お守りと不老不死
その後、無事合流した三人と共にスイロウ先生の授業という名前の今後の説明を聞いていた。
「冬休み前にも話したとおり、今月末からナコクへと遠征するからなぁ!自由時間もあるから、お土産買う人はお金を貯めておくんだぞぉ!
これが一番重要なことだが、生きて皆で帰ってくること!魔物討伐の訓練は本来この学年ではやらないから、命の危機を感じたらすぐにこれを使って逃げるんだぞぉ!」
スイロウ先生はそう言ってひとりひとりに何かの綺麗な、青色の石を渡していく。
「先生、これは?」
自分が質問すると、スイロウ先生は頷いて説明を始める。
「先生特製の魔導具……スクロールに近いものだなぁ!中身は先生の魔法の、水狼が入っているぞぉ!
三匹出てきて、一匹が敵を錯乱している間に、二匹がかりで君たちを護ってくれる!先生の魔力を込めたものだから、魔力が空っぽでも周囲の状況に応じて自動発動するぞぉ!今は仕舞っておくように!」
なるほど、お守りだ。自分は丁寧にバッグへと仕舞うと皆が感謝を伝える。
「先生、ありがとうございます!」
「先生は皆に経験を積んでほしいが、生きているのが一番だからなぁ!それじゃあ今日はこれでおしまいだぁ!」
この日の授業はこれだけだった。
解散して良いとの事だったので各自が思い思いの過ごし方をする事にした。
そんな中、自分はリアーの部屋にいた。
「ほんっとうに大変で……私、こんなに溜め込んだ?って感じだったのよ~!」
「大変ですね……イシュリア様……」
リアーの部屋に人避け、防音の結界を貼って本来の姿であるイシュリア様の愚痴を聞いてきた。
「アグラタムも守護者として仕事がある中やってくれていたのは分かるのよ!頼んだの私だから!でも多いのよ!寝不足なのよ~~!」
「まぁ……アグラタムも書類仕事が得意かと言われればそうではなさそうな気がしますし……」
「案外あの子出来るわよ?……積み重ねた年月のお陰だと思うけれど!」
(年月、年月か……)
それを聞いて前から思っていたことを聞く。
「アグラタムって何歳なんです?見た目は自分基準だと二十歳越えて三十行くか行かないかぐらいなんですけど」
「その話、ちょっと前にもアグラタムともしたわね~!アグラタムは今はせん……ひゃく?細かい数字は忘れちゃった!」
「……へ?千?」
呆然としながら尋ねると、コクコクとイシュリア様は首を縦に振る。
「千幾つね!詳しい年齢はジェンスに聞けば分かるわよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!?千歳越え!?」
「そうよ〜!ただ本人は年齢を固定させる魔法を行使して、レテ君の言うとおり二十歳前半で固定しているわね!」
「えっ!?!?!?」
大混乱である。流石に自分の前世など……。
(……何年、生きたんだっけ)
ふと、自分も同じ事を思い浮かべてしまった。前世はベッドの記憶しかなくて、年齢など数えたこともなかった。
「因みにああ見えてジェンスも同い年ね。でもスイロウ先生は若いわ〜!あの人、多分四十ぐらいよ!」
「えっ!?!?!?待ってください!イシュリアの平均寿命どうなってるんですか!?」
自分は精々、長生きして百歳二百歳だと思っていたがそれが根底から覆されるかもしれない。
「平均寿命?うーん、アグラタムやジェンス、私みたいなイレギュラーを弾いたら百歳前後に落ち着くんじゃないかしら?」
「えっ?じゃあ年齢固定させてもアグラタムは二百歳前後で死んでません!?」
そう尋ねると、イシュリア様は指を横に振って微笑む。
「今のレテ君にはまだ早いかもしれないけれど……。イシュリアの民は、生き延びようと思ったら幾らでも生きられるの。それこそ、私なんて不老だし、イシュリアの中では不死よ」
「えー……?じゃあ百歳前後で死ぬっていうのは……?」
疑問である。不老不死が目の前にあるのに、死ぬ意味が分からない。
「生き延びられるけれど、身体が老いないかというと別だわ。
アグラタムは完全な術で身体を二十歳前半で固定させているし、ジェンスも同じ要領で四十ぐらいで固定させているんでしょうね。それは私が直に教えたからよ。
逆に、書物にある不老不死の魔法では身体の内臓がどんどん老化していくの。だから病気にもなるし、酷い人は寝たきりにもなる。
生き延びられるけれど、それはただ生命があるだけ。健康とは別問題なのよ。
それに、イシュリアにも命の循環が必要なの。喪った命の分を異界として補填しなきゃいけないし!」
「つまり、イシュリア様は完全な不老不死の術を知っているけれど、異界から受け入れる命やこれ以上生きたくない、という人の為に敢えて公開していない、という感じですか?」
「簡単に言うとそうね!」
あっけらかんという言うイシュリア様に、ただ呆然とする。
「あ!でも……シアちゃんとレテ君、他のSクラスの皆が永久にイシュリアで一緒に生きたいのなら私に相談してちょうだいね?このクラスは特別よ!」
「と、時が来たら相談します……」
今は、それしか言えなかった。
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