日常の風景
「いやぁ、レテお前ホントすごいな……」
対抗戦が終わり、教室に戻るとクロウを皮切りに皆が次々に褒めてくる。
凄かった。どうやったのか。そこまで強いとは思っていなかった。皆がそういう中、
教えられることがあれば教えて欲しい。と言ったのは誰だったか。
「……教えて欲しい、か」
「はい。特に結界に干渉するなんて事どうやったら出来るのかを知りたい……レテ君?」
どうやら言ったのはミトロだったようだ。後ろでは興味深々になりすぎてコケそうになり、慌てているショウという生徒をダイナがのんびりと、風で支えていた。
「そう、それ聞きたいんだ!けど……どうかしたのか?」
支えられながら変な姿勢で聞いてくる彼に少しクスっとなりながらも思い出にふける。
(そうやってアイツも無理矢理志願してきたんだよな)
自分が転生する前。身体が動かない時代の記憶を思い出しながら、同時に頭を働かせて声を出す。
「いや、結界に干渉したのはただ魔力の量と質を昔から高める方法を知っていたからで、そこからは顕現系統を使って工夫した感じだ。だから自分が教えられるのは前者だけ、かな」
「おぉ!レテ君は一年生でやる内容を既に先取りしていたのだなぁ!こりゃあなかなか楽しみなクラスになりそうだぁ!」
スイロウ先生も嬉しそうに会話に混ざってくる。
そんな話をしていると、ぐぅ、とどこからか腹の虫の音が聞こえた。
「……な、なんで皆私を見るのかな?」
「いやだって、シアちゃんから聞こえたんだもん」
「……うん。お腹は空いてるけど、お腹が鳴ったのは多分シアだけ」
少し後ずさりしながらそっぽを向くシアと、突っ込むファレスとフォレスの姉妹。
その漫才じみたやり取りを聞きながら歩くと、次々と皆が笑いだし、最後にはシアまで笑い出す。
「よ!さっきぶりだな、顕現の神童」
食堂に辿り着くと、二年生のSクラスと見られる人々の中から先程戦った代表の人が出てきた。どうやら自分のウワサをしていたようで、二年生どころか食堂中から視線を向けられる。
「……え、えっと?顕現の神童って?」
とりあえず自分に付けられたであろう二つ名から突っ込むことにした。いつの間にそんなものが広まっていたのか。
「皆があの様子を見ていてな、これでも自信はあったがあれにゃ手も足も出ない。そこに上の先輩方も混ざって話したら、もしあんたが開幕からあの風の騎士を顕現させたり、結界から魔力を得て自分に結界を貼ったりされちゃあ勝てるか分からない。だから十四歳で首席、更には戦闘まで一流と来たアンタには顕現の神童って呼び名が似合うんじゃないかってな」
今この場で広まっていたのか。なるほど、何だか照れくさい。自分にあった呼び名といえば、もっぱら師だったから。一人しか呼んでいないが。
「神童……まぁ、努力をしましたが確かに自分に才能や魔力について知識があったのは否定しませんよ」
「そうだよ。俺たちが習うような知識に底なしの魔力、顕現系統の使い方……むしろ教えて欲しいくらいだ、はっは!」
次々に褒められる中、パンパン、と先生方が手を叩いて止める。
「ほーら!あんまり困らせないの!それよりも皆お腹空いたんだから食堂に来たんでしょ!今日は寮のおばちゃんも来てちょっと豪華なやつが食べられるからそこで腹を膨らませてから話しなさいな!」
ふっ、と笑みを浮かべながら平和な日常とはいいものだな、と再認識する。
食べながらナンパのように一年生の子たちに声をかける先輩がいたり、魔法の考察について聞いてきて先生にそれはきちんと習うわよ、と宥められる生徒がいたり。
(……この何気ないイシュリアの日常を護る、その為にお前は自分に頭を下げたのだな。アグラタム)
遥か遠く、城にいる彼に思いを馳せながらご飯を食べる。
「やっぱりお肉美味しいね!」
「お!流石に神童と言えどお肉には勝てないか!オバチャン!自分の分の肉、この子にあげてくれ!」
「あ!そしたら私も神童君にあげる!」
「え?いや、え、あ、ちょっ……」
先輩方から可愛がられ、一転してオドオドする自分に再び場が笑い出す。
胸の奥で、温かな気持ちが浮かんでいた。
無意識だった。気づいたのは既に体験したシアだけだった。
一瞬だけその情愛に気が緩み、『慈愛の盾』を出してしまう。ハッとして無意識に出たそれを慌てて消し、どこか惚けた皆に「ほらー!先輩方がいっぱいくれるから護られる盾が顕現しちゃったじゃないですかー!」と誤魔化し、笑いを取る。
しかし、シアだけは知っていた。いや、確信した。
(あの盾、一瞬だけ見えたあの盾からあの朝に経験した温かな感情が伝わってきた。咄嗟に誤魔化していたけれど……間違いない、あれは顕現系統の魔法じゃない。あれはレテ君の『特異能力』……!寂しがっていた私を、あの能力で動かした?彼の行動、朝起きた時のお母さんのように優しい表情。……彼は、愛を司る能力を、持っている?)
そう思うと、尊敬の念と同時に少し頬が染まる。
わちゃわちゃする彼の周りに紛れ、そっと耳打ちをする。
「勝手な思い込みだけど……私が寂しいって思ったからその能力を使ってくれたのなら、君は優しくて……うん、良い人だなって思うよ」
その瞬間、彼の驚いた顔が振り向く。少し下を向いた後、「それでシアが安心してくれるなら」と小声で伝えてくれた。
「おっ!?同室で男女、一年生から既に何かあったか!?」
「えーっ!なになに?一目惚れ!?」
「い、いやっ!違いますっ!ほんとうに違うんですー!」
慌てて詰め寄られるシアに、微笑みを浮かべながら野菜に手を出す。
「ほらほら、カッコイイところ魅せられて惚れちゃったとか?」
「だから違うんですってば先輩方ー!もー!レテ君からも何か言ってよ!」
「自分に振ってどうするんだよ、シア……」
飛び火した。しばらく収まらなさそうなのでとりあえず有難くお肉を頂きながら、論点をずらそうと先輩方の恋愛事情にも突っ込んでみる。
子供達は恋バナに飢えている。
そう思いながら先生たちも微笑みながら見ていた。
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