魔力機構
自分が風呂を上がり、部屋に戻ろうとするとリアーがシアに肩を貸しながら階段を登っていた。
「シア、どうしたんだ?」
「の、のぼせた……」
「今日、シアちゃんあっちこっち行って手助けしてたから疲れてたみたいで!」
納得である。孤児院の出身であるシアは年上と年下を繋ぐのは得意だろう。故に、張り切ってしまった。安易に想像できる。
「自分が代わるよ」
「ありがとう!ほらシアちゃん!愛しのレテ君の肩だよ!」
「うぅ〜……ありがとう〜……」
リアーの冗談にも反応する元気がない。これはベッドに入ったら即爆睡だな、と思いつつ段差を一つずつ上がっていく。
その最中に、風で声が届く。
(夜中、私の部屋に来て頂戴)
自分はリアーの方を見て頷くと、彼女も頷いた。
「それじゃ、また明日」
「うん!また明日!」
そう言ってリアーと部屋の前で別れると、シアを部屋の中に入れる。
「シア、ベッドに横になってていいよ?」
「うう、そうする……ありがとう、レテ君……おやすみ……なさい……」
限界を迎えていた彼女を上のベッドに押し上げると、スヤスヤと寝息が聞こえてくる。
余程疲れていたのだろう。これなら朝まで爆睡しているはずだ。
(さて、と)
かなり早いが、シアがよく眠れるように電気を消す。
その後魔力を練り、風の騎士を顕現させる。
(このぐらいなら出来るんだけど……命令がなあ)
歯がゆい思いをしながら騎士を消すと、時間が経つのを待った。
夜二十三時。学院生が寝静まった夜に自分は部屋を抜け出す。
リアーの部屋は女子部屋の端っこにある。そこまでそろり、そろりと歩いていき、到着すると風を吹かせる。
静かに扉が開くと、自分がそっと身体を滑り込ませる。そして、扉が音もなく閉められた。
「来てくれてありがとう、レテ君」
「私からも、感謝します。師よ」
防音結界が貼られた明るい部屋の中にはリアーとアグラタムの姿があった。
「アグラタムまで……どうしたんだ?」
「……人工魔力が馴染まないと聞きまして。あれは万人が扱える為に調整された魔力です。より正確に言うなら、万人が使える魔力を生成する機構です。それなのに師に合わないと」
なるほど、と考える。それと同時に、気になったことを聞く。
「魔力を生成する機構……ってことは、魔力が直に入っているわけじゃないのか?」
その言葉に二人は同時に頷く。
「ええ。これが貴方の成長を妨げている原因なのではないかと思って。
普通の人は人工魔力を入れられても、自分で練ることをしないわ。だって、魔力機構という装置が勝手に生み出す魔力を扱うだけだから。
でも、貴方は違う。人工魔力の機構を自分の魔力に混ぜようとしている。だから、魔法がうまく使えないのではないかと思って」
「最初に言ってくださいよ……」
バタリと倒れそうになる自分に対し、二人は謝罪してくる。
「ごめんなさいね。まさか、機構を自分の中に取り入れた後に馴染ませようとしていると思わなかったから」
「説明不足でした。抜いた魔力の分人工魔力を入れましたが、それが魔力を作ることを申し上げませんでした。申し訳ありません、師よ」
じゃあ、と試しに人工魔力から魔力を引き出そうとする。
すると、魔力がするりと出てくる感覚がした。
「アグラタム。結界を」
「はっ」
リアーの声に従ってアグラタムが結界を貼ると、自分は言葉を放つ。
「風の騎士よ」
そこには、人工魔力だけで生成された騎士が立っていた。
しかしすぐに消える。霧散した騎士を見ながら、考える。
「……恐らく、師の顕現は膨大かつ練りに練られた濃い魔力を元に発動させているのでしょう。人工魔力だけでは、量も濃さも足りていない……」
「そうなると、もう一手間加える必要があるかもしれないわね……」
何やら不穏な言葉が聞こえる。もう一手間?何を加えるんだ?
「何をするんです?」
「とても簡単な話よ。イシュリア城の手術室で、貴方用にチューニングした人工魔力を用意するの」
「……えっと、どうやって?」
そう問いかけると、リアーが真剣な顔で言う。
「この前貴方からもらった魔力、あるでしょう?」
「は、はい」
「あれに人工魔力の術式を組み合わせて、貴方専用の人工魔力を生み出すの。
ただ、一つ。明確なデメリットがあるわ」
そこで区切ると、アグラタムが言葉を引き継ぐ。
「前、師の魔力が溢れているという話はしましたと思います。
今回の人工魔力が合わないのは、師の元の魔力を半分削ったところで、質と量が合わなかったから。つまり、水と油を無理やり溶かそうとして魔法を使おうとしたからです。
そこで、師専用の人工魔力……師の魔力から、人工的に師の魔力を生み出そうという方法です」
「そう、だな?だとするとデメリットって?」
質問をすると、アグラタムはハッキリと答えた。
「簡単に言います。……師の魔力を、一滴残らず全て抜く必要があります」
「……えっ」
いや、確かにそうだろう。
人工魔力が魔力を生み出す機構というのなら、人工魔力に加えて、そこから生成された魔力という水を貯めるバケツが必要だ。
そこが溢れてしまえば、前の二の舞い。
だから、全部抜いて一旦空にする必要がある。
「魔力が全部無くなると……」
「……まぁ、動けないでしょうね。手術に一日、魔力機構が作動するのに二日、慣れるのに二日と、最低限見積もって五日間は動けないわ」
「ですよね……」
だが、この提案を断ることは出来ない。
なぜなら、魔力が前のように戻るかもしれないからだ。たとえ言霊を使ってでも、元の戦闘力が戻れば心強い。
一つ心配があるとすれば。
「……五日間も居なくなったら、流石にシアが何か気づくよな……」
「それに関しては手を打ってあります。アグラタム。門を」
「はっ!」
アグラタムが門を開くと、一人の男性が出てくる。
「……父さん」
「大変なんだってな。大方の事情は聞いているよ。
シアちゃんは、お前が戻るまで俺と一緒に城で待っていてもらう予定だ。ただ、本人の同意なしには連れていけない。明日の朝、聞いてみてくれ」
そう言って、父……ラファは微笑んだ。
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