荘厳な鐘の音の世界
ゴーン、ゴーンと壮大な鐘が世界に響き渡る。
何を知らせているのか、そもそも意味があるのか。それを知るのはこの世界を統治する『神』ぐらいであろう。
世界は神により統治され、神の恵みにより発展してきた。
その神の前に、一人の純白な衣装を全身に纏った女性が恭しく礼をし、籠を差し出す。
「神様、今日の供物となります」
「……」
フン、と息を吐いて供物を受け取ったのは男であった。
神様と呼ばれた男は赤く熟した果実を一つ手に取ると、それを無造作に齧る。
ポリ、ポリ……。熟した見た目からは考えられない、固い音が彼から響く。
暫しその音が空間を支配した後、彼は言葉を投げる。
「……ステラはどうなっている?」
その質問に対して、彼女は礼を崩さずに答える。
「今の所は変な動きはしていないかと」
「……フン。そうか。下がれ」
「ハッ」
下がれと言われた女性は立ち上がるともう一度深く礼をして、その場から去っていく。
神が一人になった空間で、彼は手を伸ばす。
次に取ったのは、黄色い果実であった。
シャク、シャク。こちらは小気味いい音を鳴らして口の中へと溶けていく。
「……ステラめ。忌々しい奴よ」
「あら。高い評価ありがとう」
いつの間にか横にいた少女に対して、神は顔も目も向けなかった。
ただ、気に入らないという顔をしながら果実を食べ続ける。
「お前をいっそここで始末してしまえば、その戯言は聴かずとも済むか?」
「始末してもいいのよ?貴方がそれでいいなら」
「……」
神はそれに対して、更に不快感を示す顔をしながら果実を食べる。
ステラを始末すれば、新しいステラが産まれるだけ。
寧ろ居場所がわかる今の方が、聞くに耐えない戯言を聞かされていてもマシだった。
「……まさか神に仕える巫女が裏切るとはな。どういう心境だ?」
「私は裏切ってなどいないわよ?
ただ、この世界の『明日』に興味があるだけで」
「それを裏切ったというのだ。
この世界の人に必要なのは『今日』だ。不確定な事象を取り入れる必要など存在しない」
「分からないわね。そんなに衰退していくだけの世界に興味がある?」
「世界に興味はない。俺が俺であるための証明は『今日』でいい」
「世界に興味がないのに自分を見てくれるのは世界だけって話?笑っちゃうわね」
お互いのトゲのある煽り合いに空間にばちり、と閃光が走る。
しかし直ぐに収まり、神が言う。
「もう一度問おう。
お前が死に、この世界に転生しなければ例の異界から手を引こう。
お前のエゴで世界を一つ潰すつもりか?その潰された世界に『明日』はないぞ?」
「答えはいいえ、よ。あの異界ほど恵まれた明日はないわ。
『今日』で止まっているこの世界に、負けるはずがない。なら、私は両方の世界が明日に進む可能性に賭けるわ」
「……全く、相容れないものだ。そもそも、お前が俺を殺そうとしないのも分からない」
「……殺せるわけ、ないでしょう」
ステラが本当に、心の底から吐露するように。泣くように言う。
「私は貴方に勝てない。それに……」
「……余計な情が邪魔をしたな。巫女ともあろう存在が」
「貴方だってそうでしょう?
ステラを、私をいちいち殺すのが面倒だ、なんだと言いながら実際には一度も殺してない。それこそ、情ではなくて?」
「……隣に縛り付けておいたほうが楽なだけだ」
「まったく、素直じゃない人」
そう言うと、ステラが姿を消す。
神は気にせず、果実にも手を伸ばさず、手を無造作に振った。
そうして、またゴーン、ゴーンと鐘が世界に鳴った。
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