グリームワーム 1
その後もラビットクローを利用した実力測定は滞りなく行われた。特に驚かれたのはミトロとレンターが闇属性と光属性で敵を撃破したところだろう。
「皆その辺の魔物なら負けないような実力してると思うな。カイはどう思う?」
「私の感想としては、皆さん学院生とは思えないほど魔力が練られていて、集団戦であればそこら辺の魔物狩りなんて相手にならないぐらい強いと思いますよ」
手放しで褒められて嬉しがる皆の一方で、自分は昨日の星詠みを思い出していた。
(不吉な前兆……)
そう考えていると、ピクリとリゼットが反応する。
「皆、急いでガゼルの後ろに固まるのね。理由は後で説明するのね。ガゼル」
「おうよ!!」
ガゼルが理由も聞かずに前に出て、皆がその後ろに隠れる。仲間を信頼していなければ出来ない行動だ。
「スイロウ先生、申し訳ないけど私と一緒に周りから他の魔物が来ないか見てほしいのね。ベール、カイ、アストライアは迫ってくる『グリームワーム』の対処、頼むのね」
「了解した。……しかし、グリームワームが何故こんな近くに」
カイの疑問は最もだと自分は思った。しかし、その前に自衛を固めなければ。
「皆、集団行動だよ」
ニアが落ち着いた声で言うと、全員で頷く。その直後、地面からズドォン!という音がして何かが出てきた。
「はああぁっ!」
ガゼルが火属性を纏わせた大剣で巨大なミミズのような魔物に一撃を食らわせる。
その直後、カイが手を翳して氷柱を落としていく。複数が質量を持って落ちて行くところを見るに、収縮系統というより顕現系統だろう。
それでもなお一瞬怯んだだけのグリームワームに対して、ベールが軽い身のこなしで背中を直剣で切り裂く。その直剣には光属性が付与されており、アストライアがその傷跡に向けて光と火を合わせた魔法の剣を落とす。
「すごい……。これが、連携……」
シアが堪らずそう呟くと、頷く。
ガゼルが敵の意識を自分に向けさせ、カイが牽制する。アストライアがベールの攻撃のサポートをし、ベールは致命傷を与える。その間にリゼットは周りの警戒を怠らず、逃走経路の確保をしている。ほぼ理想的と言っていいほどの連携だろう。
しかし、グリームワームは倒れない。グオォ!と吼えると、ガゼルに迫る。
「おっと、食われないぞ!!!」
大剣を口に突き立てると、そのまま口を開きっぱなしにする。
カイがそれを逃さずに素早く氷を叩き込むと、ベールも後ろの傷口を更に抉る。
内部と外部。同時に傷をつけられたグリームワームはバタン、と倒れる。
「終わったのね。皆、かなり早いけどナコクに帰るのね。
グリームワームはもっと南にある砂漠地帯に生息する魔物なのね。こんな街の近くに来ることなんてないのね。
つまり、砂漠地帯に異常が起きている可能性が高いのね。これは、放っておくと魔物狩り初心者が食べられて、人の味を覚えて街を襲うかもしれないのね」
その言葉に一同が納得する。しかし、自分は未だに嫌な予感がしていた。
(グリームワームは倒れた……。だけどなんだ、この違和感は……?)
そう思っていると、リゼットが自分に問いかけてくる。
「何か深く考え込んでいるみたいだけど、ここは撤退なのね。後で考えは聞いてあげるのね」
「なんか違和感があるんです。こう、第六感といいますか……」
その言葉にリゼットはハッとしたように、周りを見渡す。
「第六感。信じてない人も多いかもしれないけど、私はそれを大切にするのね。なんでかって、予想を超えてくるものに対して私達が持ち得る、最後の観測だからなのね。
……!ガゼル!皆!戻ってきて!」
その言葉に戻るために先頭を進んできたガゼルが大剣を構えて反転し、なんの躊躇いもなくリゼットの前に立つ。
「どうした!リゼット!」
「気をつけて!グリームワーム、まだいるのね!皆!耳塞ぐのね!」
そう言うと皆が即座に耳を塞いだ。
彼女は大きなポーチの中から一つの魔導具を取り出し、大きく放り投げると自分の耳を塞ぐ。
ギィィィン!という嫌な音が響くと同時に、地面からグリームワームが二匹現れる。どちらも目の前のガゼルを標的として見ている。
「コイツら……!」
「危なかったのね。こいつら、多分油断したところを食べるつもりだったのね。さっきのグリームワームが倒れて油断するか、弱ったところを食べるところまで予測していたのね。第六感、助かったのね」
そう言うと、ベールが言う。
「スイロウ先生。皆さん。すみません、グリームワームは砂漠地帯の大型の魔物です。倒すのを手伝ってもらえますか?
……ありがとうございます。アストライア」
自分達が頷くのを確認すると、アストライアが自分を除く一人一人と手を繋いでいく。
「今、私の均衡化で魔力を渡したわ。これで、少なくとも私と貴方達は対等の魔力量と質を得たことになる。……やるわよ」
アストライアが杖を構えると同時に、自分も思考を巡らせ始めた。
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