言霊と顕現
むっちゃ遅くなりまして、申し訳ないです
次の日のスイロウ先生の座学の時間。教科は歴史。
「……というように、イシュリアと四都市は上手く分立してやっているんだぁ」
ペンをカリカリと走らせるも、脳内は魔力を混ぜる事しか考えていなかった。
(……まずは魔力を、魔力を……)
「次に、セッカについてだがーー」
カリカリ、カリカリ。
ただ黙って、魔力を練る。黒板を見て、それをノートに写して。
「……ふむ。レテ君」
「!……はい!」
それを繰り返しているとスイロウ先生が唐突に声をかけてくる。
「今の君は授業に身が入っていないだろう。正直に答えて欲しい。責めているわけではないからなぁ」
「……はい」
当然の反応だろう、というようにスイロウ先生は頷く。
「……そんな君を予測したのか、私に任せて欲しいという先生がいてね。皆、少し待っていてくれぇ」
そう言ってスイロウ先生は黒板に一通り書いて、教室から出ていった。
そうすると、ニアが心配そうに話しかけてくる。
「やっぱり……魔術のこと?」
「まぁ、ね……」
「そりゃそうだな……。昨日はカッとなってすまねえ……」
ショウが謝ると、そちらに目線を合わせて自分は首を横に振る。
「いや、ショウが謝ることじゃない。自分だって冷静に居られなかったからね。
……というか、皆自分だけ特別扱いされることに不満は無いのか?」
そう問いかけると、皆キョトンとする。
「むしろなんでここにいるの?」
「え、えぇ……?ファレス……?」
「……今日サボるのかと思ってた」
「フォレス……?」
「……本の虫だからな、このぐらいの勉強は終わっているだろう」
「レンター、あのなぁ……」
「私もレンターに同意しますよ」
「ミトロ〜!?」
罵倒なのか褒め言葉なのかよく分からない言葉の嵐に机につっ伏す。それを見て、シアがクスクスと笑う。
「後でノート見せてあげるから、ね?」
「助かる……」
その背後でリアーも笑う。
「なるほど、レテ君の立ち位置っていじられキャラだったんだね!」
「リアー、違うからね!?絶対違う!」
そんな言い合いをしていると、扉が開く。
「待たせたなぁ。……それでは、お願いします」
スイロウ先生が丁寧な言葉で中に入れた人、その人は……。
「……ジェンス総長……」
「やぁ、久しぶりだね」
何故、という疑問が浮かんだがすぐさま後ろを向く。
「んー?私からいい匂いでもした?」
「いや、そんなに遠くまで香らないだろうから」
「えー!そこはお世辞でも良いからしたって言ってよー!」
そう言いながらも、ウィンクをするリアー。
その正体を知っていれば、どういう連絡をしたかぐらい分かる。
「……ではレテ君、行こうか」
「はい。……じゃ、皆また後で」
「うん〜また後で〜」
のんびりとしたダイナの声を聞きながら、教室を出た。
「……君は、リアーの正体を知っているのだね」
歩きながら話しかけられる。その言葉に対して肯定の頷きを返す。
「……ふふ、そうだろうな。でなければあんな反応はしない」
歩いて歩いて、着いたのはとある訓練場だった。
「……さて、レテ君。大方のことはアグラタムとイシュリア様より聞いている。
その上で問う。君の言う『秘策』とは何だ?」
「……言霊です」
そう答えるだけで、大きく頷いてくれた。
「なるほど。……しかし、言霊であっても魔術は魔術。魔力がないと扱えないのでは?」
「……これは前世の理論に基づきます。その点をご了承ください」
断っておくと、わかったという声が返ってきた。
「言霊とは、言葉に魔力を乗せて発言する事でそれを実現させるものです。
ですが、前世ではもっと分かりやすいものでした。
例えば、『明日は気温が高くなる』と多くの人がぼやけば、本当に暑くなりました。
『子供が出来るなら、双子が良い』と両親が本当に強く望めば双子が生まれました。
ジェンスさん。ここに、魔力の有無は関係あると思いますか?」
少し考えて、ジェンス総長は首を縦に振った。
「あるだろう、と私は思う。
なぜなら、それらは全て『偶然』の可能性が重なって出来たものだ。気温はともかく、産まれてくる子供が双子になるなど……偶然以外の何物でもない。そこに魔力の干渉がなければ」
「そう。その通りです。では、この次に生まれる疑問はここです。
『言葉にした時、使っている魔力はどこから来ているのか?』
人々は言霊という魔法を扱った訳ではありません。ましてや、全ての人間が魔力を有していたとして、扱い方を知っているわけではありません。ジェンスさんはどう思いますか?」
この問いに、ジェンスさんは少し考えてハッとする。
「……もしや、空気に漂っている……」
「そうです。より細かく言うなら、空気や動植物から生まれる全ての自然。そこに込められた微力の魔力に、願い……つまり、『強い想いの言葉』が乗ったとしたら?」
自分は言い切って、右手を空中に向ける。
「全てを切り裂く風の剣を、ここに」
そう言うと、自分の魔力が少しだけ減り。
暴風による砂嵐が晴れた時、右手には風の剣が握られていた。
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