アステスの感謝
休日。目を覚ますと、シアは既に読書をしていた。
「おはよう、レテ君」
「おはよう、シア。最近早いね」
身体を起こすと、シアが苦笑しながら返してくる。
「なんか、目が覚めちゃうんだよね。それにレテ君の寝顔見れるなら良いかなって」
「……そ、そっか……」
照れてしまう。好きな人に寝顔を観察されるのは、慣れない。
シアが読書に戻ると、自分は素早く顔を洗って着替える。
そうして、魔力をまた練り始める。
「最近そればっかりだね?」
「そりゃそうだよ。魔力のせいで魔法を使えなくなってるんだから」
風の球を作り、消す。人工魔力が馴染んでいくのを感じる。
暫くしたあと、起床の鐘の音が鳴る。そのタイミングで自分は魔力を馴染ませるのを終わらせ、シアも本に栞を挟む。
「じゃあ行こう!今日は何かなー!」
「はは……なんだろうな」
元気に笑うシア。それに釣られて、自分も笑いながら部屋から出た。
今日のご飯は白米と味噌汁。サラダにデザートでプリンだった。
二人でそれぞれトレイを持って座ると、横に寝ぼけ眼のダイナが起きてきた。
「ふぁぁ……おはよう……」
「ダイナがそんなふうになるの珍しいな」
「そうかな……ふぁぁ……」
ダイナが珍しく眠そうだ。昨日のスイロウ先生との鍛錬が響いたのだろうか。
欠伸が止まらない口に左手を当てながら、右にいるショウに身体が傾いている。
「ショウ君ならいつもそんな感じだもんね」
「ちょっと待て!俺がいつも眠そうみたいじゃんか!」
「違うの?」
「違わないけど!」
ケラケラと笑うシアに、脱力するショウ。
そんな二人を見ていると、他のクラスメイトも集まってきた。
「……?ダイナ君滅茶苦茶眠そうだけど……」
「スイロウ先生との鍛錬が響いたのでしょう」
「昨日派手にやったもんねー!」
「うんうん!ショウ君が介助してる側なの初めて見たかも!」
「おいファレス!酷くないか!?同じようなことシアにも言われたぞ!」
概ねクラスメイトで意見が一致したところで、皆がトレイを持ってくるのを待って食べる。
「いただきます!」
そう言って皆で食べる。
美味い。やはりオバチャンのご飯は最高だ。
黙々と食べ続けると、ショウが一番早く、一番遅いのは寝ぼけ眼のダイナだった。
「ご馳走様でした!」
「ご馳走様〜……ごめん、二度寝する……」
「おー!じゃあ部屋まで送るから、ちょっと誰かトレイ頼むわ!」
ダイナがそんなに疲れているのが心配ではあるが、そこは同室のショウが何とかするだろう。
ということで、自分がトレイを三つ重ねて持っていく。皆でオバチャンに礼を言いながら、自分はふと何か視線を感じる。
外だ。その視線はこっちに、とでも言うように武術学院に向かっていった。
「たまには身体を動かしてくるよ。武術学院まで行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
シアや皆に見送られて武術学院に向かう。
その道の途中で、予想通りの人が出てくる。
「良かった。気づいてもらえて」
「……まぁ、薄々気づいていたよ。それで、なんの用かな、ナイダ」
銀髪を靡かせる少女は、無表情のまま言う。
「……魔法が使えなくなったって、本当?」
「本当。事実だよ」
「そっか……。っと、それは確認したかっただけ。ちょっとこっち来て」
そう言われて校舎の中まで連れて行かれると、そこにはアステスがいた。
「アステスさん?」
「私が無理言って、ナイダ先輩に連れてきてって頼んだんです」
ペコリと頭を下げるアステスに対して、ナイダはふるふると首を横に振る。
「一応話は聞いたから。気持ちはわかる」
「話……?」
問いかけると、無言で頷いて校舎裏まで三人で歩いていく。
そこで防音結界をナイダが貼る。
「おぉ、防音結界」
「これぐらいだったら貼れる。……さ、アステス。誰か来ないうちに」
そう言うと、アステスは覚悟を決めたような顔で言う。
「……単刀直入に聞きます。
私をラクザで救ってくれた、光のフード。それはレテ先輩、貴方ですか」
確かな確信を持った目だ。その視線を正面から受け止めると、自分は静かに頷く。
「……やっぱり、そうなんですね」
「……ごめん。君の両親を救えなかった」
心からの謝罪をする。それに対して、アステスは首を横に振る。
「……両親は、影に襲われていた家から私を逃がすために犠牲になりました。
レテ先輩が来てくれたのは、その後、影に襲われそうになったところです。
……凄かったです。何人もの影を打ち払い、そのまま沢山の人を救っていった……。
……私は、そんな光の人に憧れを抱きました。あんな人になりたいと。強く、人を護れる力が欲しいと」
それを黙って聞いていると、アステスが続けて言う。
「……だから、ありがとうって伝えたかったんです。全ての人を救えなくても、貴方に救われた人は、全員感謝しています。
誰も貴方を責めていません。皆が、救ってくれてありがとうと、そう伝えたがっていました」
「……ッ!」
その言葉で、自分は涙を出す。
ボロボロと、涙が止まらない。
「自分、は、もっと救えた……はずなのに……」
「……それはエゴです。事実、ラクザの幼き兵士の皆さんや軍の皆さん。そしてアグラタム様とレテ先輩が束になっても無理だった。
だから、せめて。救われた命から、礼を言わせてください」
そう言って、アステスは微笑んだ。ナイダも、無表情ながらも泣いている自分の手を握ってくれた。
自分は、ただただ、泣きながら、一言だけ絞り出した。
「……生きてくれていて、ありがとう……!」
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