距離の使い方
スイロウ先生のところへ歩いていくと、先生が予想通り、というように笑顔になる。
「レテ君が来たということはそういうことだな!戦闘するんだなぁ?」
「はい!」
そう言うと、スイロウ先生が結界を貼ってくれる。
近くで話していた人たちが続々とその結界の周りに集まってくる。
「あわ、あわわわ……!」
「大丈夫。まずは先輩と自分がお手本を見せるから」
先輩と目配せして頷いたのを確認してから下級生の子を宥める。
少し落ち着いただろうか。下級生の子がスイロウ先生の近くで見守るように立つと、自分は先輩と正反対に立つ。
「神童君って武術も出来るって聞いてるから楽しみ!」
「なんで上級生の方は血の気が多いんですか!?」
叫ぶと、スイロウ先生がニコニコとしながら鈴を取り出す。
自分は何も持っていない。先輩は木で出来た槍を持って構えている。
「それでは……はじめ!」
チリン、と鳴ると先輩が正面から突っ込んでくる。相当な速度だ。ましてや二学年の、普通の魔術学院の生徒がマトモに受けきれる技ではないだろう。だが……。
「闇の剣よ、ここに」
言霊を呟いて闇の剣を顕現させると、先輩の突きを交わして後ろから斬りかかろうとする。
「っ!」
先輩がその勢いで反転し、後ろに飛んで距離を取る。その方向を目指して、闇の剣を投擲する。
先輩は見てから、横に避ける。その間に自分はまた闇の剣を持って距離を詰める。
「ふっ!」
実体がない。したがって、当たっても痛くもない。だから、振るわれた剣にはなんの効果もない。
しかし本能が許してくれない。先輩はまた距離を取る。
「……すごい……」
下級生の子の呟きが聞こえる。ただ賞賛している声だ。
「神童君って闇も得意なの!?」
「一応全属性使えますね」
「ねぇそれは反則じゃ……ないっ!?」
そう言って水を纏わせた短い、刃の折れた短剣が飛んでくる。
(……なるほど、水の付与系統)
飛んできた得物を避けながら、自分は言う。
「それじゃあ魔術師の連携、いきますよー!」
「……えっ、先輩……?」
下級生から戸惑いの声が聞こえるが、目の前の先輩は槍を一層強く握り、構えた。
自分はまた言霊の魔力を借りて、人工魔力を馴染ませる。
「弓を持つ風の騎士よ。適切な援護射撃をせよ」
一人の風の騎士が生まれると、先輩が突っ込んでくる。
自分は一回り大きい闇の剣で、回し切りを仕掛ける。
「っ!!」
先輩はやはり避ける。そこに、騎士から矢が飛んでくる。
「うわっ!?」
「まだまだっ!」
自分は闇の剣で迫る。迎撃しようとする先輩の顔に、闇の剣を押し当てて自分は横にスライドする。
先輩の視界は今真っ黒の状態。内心、ごめんなさいと思いながら拳を腹に叩き込む。
「ぐえっ!?」
「本当にごめんなさい!」
先輩はふらつきながらも、やはり距離を取る。そこを狙って、騎士は矢を放ち続ける。
「うげーっ!?」
先輩は闇を取り除くように強引に闇に水を付与させてベリッと剥がすも、そこには矢の雨。
慌てて横に飛び込む先輩に対し、自分はやはり近づいて闇の剣を出す。
「ちょっ!ギブギブ!無理無理!」
「……お腹、申し訳ないです」
騎士を消して謝ると、先輩はにこやかに笑う。
「いや!気にしなくていいよ!拳使う子とかは結構腹ぶん殴ってくるし、何なら属性付与して手加減なしに殴ってくる子もいるから!それに比べたらまだ神童君の拳は可愛いものだよ!」
「……タフなんですね……」
ぼーっと見ていた下級生の子が、慌てて近づいてくる。
「お、お二人ともすごいです……!僕も、戦えるようになりますか?」
「勿論。じゃあ闇で何か武器を顕現させて」
そう言うと、下級生の子は闇の短剣を二つ生み出した。
「さっき見てもらったように、先輩でも本能に打ち勝つことはできない。だから痛くない、何もないと分かっていても避けてしまうんだ」
「そうだねー。実際、かなり槍の適正距離から離されたし」
ウンウンと頷く先輩に、自分は加えて言う。
「この適正距離が自分のものであればあるほど、実力差があってもひっくり返せる。それに加えて、魔術師の援護なら自分で攻撃しなくてもいい。ただ、魔法が飛ばしやすいように相手を誘導するんだ」
「相手を、誘導……」
「答えになったかな?」
真剣に聞いてくれていた下級生の子に対して、問いかけると首が縦に動く。
「はい!一生懸命練習してみます!」
「さっすが神童君!アドバイスまで一流?」
「いや、そこまで誇張しなくても……」
笑いながら、結界を解いてもらいにスイロウ先生の元へと向かった。
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