手術、開始
医療班の人が準備している最中、自分は身体検査を受けていた。
「身体の方は異常ありませんね。健康体です」
「良かったです」
検査結果を告げられてホッとする後ろで、シアがイシュリア様に尋ねていた。
「なんで私も同行させたんですか?事情を説明してもらえれば、私は部屋に残ったままでも……」
イシュリア様はそれに対して、うーんと唸りながら答えた。
「それでも良かったのだけれど……。今回、手術をするわけじゃない?それも恋人のレテ君の。貴女はブレスレットを持っているわけじゃない。ましてや、逐一私やアグラタムが報告しに行くわけにはいかない。そんな状態で、勉学に励めると思えなくて」
「うぐっ……確かに……」
最低五日間、居ない恋人の安否がわからないまま過ごす。シアにとってはかなりキツイ出来事だろう。
「それでは、手術を開始します。また負担をかけてしまいますが、薬をお飲みください」
「分かりました」
その言葉でイシュリア様、アグラタム、父さんとシアが部屋から退出する。
自分は薬を飲み、また睡眠へと誘われた。
「開始します。失敗は許されない。各員、覚悟して臨むように」
「はっ!」
数人が機械を動かす。ぴと、とチューブが身体に貼り付けられる。
「まずは人工魔力の除去から」
ゴオオオ、と機械が稼働する。ピ、ピ、と規則正しく鳴っている画面を見ながら看護師の一人が言う。
「人工魔力の一部が彼の魔力と融合していますね。人工魔力の出力機関が五分の一混ざっています」
「分かった。魔力分離プロセスを起動させろ」
「はっ!」
機械のパネルを操作すると、チューブが光って、またゴオオオ……と音を鳴らす。
「……かなり、骨の折れる作業だが。我々は失敗するわけにはいかない。各員、厳戒態勢のまま続けなさい」
その言葉通り、朝を示していた太陽の位置はすぐさま昼の位置になっていた。
それでも、緊張を解くことは許されない。 彼を失うことは、守護者を失う事と同等だとイシュリア王より、強く仰せつかっているからであった。
「人工魔力と既存魔力の分離、完了しました」
「人工魔力を全て除去。その後、既存魔力の除去に入る」
チューブがまた唸る。規則正しく鳴っているパネルを操作し、看護師が頷く。
「人工魔力。全て取り除きました」
「では、既存魔力の除去に入る」
……手術は、まだまだ長い。
「レテ君、大丈夫かなぁ……」
イシュリア様の私室にて、私はそう零した。
当のイシュリア様は、用事が積み重なっている、とのことで私室をお父さん……ラファさんと私に好きに使っていいと言って去っていった。
「……信じるしかない。ウチの息子を」
「そう、ですね」
テーブルの上には用意された最高級の昼食。
でも、それを食べる気にはなれない。椅子に座ったままぎゅっと手を握って、その拳を膝の上に置く。
察してくれたのか、お父さんは微笑む。
「……帰って来たときに、こっちが元気なきゃダメだよな。ご飯、食べよう」
「そう、ですね。……いただきます……」
メイドさんは部屋の外で待機してくれている。何かあれば、いつでも気軽にお呼びくださいと言って。
二人で昼食を食べる。美味しい、美味しいのに……。
「……なんでだろう、レテ君が心配だからかな……美味しいのに……」
「そうだな……。心配事があると、味が頭に入ってこないよな」
お父さんもそうらしい。二人で黙々と食事を終えると、メイドさんが下げていった。
「なぁ、シアちゃん。レテは学院ではどうなんだ?」
「どう……?」
話題転換をはかるように、お父さんは明るく言った。
「ああ。いっぱい友達に囲まれてるか?何かやらかしたか?なんでもいい、俺の知らない、シアちゃんが知っているレテを教えてほしい」
「……!はいっ!」
そうして、話し始めた。
レテ君は沢山の友達に囲まれて、好意的に接し、接されていること。
友達の特異能力に対して、訓練を施したこともあった。顕現系統の後輩に格の違いを見せたこと。
私にとっての日常は、お父さんにとっては新鮮だったようで。
時に笑い、時に驚き。詳しく話してほしいと言われた話題もあった。
「そうか、レテは愛されて過ごしているんだな!」
「はい!それは、とても!」
お父さんも話を聞いて、笑顔になった。
私達は、今貴方のおかげで笑えている。
だから、貴方にも私達の笑顔を見せたい。
そう思いながら、お父さんと雑談を続けた。
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