かけがえのない宝物
冬休みも中盤。父さんは三日間の休みを存分に満喫してまたノボリビへと向かっていった。
「だいぶ手慣れてきたわね!これなら学院でも何か編めるんじゃないかしら?」
「ありがとうございます!お母さんの教え方が上手なおかげですよ!」
「あらあら、ありがとう!……レテの方はどう?」
二人が和気藹々と裁縫をしている中、自分も横でハンカチを編んでいた。
「いい感じだよ」
「あ!すごい!レテ君、形になってる!」
「やっぱり経験なのかしら〜」
二人とも編みながら、感嘆の声を上げていた。
お守りを作り終えた日の夜。シアにそのお守りをプレゼントしたのだ。
「はい、お守り」
「えっ!いいの?」
「うん。元々シアにあげるために作っていたから」
そう言うと、シアはぱああ、と顔を輝かせながらぎゅっとお守りを握り締める。
「ありがとう!大切にするね!肌見放さず持ってる!いいことありそうだから!」
「いいこと、あるといいな」
父さんにも母さんにも、シアにもお守りに術式を組み込んだことは言っていない。
発動しなければそれに越したことはないが、万が一の保険というやつである。
シアが肌見放さず持っているポーチにお守りを括りつける。ふと、そのポーチが気になった。
「そのポーチ、かなり使い込まれてるね。孤児院時代の物?」
「そうなの!私の誕生日プレゼントって言って、上の人がくれたんだ!」
「素敵なデザインだね。使い心地もよさそうだ」
素朴なワンカラーのデザインに、機能性重視のポーチ。孤児院で、面倒を見る側なら尚更プレゼントは嬉しいだろう。
「これも大事な宝物だから!」
「宝物があるのはいいことだよ」
「レテ君は無いの?これだ!っていう宝物」
宝物。何かあっただろうか。
両親から貰った本も、皆がくれたプレゼントも宝物だ。
だが、これだけは捨てられない!という宝物は無い気がする。
「あー!レテ君の悪いところ出てる!」
「え!?」
「全部大切だから、これだ!っていう宝物ないんでしょ!」
「うぐっ……」
「ほら図星!」
シアが怒ったように言うと、優しく自分の事を抱きしめる。
「……レテ君にも宝物はあるって、わかってる。でも、捨てられないものは無いって私は魔力の事で知ってるから。私が見つけてあげる。これだ、っていう宝物」
「……ありがとう、シア」
抱きつき返すと、シアが強く、強く抱きしめる。
それに呼応するように自分も手の力を込める。
離れたくなくて。自分も相当、シアに依存したなと思った。
「……テ、レテ〜?」
「ん、ごめん母さん。どうしたの?」
物思いにふけっていると、母さんから声をかけられる。
「ちょっとシアちゃんとこのお店に行ってきてほしいんだけど……」
そう言って地図を渡される。場所は……前も行った魔導具屋さん。
「突然どうしたの?」
「レテ君、これは深刻な事態だよ」
「え?」
「見て。窓の方」
そう言われて窓の方を見ると、一瞬で察した。
「……窓がぶっ壊れてる……ああ、ガラス片滅茶苦茶でしょこれ……何をしたらこうなったの……?」
「冷気と熱気でパリン!しちゃった感じね……。窓を修繕してくれる人はいるのだけど、窓に魔法をかけてもらおうと思って」
「そんなに早く窓を修繕してくれる人いるの?」
「お隣さんね。家具屋さんのところの息子さんが住んでるの!」
納得である。家具屋さんであれば置いてあるだろう。
「じゃあシア、行こうか」
「うん!お母さん、行ってきます!」
「気をつけてね〜!」
窓が割れたことにも気づかないとは、かなり深い思考に沈んでいたようだ。
魔導具屋さんの通りを歩いていくと、賑やかさを感じる。
「活気すごいねー!」
「本当にね」
人が人を呼び合い、買い物をする人たちが大勢いる。そんな中、自分たちは魔導具屋に着いた。
「すみませーん」
挨拶をしながら扉を開けると、前にも会った老婆さんが出てくる。
「おや、ラファさんところの。今日はどうしたんだい?」
「実は窓が割れてしまって……」
詳しい魔法の内容を説明すると、お婆さんは頷いた。
「分かった。支度して向かうよ。それまで好きに商品を見てておくれ」
お婆さんは準備をしに奥へと入っていった。
好きに見てていい、と言われたので店の中の魔導具を見ることにする。
「へぇー、近くで雨雲が発生するとケロケロ鳴く魔導具なんてあるんだね!」
「そんなものもあるのか……」
凄いな、魔導具と思いながら巡っているとシアがある一点の魔導具に目を惹かれる。
「……これ」
「これ?……綺麗なペンダントだね。でもなんというか……なんだ?この魔力……」
不可解な魔力を感じる。形としてはごく普通の、先に雫模様が付いたペンダントなのだが……。
「……呼んでる」
「へ?誰が?」
「この子が」
「ちょ、シア!勝手に商品に触れるのは……!」
シアがペンダントを手に取ると、不可思議なことに得体のしれない魔力が消えていく。
その瞬間、ドタバタと婆さんが駆けつけてくる。
「ラファさんところの!ペンダントに何かしたのかい!?」
「い、今彼女が触ってしまって!ごめんなさい!ほら、シアも!」
「……やっぱり、呼んでる」
明らかに様子のおかしいシアに、お婆さんがよろよろと近づいていく。
「ま、まさか……。ラファさんの!一旦この子からペンダントを取り上げられるかい!?」
「はい!」
純白の盾を顕現させると、シアがこちらに向かって倒れ込んでくる。その隙にペンダントを自分が取り返し、純白の盾を消す。
「……すごい能力だね、その盾……」
婆さんも影響を受けてしまったようで、ホロホロと泣いている。肝心のシアは……。
「え、あれ……レテ君……。あっ!?す、すみません!ペンダント、勝手に触ってしまって!」
慌てて自分から離れると、勢い良くお婆さんに向かって首を下げる。するとお婆さんが、質問をする。
「……貴女、特異能力持ちかい?」
「は、はい!そうです!」
「……それも、特別な。四方を司る神の力を借りる能力」
「えっ、どうしてそれを……?」
四神顕現、聞いてはいたがまさか本当に神の力を借りていたとは。
それをどうしてお婆さんが言い当てられたのかが気になったが、お婆さんの言葉で全てがわかった。
「……そのペンダントに封じ込められたとされる魔力。その名を『オウリュウ』というのさ。オウリュウというのは、四神の中心と同時に狂暴性を兼ね備える。同時に、オウリュウにはこんな言い伝えがあるんだ。
曰く、『その神は総てを掌握するモノ。森羅万象、全ての奇跡を司る』と……」
シアもぽかんとしている。自分も絶句せずにはいられない。
「お嬢ちゃん、このペンダントを貴女にプレゼントしよう」
「えっ!?お、お代を……!」
そう聞くとお婆さんは首を横に振る。
「このペンダントは、そういう魔導具なのさ。……もらっておくれ」
ここまで言われれば、シアも貰うしかない。
「ほっほ、ありがとう!じゃあ行こうかね!」
お婆さんが快活に笑ったあと、自分とシアが外に出る。
「……そうだ!このペンダント、レテ君にあげる!」
「へ?でも、シアがもらったものじゃ……」
お婆さんが鍵をかけ終わって、こちらに話しかけてくる。
「おや!ラファさんの子はお嬢ちゃんの恋人なのかい?」
「は、はいっ!恋人です!」
「なら尚更もらっておくべきだね!『オウリュウ』の加護を受けられるのだからね!ほっほ!」
シアが優しく自分の首にペンダントを掛けてくれる。
「えへへ!大切にしてね!」
微笑むシアを見てそうか、と思う。
シアの笑顔こそが、自分にとって捨てられない、とっておきの宝物なのだと。
ならば、それを教えてくれたこのペンダントもかけがえのない宝物だろう。
「ありがとう、大切にする」
そう言うと、脳内に誰かの言葉が響いた。
─四神に認められし汝。汝に無窮の加護を与えん─
「……シア、何か聞こえたか?」
「ん?いや、何も聞こえなかったけど……?」
不思議そうな顔をしながら、お婆さんを連れて、シアと家に帰ることにした。
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