学院交流、二学年
朝ごはんを食べに食堂に二人で降りると、何やら上級生の皆さんが浮かれていた。
自分はそれに首を傾げながら、トレイを取る。
席に座ると、黙々と食べ始める。シアも同じく、手を合わせて食べ始めた。
「よっ!神童!」
「……んぐ、はい、何でしょう?」
後ろから唐突に話しかけられて、食べていた米を飲み込むと返事をする。
後ろに居たのは知らない先輩で、ニコニコとしながら立っている。
「今年もやってきたからさ!この時期が!去年派手に暴れていたし、今年はどうなのかなと思って!」
「……え、ええっと?」
何か派手にやらかしたっけ、と考えていると隣で食べていたシアが、あっ!と声を出す。
「学院交流だよ!レテ君!」
「あ、そういえばそんな時期か!」
去年は確かに大暴れしたんだった、とナイダとの手合わせを思い出して頷く。
それを見た先輩も、笑顔で話を続けてくる。
「今年も大暴れ、期待してるぜ!」
「いや、交流って魔法と武術が交わることじゃないですからね!?話し合いからですからね!?」
ツッコミを入れると、先輩は笑いながら席に戻って行った。
はぁ、とため息を付くと遠くから視線を感じる。
(……ネイビアか)
彼に視線を向けると、どこかバツが悪そうにそっぽを向いてしまう。
彼を支えていた柱は、昨日折れた。それも、形も残らないほど粉々に。
シアも自覚はしているのか、一瞬目を伏せるも、顔を上げる。
「……ネイビアには、申し訳ないことしたなって。慕ってくれていたのに悪いことをしたな、とは思ってる。でもこれは私が選んだ道。それがネイビアとは交わらなかっただけ」
「……そっか」
そう言うと、二人でご飯を食べ終えてトレイを下げ、教室へと向かった。
授業開始の前にスイロウ先生がニコニコとした顔で言う。
「みんなはもう知ってるかもしれないが一応連絡だぁ!今年も学院交流をするぞぉ!
……まぁ、去年より時期が早まったのは魔物の通告が出たからだなぁ!交流も頻繁にする予定だから、去年一回しかなかったのが異常だと思ってくれればいいぞぉ!」
去年は十二月の初め。今は十一月の初めだから、一ヶ月早まったことになる。
「それじゃあ次の時間にグラウンドで集合だからよろしくなぁ!」
「えっ!?そんなに早いんですか!?」
「うむ!早いんだぁ!」
ミトロが驚きのあまりに質問すると、スイロウ先生は笑って答える。
これを見て、皆は確信する。
(……これ、言い忘れてたやつだ……)
「うぉっほん!まぁ言いたいことは分かるが、授業を始めるぞぉ!」
自覚アリか、と思いながらノートを開いた。
一時限目の終わりの鐘の音が響くと、急いで皆でグラウンドへと移動する。
他の学年の人たちもぞろぞろと並び始め、しばらくして二時限目を開始する音が鳴った。
「これから学院交流を始めます!今年から魔物の対処が組み込まれたため、お互いの戦法をよく知っておくように!また、戦闘を行う際は一言先生に声をかけなさい!以上!開始!」
そう言って開始された学院交流。上級生は慣れた感じで、下級生を誘導している。
「私達も行こっか!」
「……ファレスに同意」
二人が駆け出して行くと、それを切っ掛けにSクラスの皆も散らばっていく。シアも自分から離れて、下級生と上級生の橋渡し役をしにいった。
さて、どうしようかと思っていると武術学院の上級生の人が自分のところに一人の下級生を連れてくる。
「こんにちは!神童君、今大丈夫?」
「ししし、神童……さん……!?」
明らかに下級生の男の子が混乱している。苦笑しながら、自分は答える。
「あはは……大丈夫ですよ。はじめまして。自分はレテって言うんだ。どうかしたのかな?」
「あ……僕、その、えっと……」
「大丈夫、ゆっくりでいいよ!神童君は待っててくれるから!」
先輩が促すと、下級生の子は息を吸って吐いて、丁寧に言葉を述べる。
「……僕、武術学院に入ったんですけど、魔術のことさっぱりで……。先輩に、魔術に長けた人を一緒に探してほしいって言ったら、神童さんのところに……」
「そういう場合もっと上級生の人に持っていくんじゃないですかね!?」
「いやぁ、上級生すぎると緊張しすぎて何聞いていいかわからなくなりそうだったからさ!」
それはごもっともだ。だが同時に神童と呼ばれている自分を前にしてガタガタ震えている下級生の子のことももう少し考えてあげてほしい。
「それで、魔術の何が知りたいのかな?」
「えっと、魔術学院の人の戦い方とか、逆に武術学院……接近戦の人にカバーしてほしいこととか……教えてほしくって……」
ふむ、と頷くと少し考える。
魔術学院の戦い方……魔法を使う戦い方と接近戦に長けた武術学院にカバーしてほしいところ。それを答えるには一つ質問しなくてはいけない。
「君、得意な属性と系統は?」
「……えっと、闇の……顕現です……」
少し答えづらそうにするも、答えてくれた。上級生の人も「へえー!珍しい!」と言っている。自分もそれに同意だ
「珍しい組み合わせだね」
「や、やっぱり……何もできませんか?」
「いや?できる事は沢山あると思うよ」
「ほっ、本当ですか!?」
目を背けていた彼が一転してキラキラした目を向けてくる。期待に応えなくては。
「そうだね。闇の顕現系統であれば得意な武器を生み出して、敵を殴る前衛役だ。
ただ、知っていると思うけれど闇ってものは実体が無い。だから、基本的に虚仮威しに使うんだ」
「虚仮威しに……?」
返されると、自分は頷いて手を横に出す。
「闇の剣よ。ここに」
そう言うと、漆黒の剣が生み出される。
「わ、すごい……!」
「見た目はすごいでしょ?これ。威力はないんだ。触っても何も起こらないし、無機物相手なら何も起きない。
でも、魔物や人間は違う。闇は基本的に怖いもので、近寄りたくないっていう潜在意識がある。魔法を行使する人を前で守る、というより敵との間合いを適切に保つことができるのが君の強みだ」
「間合いを……適切に……」
「そう。適切な間合いを保てる。これが武術を扱う人にとってどれだけメリットになるかは君も知っているはずだ」
そう言うと、上級生の人がウンウン、と頷く。
「ぼっ、僕でもできますか!」
「できるよ。先生に言って、練習しに行こうか?」
「……!いいんですか!?」
勿論、と頷くと上級生の人もハイハイ!と手を上げる。
「私も私も!混ざっていいかな?」
「大丈夫ですよ。じゃあ先生に許可を取りに行きましょう」
そう言って三人で歩き出した。
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