母さんの昔話
「じゃあお父さんの一目惚れから始まったんですね〜!ロマンチック〜!」
シアがうっとりしながら言うと、母さんは微笑みながら言う。
「それからはもう、トントン拍子よ〜。お父さんは偉い人になって、給料でここに家建てて。二人で暮らしながら、結婚してレテ産んで、って感じね〜」
そうだったのか、と両親の結婚のルーツについて知る。
そこまで考えて、ふと余計な考えが一つよぎる。
「母さん、関係ないんだけど一つ聞いていい?」
「うん、なあに?」
「母さんは魔術学院でAクラスで主席卒業したんだよね?」
「そうよ〜!」
「じゃあ魔術学院のSクラスで主席……っていうか、強かった人?賢かった人?って誰なの?」
本来ならば主席卒業はSクラスの生徒が担うはずだ。なのに、母さんはAクラスの卒業生。じゃあSクラスはどうだったの?って話である。
「お母さんが主席卒業したのは、卒業試験の筆記で満点取ったのもあるけど……一番は、Sクラスの人が譲ったからかしらね?」
「Sクラスの人?」
「そう!とっても強くて、お父さんとも仲が良かったのだけれど……とにかく恥ずかしがり屋さんで、前に出たくない人だったのよ〜」
「へぇ〜!なんか意外」
Sクラスの人は全員が全員、見られることに慣れてないというわけか。
(って、卒業試験で満点!?)
心の中で戦慄する自分に続けて、シアが質問する。
「その方は今どうしてるんですか?」
「うーん、卒業したら魔物を狩りに行くって言ってて……。それからは何も連絡ないわね〜。お父さんなら何か知ってるかしら?」
父さんと交流があったのなら、父さん個人に手紙を書いていてもおかしくないな、とは思った。
「その人とも手合わせしてみたいな……」
父さんとも手加減ありだが手合わせをしたのだ。ぜひ、その人とも手合わせをしてみたい。
そう思って発言すると、母さんがうんうんと頷きながら言う。
「ふふ、スイロウさんも強かったわね〜!お父さんに頼んでみたらどうかしら?」
「……え?か、母さん、今なんて……?」
なんか、よく知っている名前が聞こえた気がする。震える声で自分が尋ねると、キョトンとしながら言う。
「お父さんに頼んでみれば?って……」
「その前!名前!」
「名前ね!スイロウさんっていうのよ〜!水属性が得意な人だったの!」
「あわ、あわわわ……」
世間とはこんなに狭かったのか。シアがアワアワし始め、自分はあんぐりと口を開ける。 その様子に母さんが不思議そうに聞いてくる。
「二人ともどうしたの?どこかで会ったことあるの?」
会ったことある、というより……。
「……Sクラスの担任だよ。スイロウ先生」
「まぁ!?スイロウさん、今は学院に戻って担任の先生やっているの!?あの恥ずかしがり屋さんが!?」
今度は母さんが驚く番だった。こくりと首を縦に振るとスイロウ先生について話す。
「声が大きい……なるほどね〜!スイロウさん、変わらないわね〜!恥ずかしがり屋さんなのに声が大きいから、余計注目されて縮こまっていたのが懐かしいわ〜!」
「スイロウ先生、そんな事があったんですね!」
シアが先生の新たな一面を知れて嬉しそうにしている。自分もまさか、スイロウ先生が両親の同級生だとは思っていなかった。
「スイロウさんはその名前の通りなのだけど、水を使った技……特に、水牢と水狼っていう魔法を使った『二刀流』で戦っていたのよ!」
「すいろうと、すいろう……?」
言葉とは難しい。母さん的には違うすいろうが出てきたのだろうが、自分とシアはちんぷんかんぷんだ。
それに気づいた母さんが、詳しく説明してくれる。
「そうよね!言葉じゃわからないわよね!
一つ目の水牢は、みずに牢獄のろうの字を書いてすいろう、と読むの!簡単に言えば、相手を高圧の水の牢獄に閉じ込めて、その中を徹底的に攻撃する手法ね!」
「スイロウ先生そんなことできたの!?」
そりゃあ魔物なんてイチコロだろう。出ようとしたところを潰されてお終いだ。しかし、えげつない。対処法が無理やり突破するという力技しかないのが、特に。
「二つ目の水狼はみずにおおかみ、と書いて水狼ね。水の狼を扱って、精霊召喚のように一体多数の状況に持ち込んで戦う方法よ〜!」
「……スイロウ先生って、何系統が得意なんですか?」
シアの疑問はもっともだ。基本的に得意なものを伸ばした方が強いこの世界において、今の二つは収縮と顕現とバラバラである。
「収縮系統じゃなかったかしら?本人に聞いてみるのが一番よ〜!」
「それもそうか……」
スイロウ先生とは冬休み明けに会えるのだから、その時に聞いた方が確実だろう。
「なんだか、すごいお話をありがとうございました!」
「ううん!お母さんも懐かしくなっちゃった!……さ、ご飯片付けましょうか!二人は風呂入ってきていいわよ〜!」
食べ終わった食器を運んでいく母さんを尻目に、自分とシアは自室に戻って風呂の準備をする。
「『雷神』に『二刀流』……いつか本気で手合わせしたいな」
「あはは……レテ君本気でやりそうでこわーい……」
シアの若干引いた声を聞きながら、二人で風呂へと向かった。
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