ラファとフォンの慣れ始め
冬休みも残り二日。自分とシアはのんびりと部屋で過ごしていた。
「レテ君からもらったハンカチ、大事にするね!」
「自分もシアからもらったハンカチ、大事に使わせてもらうよ」
シアは裁縫を無事習得し、自分はそこそこ縫える程度には成長した。
課題も暇な時に二人で終わらせてしまったし、お母さんからものんびり過ごすように言われている。
「どうする?夜ご飯までかなりあるけど……」
「遊ぼ遊ぼ!魔導具、あるでしょ!」
食い気味に身体を乗り出してくるシアに、自分は両の掌をシアに向けて待って、待ってと伝える。
「んーと……二人で出来そうなのは……」
困った。大量にある。ううむ、と考えているとシアが一つの魔導具をひょいっと取る。
「これ!これやろ!」
「お、エアホッケーか。やろう!」
エアホッケーのルールは至ってシンプルである。
風魔法で動く中くらいの円盤をお互いの陣地で専用の道具で打ち合って、先に一定の点数を取ったほうが勝ちだ。
そしてこのエアホッケーの魔導具はそこそこでかい。ベッドから部屋の真ん中へと移動して魔導具を展開すると、シアが付属の道具を渡してくる。
「今日も勝つんだから!」
「今日こそシアに勝つからな!」
シアは孤児院で小さい子と遊んでいたという経験から、遊び全般が強い。
自分といえば、昔から本か魔力の鍛錬だったので知識がモノを言うゲーム以外はからっきしだった。
こうして、熱いエアホッケーの戦いが始まった。
数時間後。二人でエアホッケーに集中している最中に声が聞こえた。
「レテ〜、シアちゃーん、ご飯よ〜」
「わかったー!今行くー!」
気がつくともうそんな時間らしい。円盤と専用の道具をシアが回収し、自分が魔導具を畳むとシアがドヤ顔で言ってくる。
「累計五勝!どやっ!」
「シア強いよ……もう少しだったんだけどな……!」
十点先制のルールで、一番シアに迫った回で自分の得点が九点。最低点は五点だ。無論、シアの得点は全て十点。シアの強さがよく出ていた。
「今日のご飯何かな〜!」
「何だろうな」
シアがたたっと走って行く後を追いかけると、母さんが笑顔で待っていた。
「ふふ、二人で楽しんでたようで何よりだわ〜!今日は寒いからグラタン作ってみたの!」
「グラタンー!美味しそう!」
シアが目をキラキラさせながら席に座ると、自分も席に座る。最後に母さんが座ると、両手を合わせて言う。
「いただきます!」
「「いただきます!」」
あれから窓も丈夫になったし、部屋は快適な温度だ。アツアツのグラタンをふーふーしながら食べると、これまた絶品である。
「美味しい!」
「ふふ、よかった!シアちゃんはどう?」
「美味しいです!きのこグラタンなんですね!」
シアは本当に好き嫌いなく、どんなものでも美味しく食べる。そんな様子を見ていると、自分も釣られてたくさん食べてしまうのだ。
「シアちゃんが来てからレテも今までより沢山食べるようになって嬉しいわ〜!やっぱり、未来のお嫁さんの力はすごいのね!」
「ヴッ!?」
一息つこうと水を手に取ろうとした瞬間に母さんがそんなことをいうものだから、変な悲鳴が出る。シアはというと、少し照れながら聞いてくる。
「そうなの?レテ君」
「シア、滅茶苦茶美味しそうに食べるから……お腹空いちゃうんだよな……」
「ほんと〜!?じゃあもっと美味しそうに食べちゃおっ!!」
そう言ってサラダに手を出すシアを見て、母さんがあらあらと微笑みながら言う。
「ふふ、初々しくていいわね〜!父さんとの出会いを思い出すわ!」
「そういえば、お母さんとお父さんってどこで出会ったんですか?」
聞いたことは無かった、と思いつつ自分も視線を向けると、母さんは笑みを絶やさず言う。
「私が魔術学院でまだ学んでいたときね──」
学院交流の日にち。フォンは魔術学院側のAクラスの代表として微笑んでいた。
フォンが当時四学年だったこともあり、下の学年の子たちを見守っていたのだ。
「おや、貴女は混ざらないのですか?」
そんな中、声をかけてきた武術学院の男性がいた。
「いや失礼。私と同じで見守る立場の方でしたかな」
「ラファさん……ですよね?武術学院のSクラスの……」
当時のSクラスの中でも一際強かった存在、武術学院のラファが声をかけてきたのだ。
「はい。私はラファと申します。よろしければ、貴女のお名前を伺っても?」
「私はフォンと言います。以後お見知りおきを……」
丁寧に礼をすると、その日は二人で談笑して学院交流が終わった。
転機があったのは、フォンが気晴らしに手作り菓子を作って中庭で食べていたときである。
「う、うぅ……お腹空いた……」
そんな声が響いてくるものだから、そちらを向くと腹をぎゅるる、と言わせながら歩いているラファを見かけた。
「ラファさん!?どうされたのです!?」
「あ、フォンさん……実は……」
彼もお昼ご飯を食べる予定だったのだが、ふと後ろを見ると暗い顔をした子がいたらしい。
どうしたんだい?と声をかけると、その子は言う。
「自分はいっぱい食べるからもっと食べたいけど、お金がないからおやつは買えない。だから我慢しなきゃ……って聞いたとき、いてもたってもいられず。今後はオバチャンに相談するように、と言って私のご飯を渡してしまい……」
「あら……では何も食べていないのですか……?」
こくりと情けなさそうに頷く彼に、作ってきた菓子を差し出す。
「……これは?」
「私の手作りのお菓子です。よろしければ」
「よ、良いのですか!?」
ラファは目を輝かせながら、それでも丁寧に菓子を食べる。
「……!美味しいです!」
ラファの武勇は魔術学院まで届いていた。
特に響いてきたのは、四属性に縛られない属性……『雷』を扱っていたことだろう。
『雷神』の異名で知られていたラファが、年相応の顔で美味しそうにお菓子を食べている。
その姿に、フォンはドキッとしてしまったのだ。
「も、もしよろしければ……来週も食べたいのですが……!」
「ええ、私の菓子でよろしければ」
その後、二年間特別なことが無い限り毎週土曜日に手作りお菓子を食べさせていた日。卒業間近というタイミングで、彼が言う。
「……フォンさん、少し。私のワガママを聞いていただけますか?」
「はい。なんなりと」
フォンはその時点でラファを好いていたが、彼は告白される側だった。だから心の中で恋情は秘めていたのだが。
「私は卒業したら軍人になるのが確約されました。……しかし、そうすると……貴女のお菓子はもう食べられない」
「そうですね……。届けられなくはないですが、難しいです」
卒業後はラファはイシュリア城に仕える軍人、方やフォンは一般の民。これではお菓子など届けられるはずもない。
「……なので、恥を承知で言わせて頂きたいのです。
これからも、ずっと……私の横に立ってくれないかと」
「えっ……」
彼が顔を真っ赤にして言う姿は、フォンにも動揺を齎した。
「……こ、この期に及んで言うのは恥ずかしいのですが……。実は私、フォンさんに学院交流であった時にそ、その……一目惚れしてしまいまして……。しかし、手作りのお菓子を毎週作ってくれる貴女にそれを伝えるのもどうかと思っていたらじ、時間が……過ぎてしまい……」
あの『雷神』が、顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながら告白をしている。
(……ああ、この人の横はきっと温かいでしょう)
強くて、可愛げがあって、優しい。そんな彼が勇気を出して告白してくれた。
フォンはそっと手を重ねて言う。
「私も、ラファさんの事を好いております。……どうか、お付き合いしてくださいませんか?」
「……!あ、ありがとうございます!」
それから二人はお付き合いを始めたのである。
完全なる余談なのだが、ラファは武術学院の男子から。フォンは魔術学院の女子からお互いに「なんで貴方達付き合ってないの?さっさと告白しちゃいなよ!」と二年間言われ続けていた結果である。
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