スイロウ先生との稽古
スイロウ先生が落ち着き、ふぅと息を吐く。
「そうかぁ。ありがとうなぁ!」
「そこで、先生にお願いがあるのですが」
「うむ?何かなぁ?」
スイロウ先生がにこやかに疑問形で尋ねてくる。それに自分は真正面から顔を捉えて言う。
「スイロウ先生と戦いたいのです。全力で」
「ううーむ……それはレテ君といえど難しい相談だなぁ……」
一転して困る表情になり、悩むスイロウ先生。無理もないだろう。水狼はともかく、水牢の方は下手すると怪我では済まないのだから。
そう思っていると、スイロウ先生が口を開く。
「……二刀流の内容は聞いているなぁ?」
「はい。聞いています」
「では、こうしようかぁ。狼は普通に使い、レテ君が水の牢に十秒以上捕まったら終わり。これでどうだぁ?」
「それでお願いします!」
願ったり叶ったりだ。これ以上は妥協できないラインだろう。
よし!と声を上げてスイロウ先生が腰を上げると、自分とシアも立ち上がる。
「許可、取りに行くぞぉ!」
……そう言われて辿り着いたのは、ジェンス総長の元だった。
「何卒、可愛い生徒の頼み故、許可を頂きたく……!」
スイロウ先生と自分、シアが頭を下げて座っているジェンス総長に頼み込んでいる。
ジェンス総長は「ふむ……」と呟くと、自分に向けて一言放った。
「レテ君。魔力は戻ったのだね?」
「戻った……。はい、魔法は使えるようになりました」
「わかった。ただし、私が観戦に加わることが条件だ」
はい!と元気に返事をすると、ジェンス総長が立ち上がり、スイロウ先生に微笑む。
「『二刀流』、久しぶりに楽しみにしておりますよ」
「はっ!」
ジェンス総長もスイロウ先生を見守ってきたのだろうか。そう思うと、ふと一つ疑問が生まれた。
(……ジェンス総長とアグラタムって、何歳だ?)
いけない、要らない思考だ、と切り捨てて自分はジェンス総長についていった。
「では、審判は私が務めよう。双方、準備は良いか?」
スイロウ先生の対面に自分が立つと、頷く。
スイロウ先生も同じように頷くと、ジェンス総長がベルを取り出す。
「双方、悔いのないように。……始め」
ちりん、と鳴らすとスイロウ先生から水の槍が飛んでくる。
(速いっ!)
自分が即座にそれを横に転がり、避けると自分の後ろから水の槍がまた飛んでくる。
「土の壁よ!」
自分の後ろに壁を立てると、体勢を立て直してその壁に手を当てる。
「はぁっ!」
壁を回転させ、後ろに突き刺さっていた水の槍を掴むと収縮系統のやり方でスイロウ先生にぶん投げる。
「むっ!?」
スイロウ先生はそれを手を振って消すと、にやりと笑う。
「なるほどぉ。一筋縄ではいかないかぁ」
「先生、滅茶苦茶強いですけどね……!」
実際、とても強い。タルタロスの襲撃のときは本当に魔力がなくて限界だったのだろう、と思わざるを得ない強さだ。
「ではレテ君の顕現と私の水狼、どちらが強いか比べてみるかぁ!」
「……!」
来るか、と身構えたその瞬間。自分は第六感ともいえる反応速度で後ろに跳躍した。
「ほぅ!これを避けるのかぁ!」
自分が立っていた場所には水の狼が立っており、今にでも襲ってきそうな勢いだ。
それを見て、自分もふぅ、と息を吐く。
「……本気で行きます」
「おうとも!見せてくれぇ!君の本気を!」
水の狼が増え、三体になる。それぞれが自分に飛びつこうとした瞬間に自分は右手を振る。
「なんとっ!?」
風の顕現で生み出された騎士が自分の周りを囲み、一斉に剣を振るう。
水の狼は吹き飛ばされながらも、まだまだ戦いをやめない構えだ。
「風の騎士よ。盾を捨て、特攻せよ」
そう命令すると、風の騎士たちは文字通り疾風の如く動き、水の狼を切り刻む。
堪らず水の狼は消えるが、スイロウ先生は焦る事なく自分を見ている。
「レテ君。条件を覚えているね?」
「はい。勿論」
だから、それがあることはわかっていた。
自分の周りに高圧の水の牢獄が展開されると、自分はあえてその中に入る。
シアがカウントを始めてくれたのを確認して、自分は言霊を使う。
「太陽よ。強く、より強く照らし給え」
太陽光が強くなった。もちろん、その程度で蒸発するほど簡単な水ではない。
「ごー、ろーく……」
カウントが進む中、自分は顕現を発動させる。
「太陽の騎士よ!牢獄を破れ!」
「太陽の騎士だとぉ!?」
スイロウ先生が驚くと同時に、水牢が蒸発する。
太陽の騎士は、極めて高い温度と極光を操る騎士だ。
言霊を使っているのもあるが、この太陽の騎士を出すには一つだけ条件があった。
それは、「強い太陽光」があることだ。
そのため、先程は太陽を照らさせてもらった。
太陽の騎士が自分の正面に立つと、スイロウ先生も本気とばかりに水の槍を四方八方から放ち、水の狼が上から飛び込んでくる。
太陽の騎士が水の狼を対処し、自分は強い突風で水の槍を吹き飛ばす。
そして太陽の騎士が目の前で光を放った瞬間に、自分を水と光で包む。
「いない……!?」
水と光により、光の屈折度を変えることで自分を完全な透明にする。そうして、自分が消えた一瞬の動揺を突いてスイロウ先生の後ろに風の騎士を顕現させる。
「……!負け、だなぁ。まさか消えて襲ってくると思ったら、それが囮だとは……」
自分は魔法を解くと、スイロウ先生に近づいて手を出す。
「スイロウ先生、勉強になりました」
「いやはや、手加減したつもりはないのだがなぁ。強いなあ……」
そう言って、どこかスイロウ先生は嬉しそうに握手をしてくれた
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