ナコクへの移動
一月の末。朝早くから二学年の生徒は勢揃いで学院の入り口に立っていた。
今日から三月末まで、ナコクでの対魔物訓練が始まる。
学院もお金をかけたようで、列車を数本生徒用に確保したらしい。
上級生の人は既に前日までに移動しており、残るは自分たち二学年だけだ。
「よぉし!皆いるなぁ!じゃあ乗るぞぉ!」
列車は二本確保してあり、SクラスとCクラスの生徒で一本、BクラスとAクラスが一本という割り振りだった。
(人数かな……これは……)
そう思いながらも目の前の列車に乗り込むと、十一人しかいないSクラスはさっさと固まる。
「にしてもナコクかぁ。遠いなあ。何時間ぐらいかかるんだ?」
自分がボソッと呟いた質問に、レンターが答える。
「この列車が普通列車のスピードであることを仮定すると、どれだけ途中で止まらなくて早くても二日三日はかかるだろうな。実際、奥に寝台があっただろう」
「うげぇ、えげつないなぁ。食料補給とか考えるとそこに一日は足されるか」
そんなに長く列車に乗ることなど無かったので、自分はゴン、と大きなテーブルに頭をつける。
「……もしかしてレテ、列車酔いするタイプか?」
レンターの心配そうな声に、手を横に振って答える。
「いや、自分首都に住んでる上に……ほら、あれがあるからさ……長距離移動にこんな時間かかると思わなくて……」
「あれって……あぁ……あれか……。確かにあの門は便利だよな……」
クロウが門の存在を思い出すと、遠い目をする。
あの魔法は便利だが、属性魔法というより特異能力に近い魔法である。加えて、秘匿性の高い魔法であることから軽々しくも使えない。
ジェンス総長であれば知っているだろうが、それをホイホイと使うわけにはいかないだろう。
「えー?門って何?」
「秘密」
リアーがわざとらしく聞いてくると、自分が食い気味にそう答えた。その様子にリアーはクスクスと笑いながら「ふーん?」と言っていた。
「あ!皆さん外見てください!綺麗な湖ですよ!」
ミトロが目をキラキラさせながら叫ぶと、皆で窓の外に目を向ける。
「わーっ!すごい!」
「……大きい湖だね」
ファレスとフォレスが歓声を上げる。それに対して、レンターも頷く。
「この辺りで一番大きな湖のはずだ。しかし目の当たりにすると……予想より大きいな」
「あれ?レンター君ってナコク側出身じゃなかったっけ?」
ニアが問いかけると、レンターは頷く。
「ああ、ナコク側なんだが自分が乗っているのはもっと辺境に向かうための列車なんだ。線路が違うから、見たことはなくてな」
「なるほどねー!あっ、すごい!白鳥が飛んでる!」
白鳥も飛んでいるのか、と目を向ける。
穏やかでいい旅路だ……。そう思っていると、後ろからパシャリ、と音が鳴る。
「ん?」
皆で後ろを向くと、シアがカメラの魔導具を構えて撮っていた。
「来ることないだろうから!多分!撮っておこうと思って!」
「ああ、なるほど。では私の席を一瞬譲りますよ」
「本当!?ミトロちゃんありがとう!」
席を立ってミトロとシアが交代すると、シアがパシャリ、とまたシャッターを切る。
「シアがカメラ持ってるの、意外だな〜」
「意外ではないだろ。あんだけ勉強熱心なんだから」
「いや、生まれ的に〜……」
「おい、それは流石に失礼だろ」
ダイナが最もな事をいうと、ショウが怒る。ダイナも慌てて手を振って弁明する。
「わ、悪気はないよ!?ただ孤児院って経営苦しいって聞くし、カメラの魔導具滅茶苦茶高いんだよ!お小遣いで何とかなる範疇じゃないよ!?」
「ああ、うちの父さんが記念に買ってくれたやつだよ。あれ」
カメラの魔導具は本当に値が張る。一番安いものを買っても、オバチャンの元でお手伝いを毎日続けて、二ヶ月分は吹き飛ぶだろう。
「ああ……納得〜。ごめんね、シア」
「え?あ!このカメラ?いいでしょ!レテ君のお父さんが、『これからいっぱい、抱えきれないぐらいの思い出を作りなさい!』って買ってくれたの!」
「……レテ、ちょっと質問なんだが」
謝っているダイナにシアが自慢する。
その横でショウがコソコソと聞いてくるので、ん?となりながら自分は耳を貸す。
「……レテのお父さんって、軍人さんだよな」
「うん。軍人さんだね」
「あのレベルの魔導具を買えるって、どのぐらいの立ち位置にいるんだ……?」
シアの持っているカメラの魔導具は、本当に高いものだ。撮影に使うのは内部の魔力機構で、バッテリー切れなど存在しない。その上データはほぼ無尽蔵に取れる方式を採用している、主に写真家で食っていく人が使う代物だ。
「えーっと……アグラタム様直下の部下だったはず……」
「うっげぇ!?そんな偉い人だったのかよ!?」
ショウが転がりそうなぐらい驚くと、シアがスイロウ先生にカメラを手渡している。
「ほら!皆で湖背景にして撮ろうよ!」
シアが笑顔でそう提案するので、テーブルと椅子を少し退かして集まる。
「先生も入るから……そうそう!そのスペースだぁ!じゃあ行くぞぉ!」
先生がカメラの遅延撮影機能ボタンを押すと、ジーーという音が鳴りはじめる。
先生と皆で笑顔でピースをすると、パシャリ!と言う音が聞こえた。
「すごい!よく撮れてるよー!」
結果的にだが、移動中はシアの撮影大会を皆で雑談しながら見守る、ある意味有意義なものとなった。
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