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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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アステスの感謝

休日。目を覚ますと、シアは既に読書をしていた。


「おはよう、レテ君」

「おはよう、シア。最近早いね」


身体を起こすと、シアが苦笑しながら返してくる。


「なんか、目が覚めちゃうんだよね。それにレテ君の寝顔見れるなら良いかなって」

「……そ、そっか……」


照れてしまう。好きな人に寝顔を観察されるのは、慣れない。

シアが読書に戻ると、自分は素早く顔を洗って着替える。

そうして、魔力をまた練り始める。


「最近そればっかりだね?」

「そりゃそうだよ。魔力のせいで魔法を使えなくなってるんだから」


風の球を作り、消す。人工魔力が馴染んでいくのを感じる。

暫くしたあと、起床の鐘の音が鳴る。そのタイミングで自分は魔力を馴染ませるのを終わらせ、シアも本に栞を挟む。


「じゃあ行こう!今日は何かなー!」

「はは……なんだろうな」


元気に笑うシア。それに釣られて、自分も笑いながら部屋から出た。


今日のご飯は白米と味噌汁。サラダにデザートでプリンだった。

二人でそれぞれトレイを持って座ると、横に寝ぼけ眼のダイナが起きてきた。


「ふぁぁ……おはよう……」

「ダイナがそんなふうになるの珍しいな」

「そうかな……ふぁぁ……」


ダイナが珍しく眠そうだ。昨日のスイロウ先生との鍛錬が響いたのだろうか。

欠伸が止まらない口に左手を当てながら、右にいるショウに身体が傾いている。


「ショウ君ならいつもそんな感じだもんね」

「ちょっと待て!俺がいつも眠そうみたいじゃんか!」

「違うの?」

「違わないけど!」


ケラケラと笑うシアに、脱力するショウ。

そんな二人を見ていると、他のクラスメイトも集まってきた。


「……?ダイナ君滅茶苦茶眠そうだけど……」

「スイロウ先生との鍛錬が響いたのでしょう」

「昨日派手にやったもんねー!」

「うんうん!ショウ君が介助してる側なの初めて見たかも!」

「おいファレス!酷くないか!?同じようなことシアにも言われたぞ!」


概ねクラスメイトで意見が一致したところで、皆がトレイを持ってくるのを待って食べる。 


「いただきます!」


そう言って皆で食べる。

美味い。やはりオバチャンのご飯は最高だ。

黙々と食べ続けると、ショウが一番早く、一番遅いのは寝ぼけ眼のダイナだった。


「ご馳走様でした!」

「ご馳走様〜……ごめん、二度寝する……」

「おー!じゃあ部屋まで送るから、ちょっと誰かトレイ頼むわ!」


ダイナがそんなに疲れているのが心配ではあるが、そこは同室のショウが何とかするだろう。

ということで、自分がトレイを三つ重ねて持っていく。皆でオバチャンに礼を言いながら、自分はふと何か視線を感じる。

外だ。その視線はこっちに、とでも言うように武術学院に向かっていった。


「たまには身体を動かしてくるよ。武術学院まで行ってくる」

「行ってらっしゃい!」


シアや皆に見送られて武術学院に向かう。

その道の途中で、予想通りの人が出てくる。


「良かった。気づいてもらえて」

「……まぁ、薄々気づいていたよ。それで、なんの用かな、ナイダ」


銀髪を靡かせる少女は、無表情のまま言う。


「……魔法が使えなくなったって、本当?」

「本当。事実だよ」

「そっか……。っと、それは確認したかっただけ。ちょっとこっち来て」


そう言われて校舎の中まで連れて行かれると、そこにはアステスがいた。


「アステスさん?」

「私が無理言って、ナイダ先輩に連れてきてって頼んだんです」


ペコリと頭を下げるアステスに対して、ナイダはふるふると首を横に振る。


「一応話は聞いたから。気持ちはわかる」

「話……?」


問いかけると、無言で頷いて校舎裏まで三人で歩いていく。

そこで防音結界をナイダが貼る。


「おぉ、防音結界」

「これぐらいだったら貼れる。……さ、アステス。誰か来ないうちに」


そう言うと、アステスは覚悟を決めたような顔で言う。


「……単刀直入に聞きます。

私をラクザで救ってくれた、光のフード。それはレテ先輩、貴方ですか」


確かな確信を持った目だ。その視線を正面から受け止めると、自分は静かに頷く。


「……やっぱり、そうなんですね」

「……ごめん。君の両親を救えなかった」


心からの謝罪をする。それに対して、アステスは首を横に振る。


「……両親は、影に襲われていた家から私を逃がすために犠牲になりました。

レテ先輩が来てくれたのは、その後、影に襲われそうになったところです。

……凄かったです。何人もの影を打ち払い、そのまま沢山の人を救っていった……。

……私は、そんな光の人に憧れを抱きました。あんな人になりたいと。強く、人を護れる力が欲しいと」


それを黙って聞いていると、アステスが続けて言う。


「……だから、ありがとうって伝えたかったんです。全ての人を救えなくても、貴方に救われた人は、全員感謝しています。

誰も貴方を責めていません。皆が、救ってくれてありがとうと、そう伝えたがっていました」

「……ッ!」


その言葉で、自分は涙を出す。

ボロボロと、涙が止まらない。


「自分、は、もっと救えた……はずなのに……」

「……それはエゴです。事実、ラクザの幼き兵士の皆さんや軍の皆さん。そしてアグラタム様とレテ先輩が束になっても無理だった。

だから、せめて。救われた命から、礼を言わせてください」


そう言って、アステスは微笑んだ。ナイダも、無表情ながらも泣いている自分の手を握ってくれた。


自分は、ただただ、泣きながら、一言だけ絞り出した。


「……生きてくれていて、ありがとう……!」


毎日19時に投稿を心がけて頑張っています!

面白い!続きが気になる!という方は明日も読みに来てくれると嬉しいです!

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