生死の境目を彷徨って
目が開く。自然と白い天井をとらえる。
「おはようございます。手術は無事完了しました」
「しゅ、じゅつ……」
そうだ。自分は魔力を全て抜かれてその代わりに専用の人工魔力を植え付けられて……。
記憶が段々とはっきりしてくる。ここがどこなのか、自分が何故眠っていたのか。何をして、されていたのか。
「簡単な意識混濁のチェックをしますね。ご自分の名前はお分かりになりますか?」
「はい。レテです」
その後数個質問を受けて、頷かれると起き上がろうとする。
「手をお貸しします」
看護師の人に背中を支えてもらいながら起き上がると、ふと自分が白衣姿になっているのがわかった。
「あの、この白衣は?」
「手術中に服を変えさせて頂きました。魔力の通りが良くなるもので、後数日間は同じ白衣を着替えながら使っていただく事になります」
「わかりました……。あの、元の服は……」
「ここにございます」
ベッドから少し離れた場所に丁寧に畳んである服を手で案内され、しっかりと持つ。
「魔力が貴方の身体に満ちるまでは魔法を使うことはお止めください。大体、二日経てば魔力も満ちてきますので」
「わかりました。ありがとうございます」
お辞儀をすると、白衣の人達もお辞儀をして一緒に手術室の外へと出る。
「レテ!」
「レテ君!」
廊下のソファーには父さんとシアが座っていて、二人とも自分の事を見ると駆け寄ってきた。
「よく頑張ったな!流石俺の息子だ!」
「良かった、良かったよぉ……!」
「え?えっと……?」
泣きながら撫でる父さんと、泣きじゃくるシア。
正直薬で眠っていただけだから何があったのか分からない。それを説明するように、白衣の人が何かの図を持ってくる。
「レテ様は一時、危篤状態であったのです」
「ええっ!?」
見せられた図は正直分からない。何かのグラフのようだ。
「このグラフは魔力の出し入れをした時の生命力……要は、魔力を使わず生きていく気力のようなもののグラフです。ここをご覧ください」
そっと指を動かされると、不自然に地を這っている部分があるのがわかる。それを見て、自分も冷や汗をかきつつ嫌な予感をしながら尋ねる。
「……これ、もしかして魔力抜いたら死にかけたってことですか……?」
「はい。魔力を完全に抜いた瞬間から人工魔力を入れて、合計三十分程生命力が完全に消えていました」
ぶわっと汗が出てくる。顔が青ざめる。そりゃ二人とも心配するはずだ。
「げ、原因とかあるんですか……?」
「多くの人は魔力がなくてもこの生命力というものが別途に備わっており、魔力を完全に抜いたとしても生きていけるようになっています。
ですが、レテ様の場合は生命力が完全に魔力に依存していたようです。……それも、納得の理由ですが」
そう言われて、別のグラフを見せられる。今度は円グラフとなっていて、こちらは見方が多少分かった。
「こちらの左図は通常の人の魔力と生命力の関係を円グラフとして表した図です。
通常の人であれば、魔力と生命力は五対五。それぞれが半分を担っております。
一方レテ様は生命力すら魔力として身体に吸収されており、魔力の質や量が多い代わりに身体に生きていく司令を出す余分な生命力が僅かしかなく、魔力が九割五分に対し、生命力が五分となります」
「ご、五分……」
泣きじゃくる二人は恐らく手術が終わったあと、説明を聞いたのだろう。
「……我々としても、とても不安な場面ではありました。人工魔力を埋め込む前から生命力が無く、埋め込んだ後も生命力が出てこない。簡単に言うと仮死状態であったわけです。
それが約三十分続いたあと生命力が通り、ようやく一命を取り留めた形になります」
「う、心配をおかけしました……」
自分の身体が歪すぎる事に罪悪感を覚えつつ謝罪をすると、看護師の人たちは首を横に振る。
「いえ。我々はやれる事をやったのみです。無事に生きていてくれて、こちらこそ感謝しております」
「そうだよーっ!レテ君分かってる!?覚えてないって言ったって一時期あの世行きだったんだよ!?」
わーん!と泣いているシアが両手で抱きつくので、それを優しく撫でるとふと外を見る。
「……あれ、今何時?というか、時間どれぐらいかかりました?」
既に明るい。手術がそんな数時間で終わったとは思えない。
「一日と六時間。合計三十時間になります」
「本当にありがとうございました!!!!」
感謝を示すと、白衣の人たちは「それが仕事ですから」と微笑んでいた。
「成功してよかったわー!私の首が飛ぶかもしれなかったもの!」
「イシュリア様!」
女王が姿を見せると、皆が頭を垂れる。それを微笑みながらひとりひとりを労っていくと、ふとシアの前で止まる。
「そうだ!シアちゃんちょっと来て頂戴?私の部屋がどうだったか聞きたいもの!」
「え、ふぇっ!?」
そう言ってシアは先に連れて行かれた。あはは、と自分は笑いながらそれを見送った。
「シアちゃん。正直に答えて頂戴。
……貴女、特異能力で生命力を分けたでしょう」
イシュリア様の私室で、私は唐突にそう言われた。
ビクッとなる。やはりまずかったのか。そう思っているとイシュリア様は微笑んだ。
「責めているわけではないわ。寧ろ感謝しているの。レテ君を助けるために、『生命力を生み出して分け与える』ことができるなんて」
「……イシュリア様は、全てわかっていらっしゃったんですね」
そうだ。レテ君が生命力を繋いだのは、天から舞い降りた奇跡ではない。
「……姿を表して。『スザク』」
そう言うと紅の鳥が姿を表す。
「愛しい愛しい我が主……!主の命令となれば、このスザク。灰になろうとも構いません!」
四神顕現。四つの神を呼び出す特異能力。
ビャッコは見つけ、前線で戦うのが得意だ。
ゲンブはその場を守る事に長けている。
セイリュウは麻痺、毒といった絡め手を使ってサポートをしてくれる。
そしてスザク。スザクの能力は『生命力の譲渡』だ。
事の発端は、ラファさんが訓練に行っていて一人の時の時間だった。
──主、我が愛しい主様……貴女の愛しき人が、今喪われようとしています……──
その声が、脳内に響く。声の主が誰だか、直感でわかった。
(……スザク。私はどうしたらいい?)
それがレテ君が死にかけていることだと、すぐにわかった。
そしてスザクは応えた。
──私の能力は生命力の譲渡。迸る再生力を持って、主様の愛しきお方を生かしましょう……──
それを聞いた瞬間に、私の心は決まった。
パン、と手を合わせて言う。
「彼を助けて。『スザク』!」
──嗚呼!愛しき主様の命令のままに!──
そう言って、私はレテ君にスザクの再生力……。
つまり、私から出ている生命力を譲渡し生き長らえたのだ。
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