叡智の箱
冬休みが終わった。あっという間だった、という感想を抱きながら寮の部屋で荷解きをする。
去年と同様、一日目は最終授業に間に合えばフリータイム。明日は学院集会だ。
「レテ君、スイロウ先生に頼みに行くの?」
ゴソゴソと魔導具を棚に入れているシアから質問が飛んでくると、すぐさま理解して答える。
「うん。とりあえず、父さんと母さんの話は聞いてみようかなって。それからかな、模擬訓練は」
「お父さんとお母さんの話は私も聞きたいかも!早く終わらせよーっと!」
二人で持ってきた荷物を全て整理し終わり、お互いがお互いの宝物を確認する。
シアは自分のお守りがついたポーチを。
自分はシアから貰ったペンダントを首から下げて。
二人で職員室に行くべく、扉を開けた。
職員室にいくと、スイロウ先生に声をかける。
「おお!二人ともどうしたぁ?」
「実は、家でスイロウ先生の事を聞きまして」
「私の……?」
疑問で首を捻るスイロウ先生に、自分が言う。
「自分の父の名前はラファ、母の名前はフォンといいます。……聞き覚えはありませんか?」
「な、なんと!?フォンさんとラファさんの息子!?……なるほどなぁ、凄いわけだぁ……」
やはりスイロウ先生の同級生らしい。場所を変えて話そう、との提案を受けたので談話室に移動する。
「いやぁ、あの二人の子供が今は私の担任……世間は小さいものだなぁ」
「実は、母に関してはあんまり聞いていないんです。父さんは雷神と呼ばれていたこと、スイロウ先生が二刀流と呼ばれていたことは聞いたのですが……」
ほほう!と声を上げて嬉しそうにするスイロウ先生が、懐かしそうに話し始める。
「そうだなぁ。じゃあフォンさんのお話からしようかぁ。
聞いたかと思うが、Aクラスでありながら卒業筆記試験を満点で通過して主席になったんだが……。それが最早異常でなぁ」
「異常?」
今度は自分とシアが首を傾げる番だった。異常とはどういう意味だろう。
「うむ。二人も知るようにSクラスとAクラス、BクラスとCクラスでは受ける内容には若干の違いがある。だけどフォンさん……皆からは『叡智の箱』とこっそり呼ばれていたフォンさんは凄かったのだよ」
「へー!お母さん、叡智の箱なんて呼ばれていたんですね」
うむ、と頷くスイロウ先生は続けて言う。
「それこそ、今のレテ君に近いなぁ。魔術は得意ではなく、穏やかな人だったが……知識が凄かったのだよぉ……」
「それが卒業筆記試験となんの関係が……?」
自分が分からない、と聞くとスイロウ先生は四本の指を両手で立てる。
「魔術学院で四つ。武術学院で四つの卒業筆記試験があるわけだ。それを全部受けて、全部満点で合格したのだよ……」
「ええええええ!?!?」
シアの絶叫が響く。自分もはぁ!?と言いたいところをぐっと堪える。
テスト時間が専用に設けられたとして、違う内容で、しかも武術学院のまで満点。そりゃあ主席である。なんなら怪物の類である。そりゃ『叡智の箱』なんて呼ばれるわけだ。
「レテ君の知識欲と記憶力はフォンさんの影響だろうなぁ……。もし、フォンさんが本当にもう少しだけ魔術を使えたらSクラスだったはずだぁ……」
「母さんって、そんなに魔術だめだったんですか?」
自分の記憶力の良さは母譲りか、と思いつつ尋ねると、スイロウ先生もうーん、と唸る。
「いや、魔術もダメではなかったんだが……。良くも悪くも、特徴がなかったんだなぁ。人並みに出来るけれど、人以上には出来ない。それがフォンさんだなぁ」
「あぁ、なるほど……」
魔術の才能が無かった、というか応用を知ってはいたがそれを実行する魔力がなかったのだろう。
「ただこれは先生も卒業してから聞いたのだが……。フォンさんはSクラス入りを辞退していたらしいんだぁ」
「えっ!?なんで……?」
「それは先生も分からないなぁ。唯一分かるのは、Sクラスに匹敵するか、それ以上の人だったフォンさんは頑なにAクラスにいたってことだなぁ。
でも、仲が悪かったわけじゃないぞぉ。自分も、どのクラスの人もフォンさんに少なからず勉強を手伝ってもらったからなぁ。争うのが好きではない人だったから、実技が多いSクラスを嫌ったのかもなぁ」
ははぁ、なるほどと思いながら二人で聞き入る。そんな様子を見たスイロウ先生が、一つ質問をしてくる。
「因みにどんな流れでそれを知ったんだぁ?シア君がレテ君の家に泊まっているのは知っていたが……」
「……えーと」
「あ、あはは……。じ、実は……付き合ってるんです。私達」
自分がどうしようか、と考えを巡らせる間にシアが暴露する。それを聞いてほほぅ!とスイロウ先生が嬉しそうにする。
「そうかそうかぁ!なるほどなぁ!これからも二人とも仲良くなぁ!」
「……はい。それで、自分とシアの様子があまりにも初々しいというので、そういえば父さんと母さんの馴れ初めは?という話に……」
納得、という感じでスイロウ先生が頷くと穏やかな笑みで聞かせてくれ、というように質問してくる。
「二人はどうだったぁ?学院の頃は土曜日になると中庭でお菓子を食べさせているのを見て、先生は早く告白しろ、どっちからでもいいから……なんて思っていたものだが……」
それを聞いて、自分も満面の笑みで答える。
「父さんは忙しいけれど……母さんの手料理を食べて、自分やシアと過ごせることを嬉しそうに、幸せそうに過ごしていました。
母さんもそんな父さんを見ながら、自分とシアの成長を嬉しそうに見てくれています」
「そうかそうか……!やっぱりあの二人は今でも仲が良いのだな……!先生は旧友として嬉しいぞぉ……!今度、手紙でも出してみるとしよう……!」
先生が感極まって泣いている。それほど、嬉しかったということだろう。
そんなスイロウ先生を、自分とシアはそっと微笑みながら見つめていた。
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