慈愛の温もり
「……異界の侵攻かぁ」
夜の消灯時間と決めている時間の少し手前。本を読んでいる自分の上から声が聞こえた。
「ねぇ。レテ君はどうして分かったの?先生だって、分かっていなかったよね?」
「……いつも感じてる魔法とか魔力とかの感じと違っただけだよ。それがたまたま、わかっただけ」
本のページをぺらりと捲りながら答えた。この世界の知識をもっと得る必要がある。これも図書室から借りている。
「じゃあ別の質問するね。……この部屋での初日さ、私自分の布団にいたはずなのに何故かレテ君の横で寝てたんだよね。不思議だと思わない?」
「確かに、あれは驚いたよ」
そう取り繕ったはずだった。しかし次の言葉でページを捲る手が止まった。
「ううん。それは嘘。起きた時驚いた顔も何もしなかったし、学年対抗戦の時の事覚えてるもん。私のために使ってくれたら嬉しいな、って言ったら頷いてくれたこと」
「……!」
しまった、まさか盾がバレているとは。カンが良いのか。栞を本に差すと、本を閉じて上を向いて声をかけた。
「……シアは、何が言いたいの?」
「ずっと思ってた。レテ君は学院全体を見ても勝てる人が居ないんじゃないかって。首席や年齢だとか、関係なく。レテ君は……強くて、周りに優しくて……何よりも、会って直ぐの私を助けてくれた」
「たす、けた?」
そんな覚えはない。確かに慈愛の盾を使って彼女を安心させた記憶はあるが、それだろうか。
「……私ね、この学院に馴染めるか不安だったんだ。最初君に売店に声をかけたのも、正直不安だった。でも君は私を見たら助けてくれて。初めての寮での出来事だって、何をしたかは知らないけど知ってる。……ずっと助けられっぱなしだよ」
社交的な彼女にそんな一面があるとは。もしかしたら、根は寂しがり屋なのかもしれない。
それに彼女に慈愛ならバレても問題にはならない。左手のアレだけは、何があっても……。
(……なんでそんなに彼女の心配をするんだろう?)
ここまで考えて、ふと我に返る。左手の能力がバレても問題ないはずなのに、見せたくない。これは優しさからか?それとも別の感情からか。
「……ねえ、レテ君。もしも、もしあの優しさが特異能力だったらさ……。今日はそれを見せて欲しい。無理にとは言わない。けど、私はあの暖かい感情を、畏怖と一緒に埋めたくない。君の暖かい感情を感じたい」
「……!」
ここまでストレートに好意を伝えられるとは。いや、彼女にその気がないのはわかっている。だが、もしもあの日彼女に畏怖があるとしたら……。
(そうだよな、訳分からないうちに自分の布団に入ってたんだもんな。……ここはもう、バラそう)
そう心に決めると、シアに言う。降りてきて欲しいと。
シアが降りてくると、自分も布団から出て右手を前に出して言う。
「慈愛の盾よ。ここに」
そう言うと、手の甲に光の盾が現れる。そして、シアはそれに釣られるように自分に抱きついてきた。
「……温かい。そっか、これが君の特異能力なんだね。慈愛……うん、ピッタリだよ。レテ君は優しくて、愛に溢れてる……。ありがとう、私に教えてくれて……」
泣き始める彼女を抱きしめて撫で続ける。
(……左手だけは、見せない。彼女を混乱させてしまうから)
そう彼女の頭を右手で撫でながら決意する。あの剣はあまりに、人を壊しすぎる。
結局その後シアたっての願いで下の布団で一緒に寝た。今度は彼女が寂そうな顔をすることなく、安らかに、嬉しそうに眠っていた。
(……おやすみ、シア。良い夢を)
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