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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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二つの気持ち

リアーは一人、談話室へと向かっていた。

目的は一つ。ネイビアの誤解を解くことである。

談話室の中に入ると、元気に挨拶する。


「こんにちはーっ!ネイビアさん、どこにいるか知りませんか?」


その声に先輩が答える。


「おはよ!ネイビアさん?……うーん、談話室には来てないと思うな……」

「あっ、私見たよ!なんか、滅茶苦茶真剣な表情で先生のところに行ってた!」

「ありがとうございます!」


真剣な表情、というのが気になるが次に向かうのは職員室だ。

トコトコ、と歩いていると丁度前からネイビアがやってくる。


「あ!ネイビアさん!探してたんだー!」

「貴女は……。ええと、リアーさん、ですよね。こんにちは」

「そうだよ!こんにちは!」


微笑むと、ネイビアはぺこりとお辞儀を返してくれる。


「それで、自分に用事とは……?」

「今日はねー!ネイビアさんの誤解を解こうと思って!」

「誤解……?」


首を傾げている彼を立ちっぱなしにするのも悪いと思い、談話室へと向かう。

二人で対面するように向かい合うと、すっぱりと尋ねる。


「正直でいいよ!正直さ!……レテ君とシアちゃんの入院の件、妊娠だと思ってない?」

「滅茶苦茶思ってます」

「だよねぇ。ごめんねー、皆説明不足なんだから……」

「違うんですか!?」


ガタッと前に乗り出してくる彼に、笑顔で頷く。


「うん!全く違うよ!二人が入院したのは、レテ君の魔力を人工魔力っていうものに置き換えるための手術!シアちゃんはただの付き添いだね!」

「そ、そうだったんですか!?自分はてっきり、その、二人が……」

「気持ちは滅茶苦茶わかるよー!私も同じように聞かされたらそう思うし!」


年頃のお付き合いの男女。唐突な入院。これだけの情報ならばもう、確定で妊娠といってもいい。


「……そうだったんですね。それでその……人工魔力、というのは……」

「元々は軍の人とかアグラタム様とか偉い人に使われる、魔力欠乏の時に使われる代用魔力だね!魔力を生み出す装置を埋め込んで、身体に自分の魔力が戻るまで魔力を供給してくれるすぐれもの!」

「そ、そんなに凄いものが……先輩の中に?」


唖然とする彼に、私はうんうんと首を縦に振る。


「そうだよねぇ。いくらレテ君が優れてるっていっても、ここまでしたら贔屓みたいだよねぇ」

「……そうですね。正直、羨ましいです」


そう言うと、彼は一口お茶を飲む。私も合わせて一口お茶を口に含む。

ゴクリと喉に通すと、ネイビアが質問を重ねてくる。


「その手術……成功したんですか?」

「なんか成功したみたいだよ!さっきダイナ君をボコボコにしてた!」

「ぼ、ボコボコ……」


実際ボコボコなのだからしょうがない。事実を述べただけだ。

ネイビアはカップを見つめながら、ポツリと呟く。


「……自分、レテ先輩を尊敬する気持ちと憎む気持ちがあるんです」

「というとー?」


私が周りに防音結界を貼ると、ネイビアがお辞儀をしてから話し出す。


「顕現の神童。先輩がそう呼ばれているのを様々な場所で聞きました。実際先輩は強くて、自分では届かないような高みにいると思います。それに、人を惹き付けるといいますか。人の輪に入るのが得意な気もしていて。そんな先輩を尊敬しているんです」

「そうだよねー!レテ君強いし、いつの間にか話題になって巻き込まれてるもんね。……じゃあ、憎む気持ちは?」


ネイビアのカップを包む手がぎゅっと強くなる。私は逆に手を離して、聞く姿勢になる。


「……自分、シアさんが好きです。今でも、変わりません。だからといって、付き合ってるから憎いわけじゃないです。お二人ともお互いを好いているのがわかっていたので……。

……ラクザの戦火に、タルタロスの戦い。そんな危険なところにシアさんを、恋人を連れて行ったのが許せないんです。ましてや、レテ先輩は力があります。力があるなら、強引に待たせることも可能だったと思います。それが、許せなくて」

「そっか……そうだよね。誰だって好きな人を危険な場所に連れて行かれたら怒るもんね」


またお互い、一口ずつお茶を飲む。器を置くと、今のネイビアの心を代弁するかのように、波紋が揺れる。


「これは私の勝手な想像なんだけど……。レテ君、本当はシアちゃんを置いていくつもりだったんじゃないかな」

「……シアさんも、そう言ってましたね」

「ネイビアさん、思い出してほしいんだけど……。タルタロス侵攻の時に、イシュリア様からの声明があったじゃない?あの時、なんて思った?」


唐突な過去の質問にネイビアは少し考える様子を見せる。

数分後、思い出したというように話す。


「……確か、何があっても孤児院の中にいなきゃ、絶対に外には出ないぞって……。その直前までは明日も街のお手伝いしようと思っていたのに、それが薄れていって……」

「これも私の勝手な想像なんだけどね?私はイシュリア様からの声明に、洗脳があったと思うの」

「せ、洗脳……?」 


こくりと頷くと、ネイビアが明らかに動揺した様子で口を開く。


「そ、そんな。流石に不敬すぎませんか……?」

「ふ、不敬だとは思うよ!でもさ、タルタロス侵攻からそれが解かれるまで、窃盗事件とか、何か事件が起きたとか。そういうの、一件も聞いてないんだよね」

「あ……。確かに。店の人が全員休むなら、これ以上ないぐらい、強盗の人にとって条件が揃ってますよね」

「でしょ?でも、そんなことは聞かなかった。だから、ある種の洗脳があったんじゃないかなって」


理屈を述べると、ネイビアも納得した様子で考え込む。そうして少しして、質問をしてくる。


「……じゃあ、なんでレテ先輩とシアさんは洗脳を受けなかったんでしょうか」 

「……多分、レテ君かシアちゃんが洗脳を掻き消したんじゃないかな」

「ええっ!?掻き消した、って……!イシュリア様の魔法ですよ!?」

「でもそれ以外考えられないと思わない?二人が洗脳にかかってたら、タルタロスには行けなかったわけだし」


うーん、と唸るネイビア。手を顎に当てて、深く考えた後にポツリという。


「仮にレテ先輩は洗脳を打ち消したとして……。シアさんをそのままにしなかったのは?危険な場所なら、そのまま洗脳状態で待っていて貰えばよかったじゃないですか」


その答えを私は知っている。同時に、レテという人物がどういう人なのかも。


「レテ君は、シアちゃんの意思を尊重したからこそ掻き消したんだと思うよ」

「意志の尊重……」

「仮に洗脳を受けたまま、レテ君だけ戦場に行って亡くなったら……。シアちゃん、一生責めそうじゃない?なんであのとき私は行けなかったんだ、一緒に行くって約束してたのに、反故にした駄目な人だって」

「……た、たしかに……。シアさんが一緒に行くって言っていたなら、これ以上ない意識の塗替えですもんね」

「そ!だからレテ君は分かっていて、洗脳を解いたと思うんだ!」


そう、ですか。と言ってネイビアは黙り込む。

私はそれを見ながら、お茶をまた一口飲んだ。


(……とりあえず、誤解は解けたかしら?)



毎日19時に投稿を心がけて頑張っています!

面白い!続きが気になる!という方は明日も読みに来てくれると嬉しいです!

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