夢か現か
父さんと少し話をして、自分は部屋に戻る。
「すぅ……すぅ……」
シアは熟睡中で、自分が外に出たことに気づく様子は無かった。
ごろん、とベッドに転がると自分は考える。
(……魔力が、擬似的にとはいえ元に戻る。それは嬉しいことだ。
だが、同時に前世から付き合ってきた魔力を今度は全て手放す羽目になる。
……魔法が使えるかもわからないのに?)
ぐっと拳を握って、自分のお腹にそっと当てる。
ここにある魔力。身体を巡るもの。それが全て無くなる。
それでも、それでも自分は。
(……シアを、みんなを守れる道があるなら、それを選ぶ)
頭にそう浮かべながら、両手を広げて眠りへと入った。
ふと、夢を見た。
自分がどこに立っているのかは分からない。分かるのは、ここが夢だということだけ。
「ここは……イシュリア、か?」
周りを見渡すも、人の子ひとり居ない。世界に一人、取り残されたような感覚がする。
立ち止まっていても仕方がない。足を前に出して、歩き出す。
テクテク、テクテク。足音もしないまま、自分は周りを見渡して首を傾げる。
「イシュリアとはまた違うのか……?」
まぁ夢だしな、と思いつつ歩いていると城が見える。
城も蜃気楼のようなもので、そこにあるのはわかるけれどはっきりとした形はわからない。
それでもいい、と足を踏み入れる。
城内にも人は居らず、相変わらず詳しい内装は分からない。
階段を上り、二階に付くも何も変わったところはない。一階と相違ない。
ぼーっとしていると、ふと上から何かが聞こえた。
「誰かいるのか!?」
階段を飛ばし飛ばしで駆け上がると、一つの大きな扉を見つける。
「────……──、──」
「……」
ここか、と聞き耳を立てるも何もわからない。
中では会話が行われているようで、言葉が交わされている。
だがそれを聞き取ることが出来ない。
(ええい!夢なんだから!)
そうだ、これは夢なんだ。それを再確認して、扉を開ける。
そこには長身の男性が座る玉座があり、玉座の目の前に倒れた女性が一人いた。
「……!」
女性の元へ駆け寄ろうとするも、男性が首を横に振る。
「……お前がやったのか?」
夢だと分かっているのに。これは、自分の妄想なのに。
怒らずにはいられなかった。
その言葉に男は少し考えて、頷いた。
「……!お前ッ!」
飛びかかろうとする自分の前で、手が翳され……。
……ゴーン、ゴーン……。
「……夢、だよな?」
学院の鐘の音が鳴るのを聞いて飛び起きる。
冷や汗をかきつつ、自分は起き上がる。
「レテ君!おはよー!」
「シア……」
彼女はまた先に起きて、本を読んでいた。
「ありゃ?私の顔に何かついてる?」
「……いや、大丈夫。何もついてない。それよりも大事な話があるから、少し待っててくれるかな」
「えっ!?う、うん!」
シアの反応を尻目に、自分は冷水で顔をばしゃ、ばしゃと洗う。
服を着替えて戻ると、シアはこっちを見て床に座る。
自分も床に座ると、彼女が口を開く。
「それで、お話って何?」
「……簡単に伝える。最低五日間、学院を休んでイシュリア城で父さんと一緒に自分を見ていてほしい」
「えっ……えええっ!?なんで!?」
叫ぶ彼女に、説明をした。人工魔力のこと。
再手術のこと。それには、最低五日間部屋を空ける必要があること。
「そ、そうなの……?レテ君が、また元のように魔法が扱える可能性があるの?」
「……うん。あくまで、可能性。でも、自分はシアや皆を守れるならこの道を選びたい」
そう言うと、シアは少し考えて頷く。
「……わかった。君に付いていく。成功するように、祈ってる」
「ありがとう、シア」
感謝を述べると、ブレスレットを起動する。
「師ですか。おはようございます。この時間の連絡ということは……」
「シアの許可が取れた。……スイロウ先生への説明はどうすればいい?」
「ご心配なく。ジェンスから伝えさせますので」
言葉を交わした直後に、門が開かれる。
「行こう、シア」
彼女の手を握って、門に入った。
イシュリア城、手術部屋に繋がっていた。
「……ありがとう。そして、ごめんなさい。貴方の身体に、また負担をかけてしまって」
イシュリア様が、悲しそうに言う。
その言葉に、シアが反応する。
「……今度こそ、レテ君は魔法を使えるようになるんですよね?」
「ええ。理論上は」
「もし、失敗したり……合わなかったら……」
それを問われたイシュリア様は、目を見据えて正直に答えた。
「魔法は使えない。二度と」
「……そう、ですか」
アグラタムが近寄ってくると、シアの目線に合わせる。
「……そうならないよう、今回関わる人々一同覚悟を決めております」
「え、えっと……因みに覚悟って……?」
シアが困惑気味に問いかけると、イシュリア王がニッコリと微笑んで首に手を当て、シュッと切った。
「絶対にやめてくださいね!?」
それが、夢で見た光景と似ていて。
自分はつい叫んでしまった。
「ええ、そうならないように手を尽くすわ」
イシュリア王は、それでも微笑んでいた。
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