管轄下の学院だぁ」

「これはこれは、良いところに就職しましたね。食いっぱぐれなくて安心です」


タレイアがクスクスと笑いながらグラスの中のエールを一口飲むと、今度はスイロウが話しかける。

 

「タレイアは私と別れたあとどうしていたんだぁ?」


尋ねられると、ことりとグラスを置いて話し始める。


「まずは勉強でしたね。私、スイロウに拾ってもらうまでは独学でしたので。それはもう、大勉強です。十五歳になって別れたときから、ナコクの学院で学びました。実技は負けることがありませんでしたが……筆記は最初、絶望的でしたね」


遠い目をしながら語る彼女に、スイロウも遠い目をして思い出す。



スイロウが卒業して、魔物を狩って生活していたとある日。

その日は雨で、スイロウも傘をさしながら歩いていた。そんな中、後ろから付け狙われるような気配を感じる。

気づかないふりをして曲がり角を曲がった瞬間。そこでスイロウは反転して、向かってきた犯人……タレイアをとっ捕まえる。


「何か御用かなぁ?」

「うぐっ……!離せ!」


当時のスイロウは卒業したて、ということもあり直感がかなり優れていた。なのでタレイアの追跡にも気づいたわけだ。 


「……あぁ、スリかなぁ?格好もそんなボロボロで……」

「……だったら、なんだよ。詰め所に突き出すか?」


諦めたように話す彼女に、スイロウはふむ、と考え込むと彼女をぶら下げたまま歩いていく。


「ちょっ、離せっ!どこへ連れて行くつもりだ!」

「まぁまぁ、悪いようにはしないぞぉ」


そう言って、スイロウは自分の泊まっている宿にやってきた。


「おかえりなさいませ。……おや、その子は?」

「うむ。親戚の家の子なのだが、家がとうとう嫌になったらしくてなぁ。ナコクまで脱走してきたところを保護してるんだぁ。私が二人分のお金を払うから、しばらく一緒でもいいかぁ?」


その回答に一番驚いたのは彼女だった。まさかスリをしようとした人間に救われると思っていなかったのだ。

同時に、何を考えているのか分からなかった。男は獣、ぐらいにしか考えていなかった。

それとは裏腹に、スイロウは彼女を献身的に支えた。


「鑑定の儀は行ったかぁ?……っと、その前に名前を聞かなきゃなぁ!私はスイロウ。君は?」

「……名前は知らない。鑑定の儀も行ってない」

「ふむ……名前がないと不便だなぁ。名付けちゃってもいいかぁ?」

「……勝手にしろ」


部屋の中で警戒を解かない彼女に、スイロウは学院で培った知識を総動員する。

そして、一つの名前を与えた。


「決めた!君の名前は『タレイア』だぁ。イシュリア語で、繁栄を象徴する女神の名前だぞぉ」

「……タレイア」


本人は、タレイアという名前を気に入ったようだった。

それから鑑定の儀に行き、彼女の適性を知った。


「水、収縮系統。特異能力は……開花」

「おお!属性と系統は私と全く一緒だなぁ!……特異能力は……開花?」


純粋に喜ぶスイロウを見て、タレイアは思った。


この人、底抜けのお人好しだと。


それからスイロウは、彼女に沢山の事を教えた。 

まずは言葉遣い。いつか彼女が上に立つようになったときのために、荒々しい口調を丁寧になるように教えた。

次に魔法。同じ系統、属性だったため、詰め込みではあるが彼女は生きるために食らいついていった。

最後に魔物の対処法。ナコクの外に出て、最初は傍観者、慣れてくると一緒にパートナーとして戦った。 


「……スイロウも、思い出しますか?私を拾ったときのこと」


柔和な笑顔でそう問いかけられて、スイロウはうむ、と頷く。


「……あの特異能力。開花のこと、覚えていますか?」

「勿論。戦闘にも自身にも役立たなかったあれの使い方、見つけたのかぁ?」


それに彼女はエールを一口飲んで、笑顔で頷く。


「貴方の立場……人を導くギルドマスターになって、ようやくわかりました。

私の開花は、その人の秘めた才能を直感的に知り、才能の開花に効率的な手助けの方法を知るものだと」

リアル体調がよろしくないので、三日に一回投稿になると思います。読んで貰えれば幸いです

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