外
『外』に出るのは久しぶりだ。アグラタムはそう思いながら、手入れのされていない草木が生い茂る地を歩いていた。
イシュリアの結界の外は、良く言えば豊かな、悪く言えば放置された土地である。
それもそうだ。外にある街や村以外で、魔物蔓延る中、態々荒れ果てた草木の手入れをしようだなんていう物好きは居ない。
ざくり、ざくりと音を鳴らしながら足を進めていくと、周りからがさりという音がする。
「ふっ!」
アグラタムが風の刃を瞬時に飛ばせば、隠れていた魔物が絶命する。
それを気にすることもなく、放置してまた進み始めた。
それから数十分。どれぐらい歩いたかわからないが、小さな街を見つけた。
街へと入ろうとすると、衛兵が止める。
「おい。何者だ?」
「……これで、どうか」
そう言って魔物の皮を渡す。ノボリビで狩った魔物の一部だ。
「……騒ぎは起こすなよ」
「ええ。承知しています」
『外』では、こういったやり取りが普通だった。
『中』から来た人が入りたければ、袖の下を渡す。特に、アグラタムという守護者なら尚更だ。名前を出すだけで追い払われる可能性すらある。
中に入ると、そのまま酒場を目指して進む。
ここか、と一つの店の前で立ち止まると扉を開ける。
「らっしゃい!何人だ!」
「一人」
「あい一人ね!適当なところ座ってくれ!」
そう言われたので空いているテーブル席に座ると、途端にガラの悪そうな男に絡まれる。
「おい、この辺じゃ見ねえ顔だな?誰だテメェ」
「ふむ。関係無いと思うのですが」
「……ケッ、『中』からのやつか。お前、何に嫌気がさしたんだ?」
そう問われたので、首を横に振ろうとして止める。
ここで横に振れば、情報を得るのがかなり難しくなるだろう。イシュリア皇国からの内通者だと思われたら最後、この街から蹴り飛ばされるのがオチだ。
「ああ、この前の影の一件ですよ。私も襲われたのでね」
「あぁ……なるほどな。同情するぜ」
タルタロスの一件を出して、上手く誘導する。人相の悪い男は一転して、同情してドカッと隣に座る。
「マスター!俺とコイツにビール一杯ずつだ!俺の奢りでいい!」
「あいわかった!」
『外』だからと言って、人情が無いわけではない。
寧ろ『イシュリア皇国』という共通の敵のような存在がいる以上、その結束力は硬い。
「んで、兄ちゃんはどうするつもりだよ。ここは『中』に近いぜ?暮らすには良いかもだが、いつ襲われるかもわからねえ」
届いた樽ジョッキのビールを飲み干した男が問いかけてくる。私もグイッと一気飲みをして、それに答える。
「最近魔物が増えているようなので、増えた地域で狩りでもしようかなと」
「へぇ。腕っ節に自慢があるのかい?……ま、そうだよな。じゃなきゃ『外』なんてこねえ。
そういや魔物が増えたな。それもここ最近だ」
もう一杯!と男が頼むと、その情報を得るべく聞いてみる。
「おや、そうなのですか。ちなみに、具体的な場所を聞いても?」
「あ?あぁ、狩りか。そうだな……ここからずーっと東に行ったところにまた街があったんだが、やられたらしい」
「なんと……」
祈るように手を捧げると、男も黙祷をする。
そして届いた樽ジョッキをお互いに持って、豪快に鳴らす。
グイッ、グイッと一気に飲む。
「アーッ!いいねぇ!兄ちゃん、結構中では優しかった部類か!」
「結構言われていましたよ」
「だよなぁ!じゃなきゃ黙祷なんて出来ねえ!
……っとそうだ。その街だがな。何やら生き残りによると、何かが変だったらしいぜ」
「変……?」
首を傾げながら問いかけると、男は魔物の乾燥肉片手に頷く。
「あぁ、何だか普段と様子がおかしかったらしい。何人か生き残りがこっちに来たから、聞いてみるのもいいかもしれねえぜ」
「それは大変助かります。では、私からも一杯頼みましょう。マスター!ビール追加で!」
「へっ!兄ちゃん酒好きだな!そうでなくっちゃなぁ!」
そう言って、二人でゴクゴクとビールを飲み、乾燥肉を片手に語り合う。
一時間後、酔い潰れた男を尻目にマスターに話しかける。
「お代だ」
そう言って金貨を渡すと、頷かれる。
「ああ!確かにもらったぜ!後はそこのバカに請求するから兄ちゃんは気にすんな!」
「ええ。また来ます」
「おうよ!」
そう言って、アグラタムは酒場を出た。
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